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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
仕組まれた偶然と誰も知らない必然
28/59

No.4 歪んだ塔と蒼い剣 - 1

 


「...すげぇ。やっぱり近くまで来ると相当でけぇな」


 斜塔 アストリアの入口の近くまで来た頃。


「80層もあるもんね...」


 流石に80層もある塔を見て、首を真上にあげながらその迫力に感動すらも受けていたソーマは、そんな言葉をポツリと呟いた。


 仮想世界であれ、どんな場所であれ、スケールの大きいものを見た時に人は自分の全てに小ささを痛感するのもだ。

 特にこの世界は、普通の世界と何ら変わらない程精密に作られているので尚更である。


 そして、それを見ていたアリスは、上を見上げ、美しい空とそれに劣らない存在感を放つアストリアを見るソーマと同じように上を見ながらそう言った。

 目は変わらず上の方を向いているが、耳はしっかりそれを聞き取ったソーマは「ああ...」と反射的に彼女に応答した。


 会話があまりハッキリしない。

 それほどまでに、頂点は雲にかかるほど高く、壁は白いレンガで綺麗に積まれており、足元の地面にはフサフサの芝生と色とりどりの花が顔を覗かせているこの情景は美しかった。


 ここがダンジョンであると忘れてしまう程に。


 しかし──、


「なぁ、あそこのレンガ一つだけ持って帰っちゃダメかな。記念に家に飾っときたい」


「ホントにそんなことしたら怒るわよ。どうせ数日経ったらホコリ被るに決まってるでしょ」


 上げていた首をゆっくりと下げ、今度は斜め下の方を見るソーマ。

 そして、塔の2段目にある真っ白なレンガを指さして、まるで修学旅行で浮かれている男子のように馬鹿なことを言う彼は、ある程度の正気は保っていたアリスに口をムッ とへの字にさせながら注意するようにそう言われてしまった。



 そんな冗談めいた事を話し、途中で笑い合う2人。

 そんな風に仲睦まじく話す2人の背中を、ベルは暖かい眼差しで眺めていた。


 ※


「そ、ソーマさーん! アリスさーん! そろそろ行きましょう!」


 入口の横で塔を見上げ話していた2人の所には居ず、そこから少し離れた場所でダンジョンへ行く持ち物の確認や準備をしていたベル。

 彼女は口元に手を当てながら、出来るだけ大きな声で2人を呼び出した。


 それに気づいて左の方へ視線を移し、2人はベルの姿を捉えると「わかったー、すぐ行くー!」とソーマが同じ様な声の大きさで、右手を口元に当ててそう答えた。


 因みにその前ヒソヒソとなにかしていたベルは、先輩であるノエルに「2人と会うことが出来た」と報告をするために電話をしていたのだ。

 そしてそれが終わったのが2人が笑い合っていた丁度その時の事であり、「ではまた」と電話を切ってログから出ている青色の画面を閉じて今に至る。

 ログに表示されているデジタル時計は、3:05を示していた。


 そうして、アリスとソーマは入口のすぐ側にいるベルの元へ行き、3人揃って入口の前に立った。

 すぐ下を見ると小さな赤い花が1輪だけ咲いているのに気づいた。

 それだけでも綺麗だと思わせるのだから、花というのは凄いものだ。


 その後、真ん中にいたソーマが2人の顔を見合わせ、お互いに頷き合う。そして、斜塔の入口である大きな扉を両手で開けて中に入っていった。



 大きな扉を開け、何故か斜めっているおかしなダンジョンの入口に入って見るとそこには人が溢れかえっており、アイテムを保存するための箱や道具を買うための店、そして何故かわからないがバーの様なカウンターまであった。


「ここが...第1層?」


 プレイヤー達の笑い合う声が聞こえる。買い物をしていた者もいた。


 そんな空間を見ながら扉を開けて数歩前に進んだ時、ソーマは衝撃を受けて立ち尽くしてしまった。

 今まで大した入口のない小さなダンジョンやアーロックにしか行ったことが無かった彼は、まさか第1層にこんな所があるだなんて思ってもいなかったのだ。彼はアリスの方へと顔を向けて説明を求めた。


 こちらの方を向いて頭に「?」を向けているソーマ。

 それを見たアリスは、その姿が何だか面白くてプッ、と少し吹き出してしまった後で彼にこのダンジョンの説明をした。


「ここはね。第1層から第5層までが生活スペースになっているの。元々の設定でね」


 第1層の中央にある噴水のそばまで行き、話しながら上を見上げるアリス。

 アストリアの1~5層は、彼女が言った通り生活スペースになっており中央が5層の天井まで突き抜けているため、視線の先は広かった。


 そんな説明に「へー...」と驚きをまだ完全に収められていないかのように辺りを見回すソーマ。


 それに対し彼女は「その5層には色んなお店があるの。現実世界で言うショッピングモールみたいにね」と、まるでソーマ達を囲うようにして物が飾られている数々の店についてわかりやすく説明するために、そう補足した。



「まぁ、今回は時間もないのですぐにダンジョンへ向かうんですが、いつか時間があったらここを見てみるのもいいかもしれませんね」


 その後彼ら2人のの会話を聞いていたベルが、ワクワクしているのが顔と行動に出ているソーマに向かってはにかみながらそう言ったすぐ後、彼女は噴水の奥の方にある灰色の門を見ながら次のように言った。その門はアーチ上になっており、中には緑色の炎のような物が揺らめいている。


 そしてこれもまた、ソーマを驚かせることになる。


「それでは、5層まで一気に行っちゃいましょうか」


「うん、そうだね。いちいち一層ずつ見ていたらもう日が暮れちゃうし」


 そうして噴水に沿って逆側へと歩いていき、そこから前進して灰色の枠の前に止まる3人。

 この炎の使い道がよくわからないソーマは、塔に入ってからと同じように2人の様子を伺っている。


「じゃあ、行きましょうか」


「ま、まて、これって何の魔法だ?」


 ソーマは質問した。それに対しアリスはいつものように明るい顔で答えた。


「ここはね、ショッピングモールで言ったらエレベーターみたいにすぐ上まで行けるところなの。門の中に入って、そこで何階に行きたいか頭の中で考えればそこにテレポート出来るって言う仕組み」


「そんなのもあんのかよ...」


 それに対しても、やはり初めて見たソーマは衝撃を受けており、凄すぎてため息をつくように呟いてもいた。


「じゃあ、また上で」


 そんな風に感心している内にもうドアに手をかけている2人はソーマにそう声をかけて緑色の炎に飲み込まれていってしまった。

 今頃はもう5層についているのだろうか。


 そして、何階に行きたいかを考えるなどと大雑把に言われても使い方をイマイチ理解出来ず、ただただ置き去りにされた少年。


 彼はゆらゆらとこちらを誘っているかのような炎を少し見つめてから「やってみるか...」と今までのことに驚きすぎて半ば呆然としながらも、その炎に足を踏み入れる準備をしていった。



 その塔は二大ダンジョンとは言えども、形も中身もアーロックとは異なる点が多い、似て非なるダンジョンであった。



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