⑧ドラゴン―――トリル
全8話に及ぶ「分霊の書」シリーズの第8弾。書は『ドラゴン』、著はトリル。
『神代』、『デス・トゥルス』、『契約百戒』、『日暮語』と並ぶ『黄昏』の別冊5つの内の1つ。その中でも『ドラゴン』は竜に関する神話・伝承が詳しく書かれた全三十段の説話集で、全てトリルの推測も交えるなどして、本書の対応する段に繋げて締められる。
今回はその中から第3段『黄昏』で紹介した第二十三段「闇をただ恐れるべからず」へ繋がる第十八段「神と竜殺しの契り」を抜粋。話は物語調で進められるが、最後は変わらず本書第二十三段に繋がるので楽しみながら読んでほしい。
ある異界に、光ノ島と呼ばるる楽園あり。この島、皇帝フリットが領す国を成したり。その名、「ジルド皇国」と言うなり。
さて、その国に「竜殺し」と呼ばれる男ありけり。名をバルムと言い、彼、常に竜を滅して数多の金を得、島東に砦築き、そこに住まいて、また城下を見下ろしたること怠らず。それ、彼聖人が故に人を助けるためなり。
その手にあるは神より授かりし至高の魔剣。名をグリム、竜を斬るべくして与えられける剣なり。バルム、これまで此を扱いて幾多の竜を倒したり。故、彼は常に「我この剣あれば敵うものなし。」と言いて、これを信じ疑わず。
そして、バルム、常にのごとく城下を見下ろしたると、街を無数の竜が襲うのを見る。彼、「かくはいといみじ。我が最も強きことの示すべき時なり。」と言いつつ、砦の窓より飛び降りる。
まず、バルムはフリットの元へ行く。フリット、「この度も、そなたに竜殺しを任さん。これ、そなたの力を信じてのこと。神より授かりしその魔剣、存分に使い給え。」と言えば、「承わりて、今行く。」とつくばうを止め、鞘より剣を抜きて、街に出る。
されど、既に地には焼ける死体が多く転がりてバルム、先に王に会いたことをいと悔やみた。そして、さらなる死体は出さぬと空に飛び出す。上へ、下へ、左へ、右へ。バルム、魔剣を振りてただ竜殺しに貪る。次々、竜は倒れるが諸人もこれに同じ。竜のと共に増えゆくを留まらぬ人のはその心へいみじく傷を与えり。
街はいよいよ炎に包まれ、常に動きたるバルムの力も弱まりつつあり。ただ、人を助けんとするは一度も弱まらず。既に死にたる者を見、目前にて死ぬ者を見んともその心、変わることはなし。変わらずとも手のと届かぬ絶望は密かに増し、ついに「強き剣などありて、強き力などありても救えなければ意味などなし。」と今までになく己を疑えり。その目、常に己を最も強しと鼓舞したる頃の面影一つもなし。
彼、只人ならばこの絶望に負けのみであるべし。されど、彼、只人ざれば絶望はすれども、諦念することはなし。目の前に来るは竜どもに襲われる数多の人々。バルム即ち飛び出し、されど間に合うことあらざらん。それでも人々助けんとした彼に魔剣作りし鍛冶の神は機械を与えられ給う。時は止まりて、バルムのみ動くこと可能とす。
神、「彼ら救うべくには神との契約を要するなり。その契約、そなたに全て救いうる希望の力を与え、今もこの後も多くを救えれん。一方、死した後は何をせんとも神類に従わねばならぬ呪いでもあり。それでも、そなた生きる間は多くを救いたらんや。」とのたまう。これに「よき。我、契約を交わす。故、我にその力を与え給え。」と答えれば即ち望んだ力を得る。
さて、再び時は動き炎が地を焼くがそこに人々なし。バルム、全て救うを成して背に彼ら控えていたり。「神より剣を授かり、さらに救うため力を授かりた。いと、ありがたし。」と言いつつ彼は再び飛び出し全ての竜を倒すを成した。
その後、王よりさらに金を得たるがその多くを街を戻すに使わんとした。彼、生きる限り聖人たるを譲らざれり。
されど、死すれば彼、悪たるを強いられる。初め、善神に善なる行いを命じられるが、やがて邪神にみいられ、その神の悪なる命にただ従う他になし。その内の1つ、世と世の境綻ぶ黄昏の時、さらなる綻びを生むことなり。
この伝説故に、黄昏には本書二十一のごとく、怪物現ると人々信じるもや。




