⑥邪悪なる天使と聖なる悪魔―――レクイエム
全8話に及ぶ「分霊の書」シリーズの第6弾。書は『邪悪なる天使と聖なる悪魔』、著はレクイエム。
この物語において、天上は神と天使、悪魔の雑居する地として描かれ、また、冥界を悪魔が発見し、支配したものとされる。
物語は天使による圧政の末に天使と悪魔の立場が逆転し、やがて悪魔も圧政を行い元に戻り、最終的には天使、悪魔が地位を失うという流れを取る。
この流れの解釈として、当時、絶対王政下にあったレクイエムの出身国・バートル神帝国への婉曲的な政府批判と革命の注意喚起をしたものとする逆説的護国説と、それまでに人類が行ってきた過ちの繰り返しを訴える過誤再三説、あるいはその両方とする護国再三両立説が最も有力な説である。
過誤再三説とした場合、二度も起こった世界大戦など、護国再三両立説とした場合、イギリス清教徒革命後のクルムウェル独裁など様々な物事に通じるものがある。
原作はバッファル古語で書かれるが、ここでは古典学者のヨハンにより現代語訳された復刻版が中略を挟んで一部を抜粋。紹介した三説それぞれの解釈で三度これを詠んでみるのも面白いかもしれない。
かつて、天使と悪魔が天上に雑居した頃。神より御使いの権を与えられていた天使は下界に「善」として多くに崇められ、一方、悪魔はその権を得ずして下界には「悪」として少なく狂人に崇められていた。 いわば、天使とは《神聖》の象徴であり、悪魔とは《邪悪》の象徴であった。
そして、聖なる天使はいつしか邪悪なる悪魔を下等と見下すようになっていた。ある天使はその権を以て彼らを奴隷とし、ある天使は彼らを遊戯がための道具とし、またある天使は彼らを害して愉悦を得た。他にも足蹴を様々に合い、堪えることを棄てた悪魔は神に訴えを起こすこととした。
「あぁ、慈悲深き我らが母よ...。願わくば御使いの権を天使様より我らにお移しください...。」
時点の悪魔長、モドゥリットは神の前に跪き、丁重に天使が権の没収、悪魔へのその譲渡を欲するのであった。神も既に傲る天使らに疎みを感じていたために、
「よい。そなたらの願いを叶えよう。」
とこれを受諾した。
さて、御使いの権は神のに近しき権。しかし、所詮はその権も神に支配される権。神が命には反することができぬようになっているのである。
「全ての天使に告ぐ。早急におのが御使いの権を神に返上せよ。」
神はそう告げるだけで全天使から御使いの権を取り上げ、続いて悪魔へこれを分配した。
ここで天使と悪魔、その立処は逆転する。天使は「善」として多くから「悪」として狂人へ、そして、象徴するは《邪悪》へと変化した。一方、悪魔は「悪」として狂人から「善」として多くへ、また、象徴するは《神聖》へ変化した。
神、及びその従者は神、あるいは従者そのものの崇拝総体が強ければ強いほどに力を増す。神は無論、これにより崇拝者の増えた悪魔は以前よりも強大な力を得、様々な偉業を成した。
まず、天使を奴隷としてでなく、家臣として悪魔の傘下とした。つまり、天使は悪魔の従者となり、「善」として悪魔崇拝の恩恵を得ることができた。天使は御使いの権は持たぬものの、その力は堅実にその強さを増していた。
次に、悪魔は冥府を見つけ、神はその支配を悪魔に任せることとした。受けて悪魔はモドゥリットを王に死国を建て、「善」の霊を天に、「悪」の霊を冥に納める死者選定を編み出した。このことで、天には「善」に溢れ、冥には「悪」が眠ることとなった。
そして、「悪」は冥府に蓄積する。
* * * * *
(中略)
* * * * *
この後も、続く悪魔の偉業が貢献し、しばしばあった天使と悪魔の不和も失せ、天上、冥府はともに平和となる。だが、この平和がために神々の年にして数万ほどの年を要した。天使、悪魔は不死の神にはあらず、命は長けれど、数万の年も経れば酷く衰えるものである。そもそも、世の神ならざるものは全てそこに永久はない。
そして、永久がないのはこの平和も同じことであった。冥府は世代が交代し、全てが一新された。しかも、そこで新たに冥府を納めたのは悪魔の内、天に雑居する悪魔より選ばれた霊の管理者である。かつて、彼らは「善」に囲まれ、「悪」への免疫など微塵もなかった。そのため、悪魔には再び、旧来の性質を取り戻し始める。
やがて、悪魔は天使を傘下から外して力を弱め、彼らへの復讐へと移る。ある悪魔は天使を僕とし、ある悪魔は天使を道具とし、またある悪魔は天使を拷問にかけて愉悦を得た。天使はこれに堪えかねて、かつて悪魔のしたように神に訴えることとした。
「あぁ、我らが母よ...。今一度、我らに御使いの権をお戻しください...。」
時点の天使長、ミジビビックは丁重に悪魔から天使への権の奪還を欲するのであった。神は既に傲る悪魔に疎みを感じ、しかし、再び天使が傲らぬかとの危惧も感じていた。
「よい。そなたの願いを叶えよう。」
それでも、神は疎みが勝るとこれを受諾した。
「全悪魔に告ぐ。早急におのが御使いの権を神に返上せよ。」
言うと、冥府に住まう悪魔からも含め、御使いの権は全て神に集まり、天使らに分配される。
しかし、やがて神の危惧は現実と化す。天使はかつてのごとく、悪魔を足蹴とし、再び悪魔が神に欲するに至る。しかし、神は二度目を与えることはなかった。
「では、そなたの願いの半分のみを叶えよう。」
それどころが天使から御使いの権を没収することのみを叶え、天上にも冥府にもその権を有するものは失せていた。
そして、天使も悪魔も崇拝する者はただの1人も失くなった。




