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今日は試験の結果発表だ。
私は馬車に乗り込み窓を開けた。
すると肌寒い風が車内に吹き込んだ。
・・・もうそろそろ秋も終わり、冬がやってくる。
凍てつく寒さに耐え忍ぶ虫達を考えると心が痛くなった。
実は昔、寒さから開放しようと虫を集めた事がある。
けれどそれは、ダメな事なんだと父から教えられたのだ。
「キティ、野生の中で生きるもの達への過度な介入はダメだよ。
それは、自然の摂理に反するからね」
そんな懐かしい父の言葉を反芻していると学園へと到着した。
(さぁ、心して結果を見ないとね)
意気込んで馬車を降りて歩き出した私に、後ろから声がした。
「キティ、おはよう。
昨日は世話になった」
「サイラス様、おはようございます。
こちらこそ付き合わせてしまってごめんなさい」
すると彼は私に手を差し出したので、私も彼の手に重ねた。
「今日は結果発表だ。
今回は見送る事にしたが、一緒に見に行こう」
「はい。でも、サイラス様が一位だと思いますよ」
けれど、その言葉にしかめ面をしたのだ。
(・・・え?なにその顔は?)
すると、急に私の手をギュッと握った。
「・・・実は僕も、あまり集中出来なかったんだ。
だから、お互い様だな」
そう言って手を引く彼の横顔を見つめて考えた。
(・・・勉学が何よりも大事な彼が、集中出来ないほどの事があったのだろうか?)
そんな疑問を抱えながら彼について行くと、掲示板の前には人集りが出来ていた。
「キティ、行くぞ」
その言葉を合図に、群がる人の波にどんどんと入って行く。
そして掲示板の目の前に立った私達が見たものは、驚愕の内容だった。
【一位 ベリック・ガーランド】
(・・・え?ベリックって、あのベリック様よね?)
そして、二位が私で三位がサイラスだった。
(サイラス様が三位!?
やっぱり、大変な事があったに違いない)
私は恐る恐る彼を見上げた。
すると呆然と掲示板を見上げている。
(・・・どうしよう。なんて声を掛ければいいの?)
その時、彼が呟いた。
「・・・なんでベリックが一位なんだ?」
・・・確かに。
今までベリックが、トップ十位に張り出されているのを見たことない。
「私もよく分かりません。
・・・それよりも、サイラス様?
やっぱり、何かあったんじゃないですか?」
彼は私を見下ろしたあと、目を逸らした。
「今はもう解決したから大丈夫だ。
それより、ベリックに会いに行こう」
そう言ってDクラスへ向かうと、ベリックは既に席に座り、鳥の図鑑を眺めていた。
「ベリック!」
「あ!二人ともおはよう。
そんなに慌ててどうしたの?」
いつもと変わらない様子のベリック。
「お前が一位って、どういう事だ?」
「うん。・・・なんか、ごめんね?
君達がゴタゴタしている隙に、一位を掻っ攫ったかのような感じになっちゃって。
・・・でも、これが最後のチャンスだと思ったんだ」
その言葉にサイラスは眉を寄せた。
「なに?」
「サイラス君なら分かるかな?
俺達高位貴族は、責任と義務が付き纏うだろう?
だけど俺は、好きな人を選び、好きな事をして生きて行きたい。
それを親に伝えたら、それに見合う条件を達成しろって言われたんだ」
そう言い終えて、笑みを深めたベリック。
「それが、学年一位か?」
「うん、まぁね。
もちろん親は、俺が一位を取れるなんて、はなから考えていないから許可が出たんだけど、まさか本当に取れるとは自分でも驚いたよ」
「そうか。
じゃあ、だいぶ頑張ったんだな」
「そりゃあね。
キティ嬢は元気なくて心ここにあらずだし、サイラス君はそんな彼女が気掛かりで勉学に手が付かない。
・・・けど君達二人なら、それを加味しても、かなりの点数を取ると思ったんだ。
だから俺、本当に頑張ったんだよ」
その言葉で、サイラスの不調が自分のせいだったのだと理解した。
「サイラス様。私のせいでごめんなさい」
「いいや、君のせいじゃない。
ベリックも余計な事を言うな」
「うん、ごめん。
でも俺は、全力の君達に勝つ事は多分出来ないからね。
それに、もう研究時間を減らすのはまっぴら御免だよ」
そう言ってハハっと笑った。
そしてサイラスが自分のクラスに戻って行くのを見送り、ベリックへ話しかけた。
「遅くなりましたが、ベリック様、おめでとうございます」
「ありがとう、キティ嬢。
これで俺は自由だよ」
「・・・それは、家督を継がないという事ですか?」
すると彼は、考えを整理するように話し始めた。
「俺には弟がいるからね。だから譲ろうと思う。
・・・けど、弟が望まないのであれば、その時にまた考えるよ」
「・・・弟さんは何歳なんですか?」
「まだ可愛い盛りの5歳だ。
だからひとまずは、俺が継いでから譲る事になるのかな?」
宙を見ながら未来に想いを馳せている彼は、なんだか幸せそうに見えた。
「あ!そうだ、キティ嬢。
また鳥の餌が欲しいんだけど、今日付き合ってくれない?」
「・・・ええ。もちろん構いませんよ。
では後ほど、一緒に行きましょうか」
そして私達は、互いの研究対象に心惹かれるのであった。
ーーーそしてあれから日は経ち、クラウドが旅立つ日となった。
彼の荷物が馬車へと運ばれて行くのを横目に、家のエントランスの前に立つ私は、クラウドへ話しかけた。
「クラウド君。帰っても元気で過ごして下さい」
「ありがとう、キティ。
毎日会えなくなると思うと胸が痛いよ。
ボクが言うのもなんだけど、キティも元気でね」
「はい」
私の返事を聞いた彼は頷き、父母に顔を向けて挨拶をし始めた。
とてもあっさりした別れに、これが最後という感じがしない。
(・・・けど、まぁいいか)
昔の優しい彼は好きだったが、今までの事を許す事は出来ない。
(こんな感じが丁度良いのだろう)
私は父母とクラウドの最後の別れに目を向けながら、近くに虫が飛んでいないかと探すのであった。
「じゃあ皆さん、本当にお世話になりました」
そう言って、馬車から手を振る彼をみんなで見送る。
家の門を出て行き、既に跡形もなく見えなくなった頃に、父が口を開いた。
「・・・キティは、クラウド君と何かあったのかな?」
「・・・え?何でですか?」
父は門を見つめたまま呟いた。
「昔と違って、泣いてないからね」
「えっと、私ももう大人になりましたから、流石に泣いたりしません」
すると、今度は母が口を開いた。
「・・・そうね。
もう大人だから、なんでもかんでも私達に言う必要はないわ。
けどね、いつでも私達親は、貴女の味方なんだと知っていて欲しいの。
どんなキティちゃんでも、受け入れるって事を忘れないでね」
それは、親を信じ切れずに恨んでいた私の醜い心を知っているのではないかと感じさせる言葉だった。
「・・・はい。
絶対に忘れません」
私は、既に閉まってしまった門に目を向けた。
(自分が思っていたよりも、父と母は私をよく見てくれている)
その事実が、私の胸を熱くさせたのであった。




