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私は今、彼の屋敷でメリーナに磨かれていた。
一度素顔を晒しているので、もうメガネを掛けて風呂に入る事はしない。
メリーナは気を遣ってか、私をとても美しいと言ってくれる。
やはり、公爵家のメイドの質は高いようで感心した。
こんなに醜い私でも、顔に出さずに褒めてくるのだから・・・。
ーーーそして先週の休日は、彼に家へ来てもらい、ナナフシの研究をしたのだ。
捕まえた日から私は毎日毎日お世話し、やっと皮を手に入れた。
ナナフシは脱皮すると体力回復の為、自分の皮を食べてしまう。
だからと言って、無理やり取り上げる事も出来ないので、食べ残しが出るまで根気強く待ったのである。
まぁ、研究結果は私の求めている薬効などの成分は発見出来なかったのだが、楽しかったので良しとしよう。
まだ調べていない虫に希望を託して、日々精進である。
ーーーそして私は、ヘアメイクと化粧が終わり、ドレスを着せてもらう段階に入った。
前回とは違い、黄色の可愛らしいドレスに気が引ける。
(・・・これ、私が着て似合うのだろうか)
綺麗な刺繍が施され、上質な布で作られているのが分かるからこそ、何だか申し訳なく思う。
メリーナに綺麗に着せてもらった私が部屋で待っていると、彼が入って来た。
「うん、準備が整った様だな。
黄色も似合うじゃないか」
彼からの初めての褒め言葉に驚いた私は、その真意を知りたくなった。
「サイラス様が褒めてくれるなんて初めてですね。
何かあったのでしょうか?」
すると、心外だという顔を向けた。
「婚約者が着飾ったら褒めるのが当たり前だろう?」
(・・・だって、前回は何もなかったではないか)
あの時の彼は、私の素顔に落胆していた事しか思い出せない。
だが、今更それを言うのも憚られるので、無難に返した。
「そうですか。ありがとうございます」
すると、彼から思ってもみない一言が返ってきた。
「キティ、メガネを外してもらえるか?」
(・・・え?何でまた)
「どうしてですか?」
「それは・・・僕が見たいからだ」
この人は何を言っているのだろう。
前回、私の素顔を受け入れてくれなかったクセに。
なんだか、また胸がモヤモヤしてきた。
「見せる様な顔ではありませんので、嫌です」
「何故だ?」
「私の顔は・・・」
(とても醜いから・・・)
俯く私に、彼のため息が聞こえた。
「そんなに嫌ならいい。
・・・無理を言ってすまないな。
では行こうか」
そう言って、腕を差し出す彼の顔が傷付いて見えたのは、私の気のせいだろう。
(・・・だって、彼が傷つく理由なんてないのだから)
彼の腕に手を重ねた私は、馬車までエスコートをしてもらったのだ。
ーーーロワダール侯爵家は、童話に出てきそうな、とてもメルヘンチックなお屋敷だった。
(わぁ!可愛らしいわね)
馬車から降りた私達は、エントランスをくぐると、ロワダール家の方々が出迎えてくれたのだが、そこには見知った人がいたのだ。
「やだ!なんで、虫女がいんのよ!」
(・・・彼女は確か、ぶっ倒れる演技が得意なマーヤさんだ)
すると、マーヤの父が今の言葉を叱責した。
「マーヤ!お客様への口の利き方がなってないぞ。
ーーー失礼致しました。
ようこそおいで下さいました。
アーベンスロット公爵令息様とその婚約者様。
今日はどうぞ、楽しんで頂けたら幸いにございます」
「ご招待頂きありがとうございます。
是非楽しませてもらいます」
彼の挨拶が終わり横を通り抜けようとしたら、マーヤが囁いた。
「アンタ、いい気になるんじゃないわよ」
その言葉に振り返るが、彼女は既に別の客人を出迎えていた。
(・・・なんか、面倒な事になりそうなんだけど)
私は人知れず、ため息を吐くのであった。
そして今回は晩餐会なので、ダンスはない。
社交がメインの会になる。
私と彼が二人でいると、色々な人が話しかけて来た。
「アーベンスロット公爵令息様ではないですか。
ご無沙汰しております」
「こちらこそ、ご無沙汰しております。
マーレイン伯爵は、お変わりありませんか?」
「ええ、まぁ。
実は私、先日結婚しまして、こちらが妻のコリーナと申します」
そう言って、隣の小柄な女性を紹介した。
「コリーナです。
どうぞ、お見知り置き下さい」
可憐なカーテシーを披露した。
「おめでとうございます。
とてもお幸せそうで、羨ましい限りですね」
すると、マーレイン伯爵が私に目をくれた。
「アーベンスロット公爵令息様のお隣にいる方はどなたですか?」
「ああ、失礼。
婚約者のキティです」
その瞬間、二人の顔が引き攣るのを私は見逃さなかった。
だから、完璧とまで言われたカーテシーを繰り出したのだ。
「キティ・メリーウェザーと申します。
よろしくお願い致します」
すると、コリーナが口を開いた。
「メリーウェザー家は美容品を扱う製薬会社を営んでいるんですよね?
女神の様に美しいエリザ様が広告塔をされておりましたが、どういったご関係なんですか?」
(・・・またこの質問か)
「私の母になります」
すると、皆決まって同じ顔をする。
(全然似てないじゃん!って顔だ)
その反応に慣れた私は、いつから何とも思わなくなったのだろうか。
すると、彼が口を開いた。
「僕は、彼女がどんな格好をしていても関係ないのですよ」
「それはそれは、確かに綺麗なカーテシーを披露して下さいましたし、きっと中身が素晴らしい方なのですね」
マーレイン伯爵は、それが失礼な言葉とは微塵も思っていないのだろう。
「・・・マーレイン伯爵。
中身だけじゃ無い。彼女はとても美しい女性ですよ。
それでは、失礼します」
私をエスコートしながら、その場を離れる彼に囁いた。
「マーレイン伯爵の言う事は当たってますよ。
かなり言い方が失礼でしたけど」
彼は前を真っ直ぐに見ている。
「いいや、全く見当違いだ。
だが今は、僕だけが知っていればいい事だ。
けど、あまりの言い様に我慢出来なかった」
今の話だと、彼は私を美しいと言ってくれているのだろうか。
(もしそれが本当なら、嬉しい)
けどそれと同時に、心の中で誰かが囁いた。
【君は醜い。だから勘違いをしてはいけないよ?】
その言葉にハッとする。
(そうだ。私は醜い。勘違いをしてはダメだ)
私は深呼吸をした。
(彼は可哀想な私を庇っただけ。そう、ただの同情に過ぎない)
少し胸がチクっとするけれど、私はそれに気づかないフリをしたのだった。
ーーー食事を摂りながら彼と二人でいたら、挨拶を終えたマーヤがやって来た。
「アーベンスロット様、今日はお越し頂きありがとうございます。マーヤ、感激です!」
「ああ。より多くの人に、婚約者を紹介したいから参加させてもらった」
その言葉に、マーヤの口からギギギと歯を食いしばる音が聞こえた。
「で、でも、アーベンスロット様は、仕方なくその虫女、いやメリーウェザーさんと婚約されたんですよね?」
(今、完全に虫女って言ったよね?せめて、むしおまでで留めるのが普通じゃない?)
すると、彼の眉が寄った。
「君には関係ないよ。ロワダール嬢。
それに、仕方なくじゃない。
僕が望んだんだ」
(うん。確かに彼からの提案だったからね)
そんな彼の態度に、マーヤがいきなり演技をし始めた。
「そ、そんな事って・・・」
バタン!
「嘘よ。誰か、嘘だと言ってーーー!」
(やっぱり、ぶっ倒れ方が一流だ。
私なら怖くて、躊躇なく後ろに倒れられない)
今日は相方がいない為、誰も抱き起こさないのを不憫に思った私は、声を掛けた。
「マーヤさん?大丈夫ですか?」
するとキッと目を見開き、睨み付けた彼女が怒り始めたのだ。
「誰のせいだと思ってんのよ!全部全部、アンタのせいでしょ!!」
でかい声で言うものだから、彼女の父が来てしまった。
「マーヤ!!そんな所で寝そべるなんて、何を考えているんだ!」
そう言う父に連れて行かれるマーヤを目で追う。
(やっぱり、子が子なら親も親である)
マーヤの大きな声量は親譲りなのだと知ったのだった。
そして気を取り直した私達は、食事を再開させた。
大体の人に顔見せは終わったので、後はキリがいいところで引き上げれば、今日のミッション達成である。
食事も美味しいし、大満足の私は、辺りを見回した。
すると、忘れもしない物を見つけたのであった。




