↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虫好き令嬢の難儀な婚約事情  作者: こさか りね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/38

14

「ではキティ、また明日な」


「はい、サイラス様。また明日」


馬車停で別れるまで恋人のフリを続けた私達は、それぞれの馬車へと乗り込んだ。


後ろの小窓から覗くと、彼が言っていたように、彼女がこちらを静かに見つめていた。


(・・・同情は禁物。

さぁ、小説に目を通さないと)


私は視線を恋愛小説へと向けたのであった。


ーーー屋敷に着いた馬車から降りた私は、自室へと急いだ。


(ナナフシちゃんは元気にしているかな?)


籠の中を覗くと、ちゃんと枝と同化していた。


(元気そうで良かった)


私は新鮮な葉を入れてやり、ナナフシを観察しながら、恋愛小説の続きを読む事にした。


(・・・それにしても、さっきから同じ内容を繰り返している様に感じるのは、私だけかしら?)


シチュエーションは違えど、結果は同じなのだ。

毎回見せつけられて傷付くの繰り返し・・・。


(こんな適当な男なんて、さっさと見切りをつければいいのに・・・)


完全に時間の無駄である。


そして読み進めていくと、ラブラブのバリエーションの多さには感服した。


(すごいわね。私の知らない事だらけだわ)


取り敢えず、頭に叩き込んだ私は本を鞄にしまい、動き始めたナナフシの観察に注力したのであった。


ーーーその後の夕食の席で、私はマッシュポテトを口に入れた。


すると、ステーキを切り分けている母と目が合った。


「キティちゃん?

来月の舞踏会で着るドレスの仮縫いが終わったそうよ!

本縫いに入る前に一度来て欲しいって、あちらから連絡があったわ」


「それは、私じゃなきゃダメでしょうか?

お母様なら、私のサイズをバッチリ把握しているので伝えて頂けませんか?」


母が切り分けたステーキをフォークに刺した。


「そんなのダメに決まっているでしょ?

あちらが整えて下さるのだから、要望に応えなくてはいけないわ。だから、明日行ってらっしゃい」


私はスプーンでオニオングラタンスープを食べていると、またしてもズズッと音が鳴ってしまった。


「あ、明日ですか?また急すぎて予定が・・・」


「キティちゃんの予定って、何かしら?

内容によっては、別日に変更してもらえる様にお手紙を書くわ」


そのニンマリとした顔には『どうせ虫でしょ?』と書いてある。


(・・・く、悔しい)


明日の昼は彼の用件で潰れるから、放課後は研究室に行こうと思っていたのだ。


(放課後も潰れたら、何の楽しみも無いじゃない)


オニオングラタンスープを見つめながら考えていると父の声がした。


「キティ?何もないならママの言う通り、サイラス君のお家へ行っておいで?」


(・・・なんか、ないかな。大事な用事・・・)


とその時、またしても閃いてしまった。


私の頭に過ったのは、先程の恋愛小説だったのだ。


「お母様、お父様。

明日は、サイラス様とデートの約束をしているのです。だから、難しいですわ」


すると、ステーキを飲み込んだ母がナプキンで口を拭った。


「あら!そうなのね!

そうなら、もっと早く言って頂戴。

じゃあ明日の件は、デートがあるので難しいって書いておくわね」


(・・・あれ?なんかマズったかもしれない)


デートと書いてしまったら、一人早く家に帰って来た彼を見たご両親は変に思うはず、するとうちの両親にも連絡が来るのは必至。

それ即(すなわ)ち、バレて怒られる。


今更、やっぱり違いますとは言えない私は、どうすればいいのかを模索する羽目に陥ったのであった。


*   *   *   *   *


(やっぱり、デートに誘わないとマズイかな?)


結局何も代替え案が思い付かなかった私は、お昼休憩になったので彼のクラスへやって来た。


覗くと、やはり彼女がピタリと張り付き、一人で話しかけている。


だから私は、本に書いてあった通りに彼を呼んだ。


「サイラス様、お待たせしました」


そして彼は振り向き、私に笑顔を向ける。


「キティ、待っていたよ」


本当はここで彼が愛を囁くのだが、難しい為に省略だ。


すると言わずもがな、クラスの騒めきが増した。


「な、名前を呼び合っているわ・・・」


「アーベンスロット様!そんな虫女を名前で呼ばないでー!汚れてしまうわ」


(・・・人聞きの悪い事を大声で言わないでほしい。

何に汚れると言うのだ)


私は彼に視線を戻すと、にこやかにやって来る彼の後ろには、彼女が映っていた。


その瞳は確実に私を見つめている。


(・・・これって私、殺されないよね?)


その目には、傷付いたような色はない。

それとは逆に、敵意むき出しだ。


私のもとへ来た彼は、手を差し出した。


「さぁ、行こうか」


私は彼の手に自分の手を重ねて歩き出した。

そうして寄り添い歩いていると、彼が耳元で囁く。


「結構いいんじゃないか?」


「そうですね、雰囲気は見せられていると思います。

ですが、彼女の顔は傷付いた様には見えませんでした。

それよりも、私に憎悪を感じている様です。

・・・それに私、身体戦は不得意なので、向かって来られたらすぐに倒されてしまうんですが・・・」


「いや、流石に暴力はないだろう。

そんな事になれば、学園に居られなくなってしまうからな」


私達は、階段を降りて食堂へ向かう角を曲がった。


「でも、昨日読んだ小説もそうですが、愛や恋の前では、モラルなんて吹けば飛ぶような物に成り下がるのです。

それに彼女の顔には【怨】という文字が見えました」


その言葉に彼は眉を寄せた。


「・・・分かった。

そんな事にはならぬ様に細心の注意を払う」


それに頷いた私は、食堂の入り口をくぐったのであった。


ーーー食べたい物をトレーに乗せて席に着くと、少し離れた所に彼女を見つけた。


やはり、私をジッと見つめている。


私はそれに気付かぬフリをして、彼を見つめながら食事を開始した。


すると彼は、周りを軽く見渡した。


「・・・本当に君を見ているな」


私はチキンのトマト煮をフォークに刺した。


「はい。余程、頭に来ているのだと思います」


「だが、君に危害は加えさせないから安心してくれ」


その言葉を不思議に思った。


「それって、どう対処するんですか?」


彼は白身魚のソテーを切り分けている。


「もちろん、君から目を離すつもりはない」


(え?それはそれで嫌なんだけど・・・)


「そこまでしなくても大丈夫ですよ。

それに私、放課後は虫取りとかしますし、サイラス様の勉学が疎かになってしまいます」


すると彼は人差し指をピッと上げた。


「この任務中は勉強どころでは無い。

だから、君に付き合おう」


その言葉に、昨日言ってしまったデートの件の解決策を見出した。


「話は変わりますが、先日のドレスの仮縫いの件で、何か聞いていますか?」


「そう言えば、昨日母が言っていたな。

それがどうした?」


「本当は今日、本縫いの為に伺う筈だったのですが、どうしても研究室に行きたかった私は、両親に嘘をついてしまったのです」


彼はホタテのマリネに手を伸ばしていた。


(・・・魚介類が好きなのかな?)


「で、どんな嘘なんだ?」


私は、アスパラのチーズ焼きに目を付けた。


「はい。サイラス様とデートするって言ったんです」


すると、彼のフォークに刺さっていたホタテが皿の上に転がった。


「・・・だからか」


「何ですか?」


再度ホタテを刺した彼が告げた。


「朝、母から言われたんだ。

『今日は楽しい一日になるわね』って。

何の事か分からない僕は、適当に相槌を打って出て来たんだ」


母達の伝達網(でんたつもう)の速さが恐ろしい。


「なのでサイラス様。今日は、虫取りのデートをしましょう」


「・・・ナナフシをつい先日取ったろう?」


私は人差し指をピッと上げて振った。


「ナナフシは脱皮するまでの経過待ちです。

ですから次は、まだ発見に至っていない虫を探そうと思います」


「・・・そういう新種の虫は、熱帯雨林とかにいるんじゃないのか?」


「すごい!よくご存知ですね!

私もいつかは行ってみたいと思っているのです。

あっ、話を戻しますね。

確かに、新種は人の未開の地に生息している事が多いと言われています。

ですが私は、稀に現れる突然変異や雑種を見つけられたらと考えているのです」


すると彼は、コーヒーに手をかけた。


「虫の知識がない僕に、見分けがつくとは思わないんだが?」


それに私はニンマリとして彼を見つめた。


「大丈夫です!貴方様はきっと、虫を見つけるのがお上手。

ですので、目についた虫を網で捕まえてください。

判別は私がします」


「・・・なんだか、全く嬉しくないんだが。

まぁ、約束したし、今日の放課後は付き合うよ」


その言葉に嬉しくなった私は、すっかり彼女の事を忘れてしまったのだった。


ーーーそして授業も終わり、ルンルン気分で研究室を目指す。


中へ入るとナタリア先輩がいた。


「こんにちは先輩」


「あら、キティちゃん。何だか久しぶりね。

それに、後ろの方は誰かしら?」


私は彼を紹介した。


「一緒に虫取りをしてくれるサイラス様です。

では、早速行ってきます」


私は自分と彼の鞄を置いて網とカゴ、手袋を持ってから研究室を後にした。


すると、横を歩く彼が問い掛けてきた。


「さっきの綺麗な人も虫の研究をしているのか?」


「いいえ。

ナタリア先輩は、両生類の研究をしています。

そして、ベリック様は鳥の研究です」


「ベリック?・・・ああ、前にいた男か。

けど、あんな美人が両生類の研究とは・・・。

想像が出来ないな」


うーんと唸る彼が何を考えているのかは、私には分からなかった。


外へ出ると、初夏の風が吹き抜け、草花の揺れる音が耳に届いた。


(さぁ、楽しい楽しい、虫取りの時間よ)


「サイラス様は、この網で捕まえて下さい。

捕まえたら私を呼んでくださいね」


彼は網と手袋を受け取りながら問い掛けた。


「飛んでいる虫と地面にいる虫、どちらを探せばいい?」


「では、サイラス様は背が高いので、高い場所にいる虫をお願いします」


こうして虫取りが始まった。


そして、夢中になると周りが見えなくなる私は、しゃがみ込んでいると肩に手を置かれて揺すられたのだ。


「おい!聞こえているか?

取れたんだが、どうすればいい?」


その声に顔を上げると、網の中は宝箱の様だった。


(わぁ、すごい!やっぱり、虫取り名人だわ)


それからも、沢山の虫を取ってもらった私は、日も傾いてきた時間になった為、終了を告げたのだった。


「サイラス様のお陰で、研究対象が増えました」


新種や雑種、突然変異の虫は居なかったが、今までに調べた事のない虫を捕まえる事が出来た。


私はカゴに入っている虫を眺める。


「そうか、それは良かった。

じゃあ、そろそろ帰ろうか」


二人で研究室まで帰る途中に、ナタリア先輩が池で泥だらけになっていた。


(相変わらず、戯れる相手がカエルなのが勿体無い)


すると、横から声がした。


「ま、まさか、さっきの美女か?」


驚いている彼の顔は唖然としていた。


「ええ、そうですが、どうしたんですか?」


「・・・いや、何でもない」


そう言い置き、スタスタと歩いて行ってしまった。


私もカゴを大事に抱え直してから、彼の後に続いたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。