第18話 魔法鉱石を売りに
「あのー、私こんな高いものもらっちゃって良かったのでしょうか」
王都へ向かう道すがら、シャノンがそう言った。
「いいんだよ。あんだけいっぱいあるんだし。ザックもダイアナもリリスも勝手に持ってったろ。それにもともと俺のものでもないしな」俺は布の袋を背負いなおした。
結局、オリハルコンの加工物はやつらが持って行った。いいでしょ協力したんだから、それが彼らの言い分だった。まあいいんだけどさ。リリスに限ってはミスリルの方も持っていきやがった。
で、俺は残った合金のナイフを懐に収めたわけだけど、ナイフ使いじゃないのに持ってても仕方ない、と思いつつ、なんとなく売るのも忍びなくて果物の皮むきにでも使おうと思っている次第。
ものすごい贅沢な使い方、というかもったいない使い方。それこそ、ナイフ使いの冒険者からぶん殴られてしまう。
シャノンはミスリルの剣を太陽の光で照らしたり、切っ先を柄の方から見つめたりして、見蕩れている。
「おい、あんまり見せびらかすなよ。盗まれても知らねぇからな」
「あ、はい、すいません」シャノンは剣を鞘にしまったが、顔から笑みが消えない。
「そんなにうれしいのか」
「そりゃうれしいですよ。冒険者にとってはミスリルやオリハルコンの剣は喉から手が出るほど欲しい逸品ですからね。それも、ドワーフが作った剣ともなると。はあ」うっとり。
スキルだけで生きてきた俺にはわからない世界が広がっているようだ。彼女はその世界の住人らしく、俺に見えないものを見て、聞いているのだろう、ぼーっとしすぎて躓いて転びやがった。
冒険者にあるまじき行為。君は本当にギルドのエースだったのかね。
魔法鉱石を売るなら王都にしたほうがいいわ、というのがダイアナの言。しっかり店も教えてもらって、ほかの店で売っちゃだめよ、騙されるからね、と念押しされる。
子供のおつかいじゃあるまいし、と思ったが、まあ、専門家が言うのだから従うに限る。
王都に入ると人がてんこ盛りだった。道行く人の話を聞いていると、どうもどっかの貴族だか王族が結婚するのだとか。めでたいめでたいということで、直接的関係のない庶民どもが市場で騒いでいるという現状。
俺には毛ほども関係ないので、道を間違わないように人を縫って歩く。
シャノンがだんだん離れていくぞ。
「ルベル様ぁ~」
ああ、人の波に流されていく。
俺は逆戻りして、シャノンの腕をつかんだ。
「あそぶな!」
「遊んでません! こんなに人がたくさんいるとは思いませんでした」
「なんだ、王都に来るの初めてなのか」
「初めてです」
田舎もんが! ちゃっちゃと歩け!
シャノンの腕をがっちりつかんだまま人の波を乗り越え、建物と建物の間を抜け、暗ーい、じめーっとした道を行く。喧騒が遠くなる。
すでに健康な人の姿はなく、アヘンだか魔法薬だかの中毒者がゴロゴロ転がっている。
「あのぉ、本当にこの道であってるんですか?」
「裏道に入れと言われたからあってるはずだ」
額を石造りの地面にこすりつけるようにして倒れている男が道をふさいでいる。俺がそいつをまたぐ。シャノンがまたぐ、と、死んだようだったそいつがいきなりシャノンの脚をつかんだ。
「きゃああああ」シャノンは思いきり脚を振ってその手を引きはがすと、剣の柄を握った。
「おいやめろ! 何で試し斬りしようとしてるんだ」
「斬りやしません。威嚇です。ふぅうううう」猫みたいにうなるシャノン。
「ほら行くぞ」シャノンの脚をつかんだ輩はまた死んだように動かなくなった。
裏道と呼ばれる危険な道を進んでいくと、一度大通りに出る。人の波がまた現れて、喧騒が舞い戻ってくる。
川を岸から岸にわたるように、体を横向きにしてわたっていく。
また、裏道に入る。今度は健康的な裏道らしい。倒れている人はおらず、時折すれ違う人々はローブを頭からかぶって顔が見えない。本当に健康的かここ。魔術師たちに似ているといえば似ているが。
そうやってついにたどり着いた店は、やはり裏道に面した暗い店だった。扉を開けると、棺桶に片足を突っ込んだような、骨と皮だけでできてるんじゃないかっていう老婆がプルプル震えながら店番をしていた。生きてるか、ばあちゃん。
「あい、いらっさい」
ふがふがと空気の漏れる音と同時に発声するばあちゃん。にっと笑うと顔中皺まみれになって、歯が見える、3本くらいしかないけど。
「売りに来たんだが」
「どれ、見せてみんしゃい」ふがふが。
俺は布袋からインゴットを取り出して、店台に置く。ばあちゃんは、ふおおと息を漏らして、震える指でインゴットに触れる。
「なんと、まあ、これは、オリハルコンではないか。それにこっちはミスリルか」ふおお。
空気が漏れるたびに萎んでいくのではないか、萎んでしまったから皺だらけなのではないか、そんなことを考えていたらババアはむにゃむにゃと口を動かして言った。
「これはここでは買い取れん。白金貨10枚ほどの価値があるでな」
「白金貨10枚?」
シャノンはふらふらした。俺もふらふらした。魔王倒したときの報奨金と同額かよ。わざわざ倒しに行ったのがあほらしくなるわ。ははは。
ババアは羊皮紙を取り出すと震える手でがりがりと何かを書き、インクがにじまないように砂をパラパラかけてから羊皮紙を巻いて、紐で閉じると、蝋を垂らして封をした。
「これを王立魔法研究所に持っていけ。そこでなら買い取ってもらえるじゃろ」
俺は羊皮紙を受け取ろうとしたが、ババアが力を入れて離さない。
「ルベルや。ダイアナによろしく伝えてくれ」
そういうとババアは手をはなした。
こいつ全部気づいてやがったな。ばあちゃんは顔をしわくちゃにして笑っていた。




