第12話 伝説の弓使い リリス1
「無駄に怖い思いをさせられました」
俺の持ち家に戻り気疲れと呆れ疲れでどっと椅子に座り込むとシャノンは睨んできた。君勝手についてきたのにそれはないんじゃないかい。
「仕方ないだろ、あそこまで馬鹿だとは思わなかったんだからよ」
俺は頭を抱えて言った。人生とはうまくいかないものである。
「私、伝説のパーティってもっと、こう、人助けに奔走するような素晴らしい方々だと思っていました」
「夢見がちな乙女だね」シャノンは俺をにらんでテーブルをたたいた。
その夜、俺の腕の中でシャノンは時折震え、悪夢にうなされていた。叫び声こそ挙げなかったが、泣いていた。俺が彼女を抱きしめると、安心したのか息を吐いて眠りについた。
翌日。
俺は立ち上がる。
「よし、次だ次!」
「え! また怖いとこ行くんですか」おびえながらシャノンは言う。
「次のとこは怖くねぇよ。リリスに会おうと思う」
「リリス様ですか? エルフの?」
「そうそう。里に戻ってるはずだからザックみたいに散財はしてないだろう」
俺たちはまた扉を通り抜けた。
エルフの里は周囲に魔法結界を張っており、外界から隔離された場所に存在する。俺が作ったダンジョンは結界の外に作られていて、扉を開いて洞窟を出た俺たちは森の中を歩く羽目になる。
「よく方向がわからなくなりませんね」
「これがあるから」
俺はペンダントを取り出してシャノンに見せた。
「里に出入りすることが許されたものにだけ渡される結晶みたいなもんで、結界のカギになってる。これがないと中に入れないどころか、どこに里があるかもわからない」
結晶が示す道を進む。俺は一応周囲にダンジョンを形成しておく。魔物だろうか、何かを咀嚼する音がする。野草独特の青臭い匂いの中に、時折風に乗って血の匂いが紛れている。何かの遠吠え。頭上の木を魔物が走り去る。
と、
俺たちに向かって狼のような魔物が突進してきた。魔物はダンジョンにぶち当たり、気絶する。シャノンは俺の腕に相変わらずしがみついているが、叫び声は上げない。
「見たことない魔物ですね」
と、単純な感想。心がたくましくなったようだ。
「この森も並みの冒険者が入ったら一瞬で死ぬ類の場所だから」
「それは侵入者を排除するためのエルフの策ですか?」
「いや、エルフがみんな戦闘狂なだけ」
シャノンは、バカばっかり、とつぶやいた。俺の元パーティはみんなバカですよ。
木々がアーチを作る道に出る。地面がけもの道のように踏み固められ、魔物たちの鳴き声が止む。
「ここだなぁ」
俺はペンダントをかざしたまま前進する。何かに触れると、膜を裂いたように、結界に縦に切り込みが入り、広がって、アーチの形に道が開ける。
アーチの向こうに矢をつがえたエルフの門番がいて、俺の顔を見ると驚いた様子で、矢をしまい、頭を下げた。
「これはこれは、ルベル様、ようこそいらっしゃいました」
俺は目を見張った。エルフの里は木でできた家々が立ち並ぶ村だったはずだ。が、石造りの家に、道は舗装され、城のような高い建物が里の中心にできている始末。その高い建物内に入り、階段を上っていく。
「なんじゃこりゃ」
案内役を買って出た若いエルフの(エルフだから若いかどうかはわからんが)女が答えた。
「リリス様が街の改革をされたのです。魔王討伐の報奨金をドワーフに渡し、各種施設の設置をされました」
じゃあ金なくね? 回れ右をして帰ろうとした。薄情な奴であった。
「リリス様はこちらにいらっしゃいます」エルフの女が扉を示した。
ノックする。
「どう、ぞ」リリスの声がする。俺は扉を開けて中に入る。
壁一面に羊皮紙の筒が重なっておいてある。天井からぶら下がる金属のかごの中に光石が入っていて、部屋の中を白く照らしている。リリスは窓辺近くの机に座り、羽をむしった羽ペンを持って何やら書き物をしていた。
リリスが顔を上げる。あれから10年近くたっているのに全く老けた様子がない。高い鼻と薄い唇。美しさは健在だった。
「ルベル、久し、ぶり。元気、だった?」
「ああ。何とかやってる。今忙しいか」
「大丈、夫。これ書いたら、休憩する、とこ」
リリスは俺達を昼食に招いた。久しぶりに肉だと興奮したが、テーブルに並んでいたのは緑ばかり、あと果物、豆。それでも、いつもの食事より幾分ましである。
「何か、用があって、来たのか?」リリスはしずしずと口に葉を運びながら訪ねる。
「ああ、実はな」
俺はくだんの話を彼女に説明する。彼女はふんふんと頷きながら俺の話を聞いていたが、金の話になると首を振った。
「すまない、が、報奨金、は、全部使って、しまった」
「ああ、聞いたよ。すげーじゃねぇか。里がこんなになってるとは思わなかったよ」
「代わりに、知り合いを何人かギルドの創立を、手伝いに出せる。金の勘定が、うまい弟子をもっているエルフが、いる。それに、ドワーフも、助けになって、くれるだろう」
「それは助かる」俺は果実をほおばりながら答えた。
「見返り、と言ってはなんだが、お願いが、あるのだが」リリスは手を止めて俺をみた。
「なんだ」
「ダンジョンを作ってほしい。結界内に、だ」
「それは……許されるのか?」
「かまわないだろう。私は、ルベルを信用している」
「どんなダンジョンだ」
「弓の訓練ができるような、ダンジョンだ。最近、書類仕事、ばかりで。体が鈍っている、気がする。それに、熟練兵の教育、にもなる。素早い魔物が、出るダンジョンがいい」
「場所があるならすぐ作るが」
「場所ならある」
そういって昼食後、リリスは俺たちをえげつない施設に連れて行った。ドワーフが建築したものらしい。地下に掘られた7階層の建物で、迷路のようになっている。遺跡のような外見で、入り口に2本の柱が立っている。
「ずいぶん前から計画していたんだな」
「ザックばかり、ずるい。ダイアナも、作ってもらったって、聞いた。私も欲しい」
リリスは口を膨らませた。すでに鎧に着替え、臨戦態勢に入っている。
「わかったわかった」そういって、俺は両手を上げた。
「あの、ルベル様?」シャノンが俺の腕に手をかけて言う。
「なんだ女、私の計画の邪魔をするのか」いきなり饒舌になったリリスが、シャノンをにらむ。
シャノンは申し訳なさそうに言う。
「いえ、滅相もないです、リリス様。そうではなくてですね、ルベル様、火炎球の実験をお忘れですか」
「あ」
そうだった。加減しないとザックのダンジョン以上にまずいものが出来上がりそうだ。
「じゃあ少し加減して、このくらいか?」俺はダンジョン生成を行う。
《ダンジョン生成》
7階層
入場者 0人
ダンジョンへの入場 可
魔物の出現 あり
魔物の脱出 不可
魔物レベル 75/100
魔物特性 移動速度特化
《ダンジョン生成 完了》
「これでいいかな。リリス、試しに入ってみてくれ」
「わか、った」リリスは弓を手にしてダンジョンに入る。
数分後。
《ダンジョン情報更新》
死亡者 1人
「おい、ふざけんな」
「どうしたんですか?」シャノンが尋ねる。
「リリスが死んだ」




