第11話 伝説の勇者 ザック
俺たちは扉の中に入った。
《ダンジョン生成》
1階層
入場者 2人
ダンジョンへの入場 不可
魔物の出現 なし
《ダンジョン生成 完了》
不可侵のダンジョンを形成する。
あたりは暗く何も見えない。洞窟の中だったはずだが。
俺はティリッジの例の魔法道具屋で買った光石を取り出し光を放った、
瞬間、
巨大なスネークドラゴンが俺たちに噛みつく。おびただしい数の歯が向けられる、が、長方形の箱のようなダンジョンが肉を切り裂く刃を弾く。
「きゃああああああ!!!!!」
シャノンが悲鳴を上げ、俺の腕にがっつりしがみついた。完全に女の子だった。
「なんですかあれ! なんですかあれ! あんなの誰が倒せるんですか!!」
「ザックが倒すんだよ。ああ、いや、時々殺されるけど」
「なんでこんなとこに勇者様がいるんですか!!」
「戦闘狂なんだよあいつ。当時、最強クラスの魔物が出現するダンジョンに設定してくれって言われて作ったダンジョンだよ」
そういいながら進むと、光の漏れる穴が壁に空いている。俺たちはそこを通り抜ける。
なんだここは。
なんだあの生物は。
俺たちの目の前に鱗が黒光りするドラゴンが眠っている。
ダンジョンは広大な洞窟で形成されている。天井には透明なつららのような、鍾乳洞のようなものがぶら下がっていて、そこから放たれる白い光が洞窟内を照らしている。
地面一体が青く染まる金属のような宝石のようなもので満たされている。
黒衣のドラゴンはその青い鉱石で作られた巣のような場所で、とぐろを巻いた首を翼で隠すような形で眠っていた。
黒衣のドラゴンだけではない、見たことのない生物が鍾乳洞の間を縫うように飛んでいる。
あれはなんだ、なんであんな奇抜な色をしているんだ。赤い血を浴びたような蜘蛛が俺たちを路傍の石かのように無視して跨いでいく。
地面は青いが壁は白い、いや、見る角度によって色が変わる。白を基調とした淡色で目まぐるしく色が変わる。
俺は地面を覆う青い鉱石の欠片を拾う。専門家に見てもらおう。壁の白い鉱石もそばに落ちていたので拾っておく。
「そんなことしてないで早く進みましょうよぉ」
シャノンは震えながら俺の腕を血が止まるほど握りしめている。そろそろ左手がしびれてきたよ。
「怖いんですもん! 怖いんですよ! なんなんですかあれ! ぎゃあああああああ!!!」
鋭い爪を持つ、毛におおわれた四足歩行の魔物が俺たちのそばを通り過ぎた、が、後ろから足が六本ある、粘膜でおおわれているような湿った肌の魔物が、ヒルのような口で毛まみれの魔物を捕らえた。
噛みちぎられた頭が血しぶきをあげながら飛んでいき、壁にぶち当たる。
「しらない……あんなのしらない……こんなの夢だ……夢だぁ」
「おい、だから来なくていいって言ったろ! ちゃんと立て、死にたいのか!」
そうはいったものの、俺の脚は震えていた。モンスターハウスどころの騒ぎじゃない。
どこだ、ザック!
早く出てきてくれ、シャノンの精神が持たない。
というか、俺の精神も持たないぞ!
ダンジョン情報には、入場者3人の文字。死亡者0人。あいつは生きている。この地獄の中で、やつは、生身で、生きている。
どうやら特攻をしすぎて精神が崩壊し、人間を辞めるに至ったらしい。
あれほどデカい化物相手に、針みたいな剣でどうやって生き延びているのか甚だ疑問である。
ザックが持っている剣は身長と同じ刀身とはいえ、やつらにとっては大差ない。皮膚の上にある薄皮すら貫通できないのではないか。
俺たちはほとんど互いに抱き合うような姿勢で歩みを進める。超音波のような高い音が壁に反響する、何の鳴き声か知らないが俺たちは耳をふさぐ。地面の色はいまだ青く、壁の色は白い。グネグネと迷路のように道はうねる。
開けた場所につく。鍾乳洞のようなクリスタルを模した天井がドーム型に弧を描き、遥か上空まで伸びている。壁の色が白から黒に代わっている。代わりに地面が白くなっていて、まるで世界から色が消えたみたいに見える。
俺は何かが動くのを見た。
いや、見たのか? わからない。
動いているのは黒い影。頭は丸く、目のようなものが三つ顔のあたりについている。体は黒い布のようにたなびき、尾のようなものが三本、地面をたたくようにうごめいている。
尾が動く、何かを狙って空を切る。目が光り、黒い壁に光線が当たる、乱反射する。
「あぶねぇ!」男の声。
ザックだ。
彼は地面を蹴ると、人間とは思えない速度で上昇し、刀身の長い剣を振る。
剣はクリスタルの反射ではない赤い光を放っている。
刀身が黒い魔物の頭に埋まる、
切り落とす。
三つの目がついた丸い頭が宙を舞い、霧散し、消滅する。尾が生えた体も地面に倒れこむと、溶けるように地面と同化し消滅した。
ザックは戦闘中にすでに俺たちに気づいていたようで、剣をぶら下げたまま跳躍し、目の前に現れた。
瞬間移動かと見まがうほどの速度だ。かつてより数段、能力が向上している。
「久しぶりだな、ルベル。ガールフレンドか?」ザックは笑って言った。
シャノンはだいぶ前から目を見張り、固まっていた。
ダンジョンを出て、自宅だという村の中にあった質素な建物に案内された。俺たちが、ギルド作成の事情を説明すると、ザックは言った。
「金なんかねぇよ」
ザックの家は俺の家とほとんど変わらない。彼もあまり自分に金をかけるということをしないらしい。
ではなぜ金がないんだ?
「誰かに盗まれたのか?」
「いいや、ほとんど剣と鎧と、あとポーションに使っちまって今は金貨1枚くらいしか残ってねぇ」
「そんなに高価そうには見えませんけど」シャノンは言った。
「あのダンジョンに入ると一日で剣も鎧もおじゃんになるんだよ。毎日一式なくなるわけだから、そりゃ金もなくなるわな。それに死にまくってルベル呼ぶわけにもいかねぇから、ポーションがぶ飲みするんでそっちでも金なくなるのよ」
大バカ者だった。自分にめっちゃ金をかけていた。
そりゃ金もなくなるわ。というか、普通はそんなダンジョンに毎日入らないんだよ、知ってる?
「村にある武器屋の剣と鎧、それにあらゆる店にあるポーションは全部買い占めちまったから、近くの街に週一で行って大量に買って帰ってくるんだ。一か月先まで注文しておいて取りに行ってるだけなんだけどな」
なんだか武器屋と魔法道具屋がかわいそうになってきた。
なんでそんなに鎧と剣を作らなきゃならないかね、ポーションを生成しなけりゃならないかね。
地獄だ地獄。精神おかしくなるわ。それに、ほかの客にも迷惑だろ、やめて差し上げろ。
「まあそんな感じで俺は金持ってねぇぞ、悪いがな。ほかを当たってくれや」




