第10話 伝説のパーティ
「あの、別に無理してついてこなくてもいいんだよ」
「いえ、ついていきます」
シャノンは鼻息も荒く、意気揚々とそう言った。
俺達の前には扉が一つ浮かんでいる。俺のスキル《ダンジョン生成》でダンジョンにつなげた扉だが、心なしかこちら側にたわんでいるように見える。
扉の先に広がる世界を、俺ははっきり言ってみたくない、というか行きたくない。この先には危険が待っている。俺のスキルがなければ、入って数秒で死ぬだろう、ある人物をのぞいて。
「扉に入ったら、俺は集中しなくちゃいけない。あんまり話しかけんなよ」
「はい!」
「あと、ちゃんと俺にくっついてろよ。少しでも離れたら安全は保障できない」
シャノンは一歩俺に近づいた。肩と肩が触れるか触れないかのぎりぎりの距離だ。
「もっと近づけ、死にたいのか」
俺は自分の腕をシャノンに抱かせた。
「じゃあ行くぞ」俺は深呼吸して、扉を開いた。
さて、俺がどうしてわざわざ危険なダンジョンに身をひそめなくてはならないのか。そこら辺の話を始めなければならないが、まあ、その理由はお分かりかと思う。
金が必要なのである。
廃業者たちの前でギルドを作るなどと豪語してしまいもう後戻りなどできない状態になっている。助けてやったのにヒルバートもケリーも夕食すらおごってくれないわけで(物乞いから復活直後の人間にそれを求めるのは酷な話だ)、俺は身を削りつつ、人を助けるという、聖人君子的な所業を行っていたわけで、何を言いたいのかといえば性に合わん。まったく。
だからと言って、どうやって金を稼ごうか、そうだダンジョンに行けばいいんだ、とはならない。今からダンジョンに入ろうとしているのにそんな話あるか、と思われるかと思うが聞いてほしい。
魔物を狩ってそのしっぽだったり、鱗を持ち帰ったところで一銭にもならない。なぜか。俺がギルドに所属していないからだよ。そもそもギルドとはそういった無法者的な乱獲者を減らそうという目的で作られた集団だったはずだ、いやごめん嘘ついた、なんで作られたかとか知らない。
しかし、わかりきっていることは、そのようなしっぽだったり鱗だったりを持ち帰ったところで誰も買ってはくれないということだ。ギルドに所属していれば、クエストを受けることで発生する金銭だけでなく、魔物の体の一部、つまり素材の売却による金銭も受け取ることができ、そのため冒険者業はウハウハなわけであって、今の俺はウハウハではない。誰も買ってくれない、マジで。
であるからして、ダンジョンに潜って魔物を狩ることに何のメリットもないわけである。しかし、俺たちは町一番のギルドの最も強い冒険者すら数分で息絶えるであろうダンジョンに踏み込もうとしている。
「なぜ、そこまで危険なダンジョンにいかなければならないのですか」
シャノンは尋ねた。相変わらず殺風景な俺の家である。グダグダと前述のような話をして、いやそのほとんどを彼女も知ってはいたのだけれど、確認がてら話をして、今に至る。俺は答える。
「質問です。伝説のパーティが魔王と戦った後どうなったか知っているか?」シャノンは眉間にしわを寄せて、そりゃもちろんとでもいうように答えた。
「魔王と相打ちになり、唯一生き残ったルベル様が今ここにいらっしゃいます」
「ぶぶー」
「は?」怒んないで。
「伝説のパーティは誰一人死んでいない」
シャノンは固まった。
どこかで鳥の鳴き声が聞こえる。
近くを散歩する羊飼いの連れた牧羊犬が吠える。
シャノンが息を吸う音。
「どういうことですか!!」
シャノンがテーブルをたたいて立ち上がった。椅子が倒れ転がっていく。
「だからみんな生きてんの」
「どうしてそれを皆に伝えないのですか! 国の英雄ですよ! 伝説のパーティが戻ってくれば、今国が抱えている最上級クエストなど一週間とかからずに終わるはずです! どうして黙ってたんですか!!」
シャノンが俺の首を絞めているぅ。死ぬぅ。
「あ、すいません取り乱しました。それにしたって、ええ! 嘘です!」
「ほんとだよ。俺は全員の居場所を知っているし、懸賞金だって渡した」
「どうして国に戻ってこないのですか」
「疲れたんだってさ。自由気ままに生きたいって」
「勝手ですね」シャノンは言って、自分の失言に驚いたのか口を押えた。
「俺らパーティを魔王討伐に向かわせた国のほうが勝手なんだよ。勇者は生まれたときから勇者であり、死ぬその瞬間まで勇者だった、そう語り継げば、皆が幸せ。そう思わないか」
シャノンは下唇をかんで、うつむいた。
「そう、ですか……」
シャノンはイスをとりに行き、座りなおした。
「あの、それと危険なダンジョンに向かうことに何の関係が?」
「危険なダンジョンが勇者の居場所なんだよ。勇者に金をせびりに行こうかと思って」
「失礼ですけど懸賞金っていくらもらったんですか?」
「白金貨10枚」
「白金……」
「ひとりな」
シャノンは目を見張った。
「まあ俺はそのうち9枚ギルドに持っていかれましたけどね」俺は苦笑した。
白金貨1枚が金貨100枚に相当する。金貨3枚がギルド創設に必要な資金。まあそのくらいならせびっても文句は言われないだろう、今まで何回蘇生してやったかを考えれば安いもんだ。100回はくだらない、やつは特攻野郎だからな。




