恥さらし
お久しぶりです(_ _)
山井先生の意外な一面
春、ぽかぽかと心地のよい気候が続いているある日の放課後。
秋乃は久しぶりに図書室に向かっていた。
「新しいラノベ追加されたかなー」
そんなことを呟きながら、秋乃が図書室のドアを開けると、そこには関野と篠山がいた。
「珍しい、図書室で何してるの?」
秋乃が二人に声を掛けると、関野がその質問に答えた。
「ちょっと資料をね、生徒会で使うやつを探してて」
「そう。会長も珍しく資料とにらめっこしててね。いつもならニャンパラ見てニヤニヤしてるんだけど──」
くしゅん、と生徒会室で眞壁は、くしゃみをしたであろう。
秋乃はそうなんだと言って、二人の見ている資料に目を向けた。
「……何? この頭が痛くなりそうな文字の羅列」
秋乃はやだやだと資料から目を反らす。
「これも仕事だから」
と関野は暗めの赤色眼鏡を押し上げて言った。
篠山はそんな関野を見て、秋乃にヒソヒソと伝える。
「こういう、仕事熱心なとこも良いよね」
「はいはい、一方通行頑張れ」
「舛田くん……!」
どうでもいいというように手を振った秋乃に、篠山は少し顔を赤くして吼えた。
「篠山くん、これ、持っていくから手伝って」
関野はてきぱきと資料に使えそうな本を選別して、篠山に指示を出す。
関野自身も数冊抱えてから、秋乃に言った。
「それじゃ、私たちもう戻るから」
「うん。頑張って──」
秋乃は二人を見送って、目当ての本を探しに行く。
ライトノベルの棚に目を通しながら、秋乃はうーん、と悩んだ。
続きは追加されていないが、新作が入っている。
「うーん……同時進行するか?」
秋乃は新作を手にとってどうしようかと悩んでいると、聞いたことのある声が耳に入った。
「……し、……なー」
どうやら何か歌っているらしい。
秋乃は声の正体を知るべく、本を棚に戻してからそっと棚の影に隠れてしゃがんだ。
「黄昏の君にー、もうこの手は届かないけどー」
秋乃が居るとは知らず、その人物は小さな声で歌ったまま、本棚に近付いていく。
「あぁ、きっと君には……」
「山井先生」
「…………」
「何の歌ですか?」
棚の影から出て、秋乃は驚いた顔をして固まった山井に訊いた。
山井はすっと真顔になってから、一つ咳払いする。
「……歌ってない」
「え?」
「俺は歌ってない。今のは幻聴だ」
秋乃は二、三回瞬きをしてから、言った。
「いやいや、歌ってたじゃないですか」
「歌ってない」
「えー、上手かったですよ、先生」
「ほんとか」
「歌ってんじゃないですか」
「くっ……」
しまった、と山井は顔を歪ませる。
「いいじゃないですか、音痴じゃないんだし。大丈夫ですよ」
「絶対言うなよ? 言ったら赤点にするからな」
「えー、職権乱用だ」
と秋乃が言うと、山井が一つ提案した。
「じゃあ、お前も何か恥さらせ。それでチャラだ」
「えー……、まぁ、じゃあ一つやりますよ」
それでチャラですよ、と秋乃は一回深呼吸してから、本気でやるのは初めてだと呟いて、行動をおこした。
「……くっ、今まさに、おれの中の魔物が動き出そうとしている……ッ! 早く逃げろ! さもないと、おれはお前の命を奪ってしまう──!」
と秋乃は右目と左胸を片手ずつで押さえて、苦しい表情をする。
「…………」
「意外と楽しいですよ、本気でやると」
すっと元に戻った秋乃を見て、山井は何とも言いがたい気持ちになった。
「山井先生もやります?」
「いや、いい──」
山井はすっと秋乃を通り越して、必要な資料を手にとって行こうとする。
「ほどほどにな……」
山井は憐れむようにポンっと秋乃の肩を叩いて、去っていった。
秋乃は何で自分が可哀想に思われなきゃならないのかと少し不機嫌になる。
「……。よし、言いふらそう」
秋乃はぽんと手を叩いて、図書室を後にした。
*
「ねえねえ、今ちょっと面白いの聞いたんだけどさ──」
秋乃は教室にまだ居た章と香月に、今さっきあったことを話すのだった……。
そして後日、秋乃と馬鹿にしたようにからかった香月が山井に怒られたのは言うまでもない──
秋乃「ほんと久しぶり」




