惚れ薬
理先の名前が明らかに。
生徒たちが休みでも、教師たちは仕事をしている。
今後の予定やら、行事に向けてなどなど、やることは尽きない。
職員室では、教師たちが会議をするために集まっていた。
「あれ……? 理科の先生いませんね。誰か尾川先生知ってますか?」
一人の女性教師が室内を見渡して訊く。
理先こと尾川が、まだ来ていないのだ。
「理科室とかじゃないでしょうか。ワタシ見てきます」
と保梨が軽く手を上げて、職員室を出て行った。
*
理科室のドアを軽く三回叩き、保梨はドアを開けた。
「失礼します──尾川先生、職員会議が始まりますよ……?」
背を向けたままの尾川は、ゆっくり振り返って笑った。
「出来ました──」
「……何がですか?」
「惚れ薬です」
と片手サイズの瓶を見せる。
中身は桃色だった。
「惚れ薬……?」
「そう。飲んだ人が初めて目を見た相手を好きになる。好きな人に飲んでもらって、両想い! なんてこともあり得るんですよ……!」
と尾川はニヤリと笑う。
保梨は惚れ薬を見て、ゴクリと息を呑んだ。
これを使えば……山井先生はワタシのことを──そんなことを考え、保梨はだめだめと首を振る。
山井に迷惑をかけることはしたくない。
気を取り直して、保梨は一つ咳払いしてから言った。
「尾川先生、職員会議です。皆さん待ってますよ」
「もうそんな時間でしたか、すいません。つい熱中してしまいました──」
いけませんね、と尾川は頭を軽く掻き瓶を置いて片し始める。
保梨は瓶を見て、少し気になったことを訊いた。
「あの……ちょっと訊きたいのですが、それは一本飲み干さないと効果は出ないんですか?」
「え? あぁ──いや、一口でも効果は出ますよ」
「へぇ……」
「保梨先生興味あるんですか?」
と尾川がふわりと笑って保梨を見る。
保梨は両手を振り、ぶんぶんと首も振る。
「いやっ、ただちょっと、ほんの少しだけ──っ」
「あはは、そんな必死にならなくても──あげますよ。小瓶のもあるんで」
困惑する保梨をよそに、尾川は小瓶を保梨に渡した。
「効果は三十分です。次作る時はもっと長い時間になるよう頑張りたいですねぇ」
「え? あの、いや、え……?」
尾川は、じゃあ行きますか──と理科室を出て行く。
保梨はわたわたと小瓶を白衣のポケットにしまい、尾川の後を追った。
*
職員会議の後、保梨は保健室でぼんやりと小瓶を見つめていた。
「…………はぁ」
使えるわけない──と保梨は白のテーブルに伏せる。
保梨が想いを寄せる山井は男だ。そして、保梨も男なのだ。
「話せたりするだけで……十分──」
「何がでござるか?」
「うわあっ!?」
と保健室に現れた忍者に、保梨は驚く。
忍者は小瓶に気づいて、それを手に取った。
「これは何でござるか?」
「え? あっ、それは……えっと……」
「あ、桃ジュースでござるな!」
「違います!」
「何してるんですか?」
と山井が入ってくる。
「いやあ、保梨殿がこれが何か教えてくれないんでござる」
「へえ──」
小瓶が忍者の手から、山井の手に渡る。
「じゃあ、飲んでみればいいんじゃないですかね」
と山井がフタを開けて、それを飲もうとする。
保梨は、わあああああ! と小瓶を奪い取り、水道に投げ入れた。
「……保梨先生?」
「すいません、あれは、毒なんです……っ!」
山井と忍者は顔を見合わせて、首を傾げた。
保梨は少しの間、自分のしたことに後悔するのだった──
保梨「……うぅ……」
尾川「またいります?」
保梨「結構です──っ!」
次回「惚れ薬2」




