惚れ薬2
生徒が使おうとするが?
「コレで、オレもモテモテだっ!」
放課後。香月は桃色の液体が入った瓶を掲げて、胸を張った。
それを見た秋乃と章は、香月を見て言う。
「何? それ」
「ジュースか?」
「フッフッフッ──聞いて驚け。コレは、惚れ薬だ!」
秋乃と章は顔を見合わせ、はあ、と間の抜けた顔になる。
「理先に貰ったんだ」
「理先に?」
秋乃はパッと目を見開いた。
章は尾川先生からかよ、と呟く。
「そう! だから、問題ない!」
「……で、それ香月が飲むの?」
秋乃が訊くと、香月はいや、オレは飲まない。と首を振った。
「じゃあ誰が飲むんだよ」
「フッフッフッ──」
章の問いに香月は笑うと、決まってんじゃん、と口を開いた。
「女子だ。効果は三十分って言ってたから、三十分だけでもハーレムを味わってやるんだ!」
秋乃と章は、うわぁ……と引く。
「やめろよ、そんな引くなよ!」
「本気でやろうと思う時点でアウトだから」
「ほんとだよ」
と二人に言われ、いいよいいよと香月は瓶を胸に抱えて、オレは一人で行く! と教室を出て行った。
「え……、追わなきゃいけない感じ?」
「べつに行かなくてもいいだろ……それより、お前さ──」
秋乃と章は、香月に構うことなく違う話題に移るのだった。
*
「……追って来いよ!」
香月は一人、後ろを見て声を荒げた。
「仕方ない……。一人で行くよ、行ってやるよ──」
若干寂しくなりながら、香月は女子を探して歩き出す。
少し歩くと、柚子とヒナミを見つけた。
「おーい、お二人さーん」
香月が手を振って行くと、柚子が眉間にシワを寄せて、あからさまに嫌な顔をする。
「何?」
「そんな怖い顔しないで、ちょっとオレに惚れてみない?」
「惚れる……?」
とヒナミが首を傾げる。
香月は秋乃と章にした説明をして、どうよ、と瓶を掲げて見せた。
「嫌に決まってるじゃない。バカじゃないの?」
「柚子ちゃんは舛田くん一筋だもんね」
「ちょっ、何言ってんのよ! そんな訳ないでしょっ?!」
「顔赤いぞ!」
と香月がヒューヒューと口を尖らせる。
柚子はキッと香月を睨むと、ヒナミの手を引いた。
「誰が付き合ってやるもんですかっ! ヒナミ行くよ」
「あ、うん。じゃ、田端くん、よくわからないけど、頑張ってね──」
二人が歩いていったのを見送り、香月は歩き出す。
「どうすっかなぁ……。あ、関野がいんじゃん」
と香月はぽんっと手を叩き、生徒会室に向かった。
生徒会に入ると、眞壁と篠山しかいなかった。
「あ、関野いないんですか?」
「関野さんなら、印刷室に行ったよ」
「なんだ? 関野の彼氏か?」
と眞壁は香月を見て訊く。
香月は違います違います、と手を振り、自己紹介した。
「二年の田端香月です。篠山の友だちです」
「ほお。で、ご用は?」
「関野にコレを飲んでもらって、オレに惚れてもらおうかと──」
ガタガタッと篠山が席を立つ。
それから、確認するように訊いた。
「関野さんに惚れてもらう……?」
「そ。理先から惚れ薬貰ったから、ちょっと試してみようかと」
「やめなよ!」
「だって、夏見(柚子)と羽山(ヒナミ)に断られたし、他に関野しか思い浮かばなかったんだもん」
と香月は瓶を軽く揺らして言う。
眞壁は面白くなってきたな、と二人のやり取りを見守る。
「だもん、じゃなくてさ! なら俺が飲んであげるから!」
「なんで篠山に好かれなきゃいけないんだよ」
「関野さんの優しさにつけ込もうなんて、許さないぞ!」
俺だって、そんな薬あったら……、と篠山は言いかけてやめる。
それから、とにかく──と香月の瓶を掴んで言った。
「関野さんから好かれるなんて、俺が認めない──」
「あ、やめろよ、オレが貰ったんだから……!」
と二人は瓶を引っ張り合う。
「若いなぁ、お前ら──」
「会長も止めてくださいよっ!」
と篠山は笑う眞壁に助けを求める。
眞壁はやだね、と言ってから、二人が引っ張り合っている近くに、最新号の『ニャンニャンパラダイス(略してニャンパラ)』があるのに気づいた。
『ニャンパラ』は眞壁の愛読書であり、宝物でもある。
「ちょ、ちょっと待て、お前ら止まれ……!」
「「無理ですっ!!」」
今にも決着が付きそうだが、瓶の中の桃色の液体はピチャピチャと音を立て揺れている。
「は、なっせ……っ!」
「嫌だっ──!」
そして、眞壁が一番なってほしくない事が起こった。
「「あっ──」」
ツルッと二人の手から瓶が離れ、机の角に当たって割れ、上にあった『ニャンパラ』に桃色の液体がかかった。床にも桃色の液体が広がる。
「「…………」」
二人が恐る恐る眞壁を見ると、眞壁はニコリと歪に笑って、かくっと首を傾けた。
「お前ら──わかってるよな?」
「ニャンパラ買ってきます!」
「掃除します!」
篠山と香月はぴしっと眞壁に敬礼すると、部屋を出て行った。
結局、惚れ薬の効果はまだわからないまま──
尾川「また作らなきゃかぁ──」




