一杯やりましょう
泡盛って美味しいんですかね?
修学旅行も一段落した次の週。
山井と保梨、忍者は無事戻ってこれたということで、お酒を飲もうと保健室に集まる予定を立てていた。
もちろん、生徒全員もう学校にはいない。
「泡盛、持ってきましたよ」
と山井が一升瓶を掲げてみせた。
ラベルには「泡盛」と達筆で書かれている。
保梨はコップ三つとストロー、一本を準備していた。
「忍者さんは?」
と山井が保健室を見渡して訊く。保健室には、忍者が見あたらなかった。
「あぁ、今忍者さんは校内を見回ってるんですよ。もう少ししたら来ると思います」
「そうですか──」
山井は一升瓶をテーブルに置いて、近くの丸イスに腰を下ろした。
保梨も丸イスを引っ張ってきて、少し距離をとって座る。
「……ふぁ〜……すいません」
山井が欠伸を手で隠しながら言う。
「溜まってた分やってたら、夜遅くまで起きてることが多かったもんで──」
とまた欠伸をする。
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
両手を振って、保梨は微笑んだ。
「……そろそろ来ますかね」
「どうでしょう──」
二人で出入口を見ていると、ちょうどドアが開いた。
「申し訳ない、時間がかかってしまって……」
と忍者が謝りながら入ってくる。
「大丈夫ですよ」
「そうですよ──さ、座って座って」
保梨と山井は笑って、丸イスを勧める。
忍者は失礼、と一言言ってから座った。
「じゃ、飲みましょうか──」
と山井がコップに注いで、コップを勧める。
すると保梨が、ちょっと待ってください──と言って立ち上がり、棚に向かうと、お菓子を取り出してきた。
「泡盛だけじゃあれかな、と思いまして……お煎餅をワタシが」
「かりんとうを拙者が買ったでござるよ」
と保梨と忍者が言う。
山井はおお、と言ってから口を開いた。
「ありがとうございます──じゃ、乾杯しましょう」
三人でコップを掲げて、カンパーイとコップを軽くぶつける。
「……ふぅ。修学旅行、お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
「あっという間だったでござるな──」
しみじみとコップを口に運びながら、三人は頷く。
「もう、いつもと変わらない日常ですよ」
と山井がいただきます、とお煎餅を食べる。
「それでいいじゃないですか、皆の友情も深まったみたいですし」
といただきます、保梨はかりんとうに手を伸ばす。
「修学旅行での、集団行動、考えて動くことを大切にしていってほしいでござるな──」
ちゅーっとストローで、忍者は服の隙間から飲む。
「ですねー、自由な奴ばっかですからね」
「そうですか? 真面目な子もいますよね」
「数人ですよ、数人──」
と山井は保梨に向かって言う。うちのクラスは大体自由な奴ばっかですよ、と次はかりんとうに手を伸ばす。
「そうでござるか? ん、美味いでござる」
と忍者もかりんとうを食べる。
「そうですよ──皆自由だし、変……個性的な奴が多いし、大変ですよ」
「でも楽しそうですよね」
と保梨が笑って山井を見る。
忍者も頷いて、山井を見ている。
山井は少し考えてから、ふっと頬を緩ませた。
「……ま、そうなんですけどね」
と一口泡盛を飲む。
「あはは、やっぱり〜」
「生徒も幸せ者でござるな」
少し頬を赤らめて、保梨は笑う。
忍者は目以外隠れているのでわからないが、少し目の下が赤くなっていた。
「だといいんですけどね──」
と山井は苦笑いした。
それから他愛もない会話をして、飲み会は終了を迎えるのだった──
秋乃「酔っ払いの誕生か……」
章「失礼だぞ」




