05 そこにいることになっている:外郭
裏口を出たオズは、細い路地を抜けた。
そのまま表通りへ戻る。
監視カメラの真下を歩き、横断歩道では信号が変わるのを待った。
頭上を巡回中のドローンが横切っても、足を止めない。
人の目には、オズの姿が見えている。
すれ違えば避けるし、肩が触れそうになれば相手も道を譲る。
けれど、シティの監視システムは違った。
カメラに映った人影。
歩道を横切った熱源。
センサーの範囲を通過した、名前のない反応。
記録には残っても、それらが蒼弐オズと結びつくことはない。
オズは一度だけ、街灯の上にあるカメラを見上げた。
レンズは、確かにこちらを向いている。
警告はない。
耳元にイドの声が戻ってくることもない。
「上出来」
小さく呟き、そのまま歩き続けた。
わざわざ裏道を選ぶ必要はなかった。
ただ、知り合いに声をかけられるのは面倒だった。
姿そのものが消えているわけではない。喫茶店にいるはずのオズが外郭方面を歩いていると誰かに話されれば、余計な確認が入るかもしれない。
だから、人の少ない道を選ぶ。
監視を避けるためではない。
面倒を増やさないためだ。
外郭区画へ近づくにつれ、街の景色が変わっていった。
店が減る。
住宅が途切れる。
歩道を行き交う人の姿も、ひとり、またひとりと消えていく。
代わりに増えていくのは、資材倉庫と整備施設。
外郭設備へ伸びる太い配管。
人ではなく、機械が使うための搬送路。
やがて、白い建物の列が途切れた。
その向こうで、巨大な壁が空を切り取っている。
シンギュラリ・シティ外郭壁。
都市の内と外を分ける境界線。
高さは二十メートルほどある。
壁の一部には、巨大な門が埋め込まれていた。
人も車両も通れる、正規の出入口だ。
申請すれば開く。
許可が下りれば、誰でも外へ出られる。
少なくとも、制度上は。
オズは門の前を通り過ぎた。
門を使うつもりはない。
外郭門を操作すれば、必ず記録が残る。
誰が。
いつ。
何のために。
どの門を通ったのか。
監視システムの認識をごまかせても、自分から認証を求めれば意味がない。
それに、一度外へ出れば、戻る時にも同じ手続きが必要になる。
その時になってイドが首を傾げれば、蒼弐オズはシティへ戻れない。
だから、門は使わない。
オズは人気のない壁際まで歩き、足を止めた。
そして、外郭壁を見上げた。
機律イドが、人類を守るために築き上げた白い壁。
陽の光を跳ね返すその姿は、越える必要などないとでも言うように、静かに立ちはだかっていた。




