03 そこにいることになっている:放課後
放課後になると、整然とした街路にも少しだけ雑音が増える。
制服のまま菓子を買う生徒。
自動清掃機に道を譲らない老人。
騒がしく走り回る子供を、慌てて注意する女性。
横断歩道の信号が点滅し始めてから駆け出す会社員。
その中を歩きながら、ライトは今日の小テストの点数に文句を言っていた。
隣では、ノアが予習復習の大切さを淡々と説いている。
サユは二人の間に入り、また喧嘩になりそうな空気をほどいていた。
トウヤは眠そうに欠伸をこぼしながら、少し後ろを歩いていた。
「あれ?」
ライトが急に辺りを見渡した。
「今日は、オズが作ったスゲースピード出るボードないの?」
オズの足が一瞬だけ止まった。
サユが嫌そうに眉を寄せる。
「なにそれ」
「知らねぇの? めちゃくちゃ速いやつ。地面すれすれをガーッて行くんだよ。マジで一回乗ってみたかったんだけど」
「その説明だけで乗りたくないわ」
サユが肩をすくめてため息をついた。
その横でノアが静かに口を開いた。
「あれは僕がイドに報告した」
オズは半眼でノアを見る。
「チクった、の間違いだろ」
「報告だ」
「お陰様で、大イドがわざわざやって来て壊してったさ。部品取りも許されなかった」
サユの顔が少し引きつった。
「大イドって……物理体の方?」
「そう」
「うわ、ガチじゃん」
ノアは表情を変えない。
「あんな危険な乗り物を見過ごすわけにはいかないだろう」
「ブレーキはついてた」
「止まれてなかっただろ」
「減速はできた」
「壁にぶつかる前提の減速を、ブレーキとは呼ばない」
ライトが目を輝かせる。
「やっぱ乗ってみたかったな、それ」
「ライト、あんた死にたいの?」
「いや、死にたくはないけど、ちょっとだけなら」
「その『ちょっとだけ』で壁に刺さるのよ」
サユが言うと、後ろを歩いていたトウヤが、欠伸まじりに呟いた。
「……あれ速すぎて、空気を切り裂く音だけでもヤバかったからな」
「お前、見てたのかよ」
「寝てた」
「寝てたのに見てたのかよ」
「うるさかったから」
オズは面倒くさそうに息を吐いた。
「もう作らねーよ」
「本当か」
ノアの声が低くなる。
「たぶん」
「蒼弐」
「はいはい。作らない。少なくとも同じやつは」
「別のものを作る気だろう」
「知らね」
サユが額に手をあてた。
「ほんと、あんたたち全員めんどくさい」
ライトがそこで、思い出したようにオズを振り返った。
「オズ、このあと遊びにいかねぇ?」
「パス」
「なんでだよ。センター街に新しい唐揚げ屋できたんだぜ?」
「今日は喫茶店で、自・主・学・習」
オズは一音ずつ区切るように言った。
「はぁ? お前、小テスト満点だったじゃん。嫌味か?」
「復習は大事だろ」
「ノアみたいなこと言いやがって」
ライトはあっさりオズを諦め、サユの方へ顔を向けた。
「まあいいや。サユは行くよな?」
「なんで決定事項なのよ」
ライトは笑った。
その横で、ノアの視線だけがオズから離れなかった。
「蒼弐」
「なんだよ」
「朝のことは、忘れていない」
「俺は忘れた」
「忘れるな」
サユが小さくため息をついた。
「はいはい。そこまで。ノアも追い詰めすぎない。オズも変なことしない」
「もうやらねーって」
「その言い方が信用ならないのよ」
オズは答えず、片手だけを上げた。
別れの合図だった。
ライトが軽く手を振る。
サユも「また明日」と言う。
ノアは最後まで何かを言いたそうにしていたが、結局言葉にはしなかった。
トウヤだけが、すれ違いざまにぼそりと言った。
「好きにすれば良いと思うけど……面倒臭いからバレんなよ」
オズは足を止めない。
「何が」
「さあな」
それだけ言って、トウヤは欠伸をした。
オズは少しだけ口元を緩め、通りを一本曲がった。




