幕間 ある晴れた昼下がり
白真ライトは、小型端末の画面を覗き込んだまま動かなかった。
机の上に置かれた端末は、薄型のノートパソコンに近い形をしている。傾けられたディスプレイの中央に、試験結果が表示されていた。
赤く強調された数字。
見間違いではない。
ライトは両手で頭を抱え、そのまま机へ額を近づけた。
「テストの結果は?」
隣の席から、空木サユが画面を覗こうと身を乗り出してくる。
ライトは素早く端末を伏せた。
「見んな」
「その反応でだいたい分かるけど」
「……赤点」
小さく絞り出された声に、サユの眉が上がる。
「また?」
「オズと遊んでたせいで」
「俺のせいにすんなよ」
少し離れた席から、蒼弐オズが口を挟んだ。
オズは椅子の背にもたれたまま、自分の小型端末を片手で持ち上げる。画面には、満点を示す数字と評価表示が並んでいた。
「俺は満点だぜ?」
ライトが顔を上げた。
オズを見る。
端末の画面を見る。
それから、もう一度オズを見る。
「は?」
「満点」
「見りゃ分かるよ!」
ライトは椅子から身を乗り出した。
「ずるくね?」
「何が?」
「最近ずっと遊んでたじゃん! 俺と!」
「遊んでたな」
「じゃあなんで満点なんだよ!」
「こんな問題ぐらい、簡単だろ」
あまりにも平然とした返答だった。
ライトの口元が引きつる。
反論する言葉を探したものの、何も出てこない。やがて助けを求めるように首を巡らせ、姿勢よく端末へ向かっていた塩井ノアを見る。
「ノアもなんか言ってよ!」
呼ばれたノアは、端末から静かに顔を上げた。
「予習復習が大切だぞ」
「そうじゃねぇよ!」
ライトの声が教室に響いた。
サユが吹き出す。
オズも口元を押さえたが、肩が小さく揺れている。ノアだけが、自分の返答のどこに問題があったのか理解できないように瞬きをした。
「では、何と言えばよかったんだ?」
「こう……あるだろ。慰めるとか、励ますとか!」
「勉強をしていない者に、根拠のない慰めを与える必要があるのか?」
「正論で追い打ちかけんなよ!」
ライトは再び頭を抱えた。
勢い余って端末へ額をぶつけそうになり、寸前でサユが画面を押さえる。
「壊したら、赤点より面倒なことになるわよ」
「もう壊れてくれていいよ……。記録ごと消えてくれ……」
「結果は都市の学習管理システムに保存されている」
ノアが淡々と告げる。
「端末を壊しても記録は消えないぞ」
「今それ教えなくていい!」
「諦めろ、ライト」
オズが楽しそうに笑った。
「追試頑張れよ」
「お前、追試の勉強付き合えよ」
「なんで?」
「お前と遊んで赤点取ったんだから責任あるだろ!」
「遊ぼうって最初に言ったの、お前じゃなかったか?」
「細かいこと覚えてんなよ!」
サユが笑いながら、自分の端末を閉じる。
「まあ、オズなら一時間で教えられるんじゃない?」
「一時間もかかるか?」
「は?」
ライトの表情が固まった。
「お前、今なんつった?」
「三十分で十分だろ」
「喧嘩売ってる?」
「評価してるんだよ」
「絶対嘘だろ!」
また教室に笑い声が広がった。
その少し離れた席で、瀬良トウヤは机に突っ伏したまま眠っていた。
騒ぎにも、ライトの叫びにも反応しない。
ただ、彼の前に置かれた小型端末だけは開いたままだった。
画面には、赤く表示された点数が映っている。
サユがそれに気づき、目を細めた。
「……トウヤも赤点じゃない」
トウヤは机に伏せたまま動かない。
ライトが、ゆっくりと顔を上げる。
「仲間……!」
トウヤは伏せたまま、面倒そうに片手を持ち上げた。
「一緒にすんな……」
「起きてんじゃねぇか!」
その日一番大きな笑い声が、明るい教室に響いた。




