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12 偶像の修復:接合

 洞窟の奥は、入口から差し込む光もほとんど届かず、作業台の灯りだけが手元を照らしていた。

 外の風の音も、ここまではほとんど入ってこない。

 聞こえるのは、自分の息と工具の触れ合う音くらいだった。


 白い機体は、作業台の横に横たわっていた。

 眠っているようにしか見えない姿だった。


 長い白髪と、床へ広がった翼。

 折れた光輪は、壁際に立てかけてある。

 胸には大きな穴が空いたままだった。


 オズは工具箱を開く。

 ドライバー。

 ペンチ。

 テスター。

 細い金属棒。


 拾って直したものばかりだが、どれも自分の指の延長のように手に馴染んでいる。


「さて」


 胸部の外装へ手をかけ、焼けた装甲を外す。

 その下から、細い線が根のように何本も分かれて現れた。


 都市の機械とは、何もかもが違う。

 端子の形も、線の束ね方も違っている。


 何のための部品なのか分からないものも多い。

 都市の部品には必ず型番と用途が刻まれているのに、ここには文字ひとつ見当たらなかった。


「……なんなんだろうな、お前」


 返事はない。

 青い目も、閉じたままだった。


 オズは途中で焼き切れた一本の線を持ち上げ、その先を目で追った。

 分岐。

 さらに分岐。

 途中から、外からは見えなくなっている。


 オズは別の外装を外し、その奥にあった線を引き出した。


「こっちか」


 言ってから、一瞬だけ手が止まった。


 初めて見る構造だった。

 それなのに、次にどこを開ければいいのかは分かっていた。


「……まあいいか」


 ドライバーを差し込み、焼けた線を一本ずつ外していく。

 使える接点を磨き、荒野で拾った銅線を切って被覆を剥がし、仮につないだ。


 テスターを当てる。

 反応なし。


「あれ」


 いったん外して端子を削り、もう一度つなぐ。

 今度は、数字が動いた。


「よし」


 電気を流す。

 小さな火花が散った。


 オズはすぐに電源を切った。


「そこじゃないか」


 一本戻し、別の線へ変えて接点を圧着する。


 もう一度。

 今度は火花が出なかった。


 機体の胸の奥で、消えていた部分に青い光がほんの少し灯った。


「お」


 弱い。

 今にも消えそうな、蝋燭の芯に残った火のような光だった。


 それでも、さっきまではなかった。

 オズの口元が上がる。


 数字が動いた時より、目の前で光ったことの方がずっと分かりやすい手応えだった。


「我ながら冴えてるな」


 次の線へ手を伸ばす。

 複雑な分岐。

 見たことのない端子。

 どれがどこへ続いているのか。


 考えるより先に、指が一本を選んでいた。

 同時に、胸の奥がわずかに熱を持つ。


 オズは気にせず、端子を外した。


 しばらくして、太い伝達線までたどり着いた。

 オズは手を止める。


「ここだな」


 そこだけは、前から、たぶん無理だろうと思っていた。


 手元にあるのは、荒野で拾った古い線材ばかりだ。

 その中から一番ましなものを選び、太さを合わせて端子へ固定する。

 そのまま本体へつなぐ前に、簡単な負荷試験を組んだ。


「持てよ」


 電源を入れる。

 数値が上がる。


 線が、細かく震えた。

 次の瞬間、被覆から煙が上がった。


「やっぱ無理か」


 すぐに電源を落とし、焦げた線を摘まみ上げる。

 被覆が途中から溶けていた。


「これじゃ本体につないだ瞬間に焼けるな」


 オズは椅子へ座り、作業台の上を見る。

 錆びた線。

 古い基板。

 変色した端子。


 今までなら、それでどうにかしてきた。

 荒野にあるもので足りないなら、足りるように工夫する。

 それがオズのやり方だった。


 今回は、それでも足りない。

 あと少しまで来ているのが分かるぶん、材料だけを理由に止まるのが妙に惜しかった。


 オズは白い機体の胸を見る。

 青い光が、弱く明滅している。


「もっとまともなのがいるな」


 都市で今使われている、細くても高い負荷に耐える線や、高密度の伝達素子なら使えるかもしれない。


「……どうやって持ってくるか」


 工具を指先で回す。

 学校。

 整備設備。

 資材庫。


 思いつく場所はいくつかある。

 当然、どれも勝手に持ち出せる場所ではない。

 この都市では、ねじ一本の行き先まで記録されている。


「まあ、その辺はあとで考えるか」


 オズはまた機体へ向き直った。

 主幹線以外にも、触れる場所はいくらでもある。

 焼けた接点を磨き、外れた部品を戻し、断線をつなぐ。


 外して。

 確かめて。

 また戻す。


 いつの間にか、工具箱の中身が、作業台いっぱいに広がっていた。

 洞窟の入口は、来た時よりずっと暗くなっている。


 端末が鳴った。


「うわ」


 オズは顔を上げる。


 設定していたアラーム。

 オールドベルへ戻る時間だった。


「もうそんな時間かよ」


 工具を置く。

 機体の胸の奥では、青い光がまだ弱く明滅している。


 オズはしばらく、それを見ていた。


「今日はここまでだな」


 工具をまとめ、使えない線を端へ寄せる。

 焦げた一本だけが、作業台の上に残った。

 作業台の隅では、封を切っていないナッツの袋が二つ、工具に押しやられていた。

 学校帰りに、いつもの店で買ってきたのに、また食べるのを忘れている。


 オズは洞窟の入口へ向かう。

 暗くなった洞窟の奥で、胸の青い光が一度だけ弱く脈打った。

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