幕間 五歩うしろ:午後
放課後。
五人は、いつものように学校を出た。
正確には、四人と、その五歩ほど後ろを歩くトウヤだった。
前ではライトが、センター街に新しくできた店の話をしている。
「今日こそ寄ってこうぜ。期間限定なんだって」
「昨日も限定って言ってなかった?」
「昨日のとは別の限定」
「毎日限定じゃん」
サユの声に、ライトが大げさに反論する。
二人は同じ住宅区の方角へ帰る。
途中の商業区画へ寄り、店を眺めたり、何かを食べたりしているらしい。
何がそんなに楽しいのか、トウヤにはよく分からない。
けれど、二人が並んで歩いている時の声は、学校にいる時より少し軽かった。
大きな交差点へ着く。
ここから先は、それぞれの帰路が分かれる。
「じゃ、俺らこっちだから」
ライトが手を上げた。
「トウヤも来る?」
サユが振り返る。
「行かない」
「即答かよ」
「人多いだろ」
「夕方のショッピングモールなんだから、そりゃ多いって」
「じゃあ、なおさら行かない」
「たまには付き合えよな」
そう言いながら、ライトはもうサユと並んで歩き始めていた。
二人の声が、人の流れへ混ざっていく。
楽しそうだった。
そこにあるものを、そのまま楽しいと思える。
それはたぶん、簡単そうに見えて、簡単なことではない。
「僕は寮へ戻る」
ノアが言った。
「今日の授業は復習しておきたい」
「お前、昨日も同じこと言ってなかったか?」
オズが呆れたように笑う。
「昨日は昨日の復習だ。今日は今日の分がある」
「明日やればいいだろ」
「明日には、明日の課題がある」
ノアは一切迷わなかった。
決められた道を、決められた歩幅で進んでいく。
自分が進む先を疑わない。
それが正しいと信じて、努力を続けられる。
トウヤには、それもすごいことのように思えた。
「蒼弐は?」
ノアが尋ねる。
「俺はちょっと用事」
「また寄り道か」
「自主学習だよ」
「お前の自主学習は信用できない」
「満点取ってる奴に言うことか?」
オズは笑いながら、別の通りへ足を向けた。
また、危険な遊びでも始めるのだろう。
監視の隙を探し、イドの目をかいくぐり、自分だけの何かを見つけに行く。
自由なやつだ。
その自由が、少し羨ましかった。
ノアが寮の方角へ歩いていく。
オズも、通りの向こうへ消えていく。
信号が変わる頃には、交差点に残っているのはトウヤだけだった。
家へ帰っても、たぶん両親はいない。
帰宅時刻を知らせる通知だけが届き、食事は自動で用意される。
不便なことは何もない。
欲しいものは申請すれば届く。
危険は取り除かれ、間違った道を選ばないよう、機律イドが見守っている。
この世界は、安全だった。
そのはずなのに、何をするにも窮屈だった。
オズのように、道から外れる勇気はない。
ノアのように、規律を信じ抜く意志もない。
ライトやサユのように、そこにある日々を幸せだと感じることもできない。
自分には何もない。
不満があるわけではない。
何かを変えたいわけでもない。
ただ、どこへ向かえばいいのか分からなかった。
青信号が点滅する。
警告音が鳴り始めても、トウヤは渡らなかった。
その場で足を止め、空を見上げる。
雲ひとつない、突き抜けるような青空だった。
どこまでも高く、何にも遮られていない。
それなのに。
「……堕ちてきそうだな」
トウヤはひとりごちた。
信号が赤へ変わる。
交差点を行き交う人々の中で、彼だけがしばらく空を見上げていた。




