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38話「魔界の中心地へ」


     *     *     *


 一ヶ月後のことだった。


「わあ……広っ……」


 私は案内人に連れられて、魔界の中心地、ヘラルートまで来ていた。

 目の前にはプラネッタ国(元オトナシ王国)を容易く凌駕するほどの高層建築物がずらりと並んでいて、私は首が疲れるくらいにそれらを見上げる。

 正直ここまでとは思わなかった。人間界をはるかに凌駕するほどの発展度合いをしている。言っては何だが、世界征服を本当に実行できるだけはあった。

 もし世界を征服されずに、私が王女になれていたとしても、こうまで発展させることはできなかっただろう。敵ながら天晴れと言うべきか。


 しばらく見上げていると、案内人から指示があったので移動する。連れられた先は巨大なホテルだった。

 ホテル内は貸し切りで、トーナメントに参加する各校の代表の生徒だけがここに泊まるそう。

 外観からすでに高級感があふれていて、一週間後にトーナメント戦が開催されるまでは、ここで暮らすのだと。

 失踪を避けるために発信機こそ取り付けられているものの、自由に外を出歩くことも許されているそうだ。

 私はホテルの個室で荷物を下ろして、中から一つの小さなぬいぐるみを取り出した。

 それはユラネを模した人形。


「ユラネ……」


 ムクロガミの暗殺以来、私はユラネがいないと精神が安定しなくなっていた。

 当然、本来なら今も罪悪感に駆られてまともでいられなくなっているだろう。

 それでも今平然としていられるのは、このぬいぐるみのおかげだった。

 このヘラルートに来れない代わりに、わざわざユラネが想いを込めて私のために作ってくれたのだ。

 これがあれば、どんなに遠く離れていてもユラネを身近に感じることができる。このミニユラネ人形が、私の心を支えてくれる。私は両手で優しく包んだミニユラネ人形に頬を擦って、気持ちを落ち着かせた。


「ありがとう、ユラネ……」




 私は荷物の準備を終えると、とりあえず外を出歩くことにしてみる。

 定められている門限までは、ホテルに篭ろうが外を出歩こうが自由なので、せっかくならと散歩をしようと思った。


(情報は集めるに越したことはないしね)


 魔王と戦う以上、いつかはここで戦う可能性もある。なので雰囲気だけでも掴んでいこう。

 どのみち、コネミには暗殺活動は行うなと強く口止めされたのでこれ以上のことはできないし……。

 もしここで誰か要人を殺せば、プラネッタとヘラルートでしか活動していないことに気が付かれて、最終的に私にたどり着く可能性がある。

 もし捕まらなくても、犯人だと疑われた時点で行動がかなり制限されるはず。なので、今回は大人しくトーナメントに徹するしかなかった。

 私はふらふらとホテルの近辺を歩いて、小一時間ほど時間を潰す。

 一応観光が楽しめるだけのお金も支給されていたが、とくにどこに使うわけでもなく散歩をする。


 そろそろ帰ろうかなと私が考えていた矢先のことだった。


「ナキネ……!」


 そんな声が背後から突然かかってくる。

 こんな場所でまさか私の名前が呼ばれるとは思っていなかったので、一瞬自分のことだと理解できず戸惑う。

 少し反応が遅れて振り返ると、そこにいたのは……


「お姉……様……?」


 オトナシ・ルーネキッス。

 かつて生き別れた、血のつながった実の姉だった。




「衝撃的なお別れをしたけれど、再会は意外とあっさりなものね」

「だね……。もう会えないと思ってたから、生きてて嬉しいよ……」


 私は、お姉さまの部屋にお邪魔することになった。

 二人でベッドに腰を下ろして、五年ぶりに話し始める。


「ナキネ、雰囲気変わった? 前までは敬語が抜けなかったけど、親しみやすくなってる」

「まあ、色々あって……」

「そっか……。よく似合ってると思うわ。どこか堅さが取れた感じがして」

「ありがとう、お姉様はあのときのままで安心した。あとは、その……言いにくいけど身長も……」


 お姉様の身長は、何と私よりもさらに少し小さかった。

 私達は紛れもなくトーナメントの参加者だが、側から見ると子供が迷い込んでいるようにしか見えないと思う。


「あはは……。もしかしたらオトナシ家は身長に恵まれないのかしら……。私なんか妹にも抜かされているし、姉としての威厳がなくて困るわ……」

「まあ、どんぐりの背比べってやつだよ……。周りから見れば多分……」

「「ああ……」」


 二人して俯き嘆いた。

 低身長というのはやはり不利でしかない。

 誰かと話すときは相手をずっと見上げるので首が痛くなるし、高いところに手が届かないし。何より国の最前線に立つには見た目に威厳がなさすぎる……。

 可愛がってもらえるのは利点になるかもしれないが、すらっと格好良く映りたい私としてはむしろ不服。まさにデメリットのオンパレードである。


「身長の話はやめておきましょうか……」

「そうだね……」


 私達は別の話題に移る。


「そういえばトーナメント表の話だけど……。ちゃんといたね」

「うん、まさか全員出場してるとは思わなかったよ」


 お姉様の部屋にお邪魔する少し前。

 ホテルのロビーまで戻ってきたとき、トーナメント表が大きく貼り出されていた。

 各学年ごとに分かれていて、一年には私の名前、二年にはお姉様の名前が書かれていた。

 そして、三年にはオトナシ・スガル。兄弟姉妹の長男、お兄様の名前。中学生部門の三年には、オトナシ・デアルナラバ。弟の名前が書かれていた。

 一男スガル。二女ルーネ。三女ナキネ。四男デアル。生き別れた四人のきょうだいが、何とこの地に同時に集結していたのだ。


「ここに来れるくらいだから、全員実力派か。オトナシ家は優秀だね」

「みんなレアスキルやレジェンドスキルくらいは持ってるかもしれないわね」

「たしかに……。お姉様は持ってるの? レジェンドスキル」


 お姉様は、


「ええ、持っているわ。色々あってね」

「そっか……」


 微笑みながらそう言った。

 レジェンドスキルを獲得するほどなのだから、その苦労は相当なものだろう。

 裏でどれほどの苦しみを味わってきたのか。私にはそれを素直に称賛することはできなかった。


「ナキネは?」

「……私もあるよ。まあ、デモンはレアスキルだけで勝ち上がってきたけど」

「そう……。お互いやっぱり苦労は多いものね……」

「だね……」


 少し間が空いて、


「そうそう、私もレジェンドスキルを使わずに勝ち上がってきたのだけれど、すごい偶然ね!」


 お姉様はそう言ってくる。


「え、そうなんだ? 偶然……?」


 私が言葉の意味を理解できずに問いかけると、お姉様は笑顔を崩さずに言った。


「ええ、偶然よ。つまりあなたと同じってこと! 分かる?」

「……あ」


 そこで真意を理解した。

 私と同じ。つまりお姉様も同じ志を持っているということ。

 レジェンドスキルをあえて使わずに実力を隠して、ここぞというときに発揮する。……魔王を殺すために。


(ミステリアの正体……。すでにバレてたみたいだね……)


 お姉様は、正体不明の人物が用心を暗殺した話を聞いて、きょうだいの誰かが生きていることを確信していたのだろう。

 だから、あんな周辺を意味もなくうろついていたのだ。情報集めに勤しむであろうミステリアを見つけるために。

 まあ、それを聞くのは野暮ってやつかな……。


「そういうことね……。ちなみに私は本戦でもレジェンドスキルは使わないよ?」

「あら奇遇ね。私も」

「あはは。これだけ仲がいいなら、いつか冒険者になってパーティーを組むのもいいね!」 

「いいわね、そうしましょう!」


 案外、お先は真っ暗ではないのかもしれない。

 私達は含みのある言葉を交わしながら、久しぶりの再会の喜びを分かち合った。

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