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93 ウエスタン領になって良かったようです

ウエスタン領では、それほどトラブルは起きません。

 私たち一行はイスラ村民の皆さんから盛大な見送りを受けて、西に向けて出発した。これからのウエスタン街道は、隣接の市町村まで概ね40キロ程度なので、荷馬車で8時間、4頭立ての高速馬車では5時間程度はかかってしまうだろう。騎馬単騎では最大速度20キロは出るだろうが、それでは、途中で馬がつぶれてしまうし、やはり旅行時間の問題は高速交通機関が開発されない限り解決しないのだろう。


 インバス町に近づいていくと、周囲は丘陵地帯となっており、多くの牧羊が群れを作っていた。この辺りは地形の高低差が激しいため、畑作が困難で、かわって酪農が盛んなようだ。いたるところにサイロが立っていて、刈り取った牧草を貯蔵しているのだろう。雪深い地なら、牛舎や羊舎の近くにサイロを多く作るのだろうが、あまり雪の降らないこの辺りでは、刈り取った牧草をすぐにサイロに貯蔵して、必要になれば羊や牛の群れを移動させた方が作業が楽なのだろう。


 インバス町に入ってみると、さすが人口6500人の街だけあり、活気に満ちている。というか、織機のガチャン、ガチャンという音が鳴り響いていた。また、糸屋さんや毛織物屋さんが軒を連ねており、買い付けの商人だろうか、荷馬車を何台も引連れて街の大通りを通っていく。この街は、毛織物の街だと聞いていたが、なるほどと納得できる街並みだった。


 町の行政庁舎前の一等地にあるホテルの前で馬車を降りると、いかにも文官という雰囲気の男性と、上級衛士の制服を着ている女性が並んで待っていた。この街の行政官をしているバートン卿と衛士隊長のロズネリア衛視正だ。そういえば、以前、フラナガン隊長に聞いたことがあるんだけど、衛士には階級がきちんと決められていて、下から、


   衛士、衛士長、衛士部長補、衛士部長、衛視、衛視正、衛視長、衛視長官


 となっている。フラナガン隊長は衛視長官という最高位の階級だそうだ。日本での署長級が衛士正という階級なのだろう。この町には60名程度の衛士隊があり、町の治安を一手に担っているが、魔物への対処は、衛士隊の任務ではなく冒険者ギルドに依頼をだすか、領都の騎士団を派遣してもらうことになっている。しかし、現在、騎士団は開店休業中なので、冒険者ギルド一択だとのことだった。


 インバス町には、かなり早く着いたので、ベス嬢と二人で街の散策に歩くことにした。ベス嬢は、当たり前のように私の左側に並んで腕を組んでくるので、おのずと私たちは通りの左側を歩くようになっている。ベス嬢は、上機嫌でウインドウショッピングを楽しんでいて、気になる品があると、立ち止まってじっと見ている。私は、後ろから随行してきているスザンヌさんに合図を送り、後で購入してもらうのだ。もちろん、ベス嬢の身長、体重、スリーサイズ、指輪のサイズまですべて把握ずみだが、決して私には教えてくれない。その辺は、メイドの心得とのことだった。


 この町は、毛織物が特産品だけあって、王都でも見ないような柄の毛織物があった。中でも元の世界で高校生たちが好んで巻いているチェック柄のマフラーが目についた。何でも、騎士達には決まった毛織物のチェック柄があり、その柄を見ればどの騎士のものかが分かるようになっているそうだ。前の世界で聞いたような話だが、よく聞いてみると、今は家柄に関係なく好きな色と柄で使われているそうだ。まあ、そうだよね。この店だって、こんなに多くの柄を売るのに家柄を気にしていたら売れないもんね。


 ベス嬢は、赤色を基調としたタータンチェックのマフラーを購入していた。私は、グレーを基調とした柄が良いと思ったのだが、子供らしくないと言われて緑色のタータンチェックのマフラーを買わされた。解せぬ。


 シュナちゃんには、私と同じ柄のベストを買ってあげた。えーと、なんかシュナちゃんとお揃いなのですね。ホテルは、かなり立派なもので、伝統と格式がありそうな雰囲気だ。ここは毛織物産業が発展していて、各地の商人が毛織物を仕入れに来るらしく、また、年に一度、春先に、ニュウウールで織り上げた新作毛織物の展覧会を行うらしい。そのため、結構な地位の貴族や大商人が来るらしいのだ。それらのお客さんを宿泊させるためのホテルも、それなりのレベルが必要らしい。うん、前のダメンズ元侯爵、その辺はしっかりしていたんですね。


 バートン卿の話では、今年の税金免除で、この街のほとんどの人は恩栄に預かることができて、未曽有の好景気に沸いているそうだ。また、通行税も廃止したので、商人達も、この町や隣のイカルガ市に支店を出店したがっているそうだ。しかし、安全な城壁内の土地には空きがないので、町域の拡大の陳情が殺到しているとのことだった。この辺は、牧羊地帯が広がっており、魔物や野獣は、すぐに冒険者たちに狩られてしまうので、安全なのだが、やはり外壁のない郊外はそれなりに危険なのだろう。


 今日の宿泊先はツイン・スイートでベス嬢とは別々のベットとなったが、ベス嬢の残念そうな顔は見なかったことにしておこう。夕食は、予想通り、町の有力者との食事会になったが、この冒険者ギルドの支部長と事務長、そして最高位冒険者であるBランク冒険者3人が招待されていた。見た感じ30歳位だろうか。きちんとテーブルマナーもできているようなので、こういう会合にも慣れているのだろう。聞くと、それもそのはず、このパーティは、貴族家の2男、3男が集まって結成したそうなのだ。


 そう言えば、隣のイカルガ市には子爵が領内領主をしているとのことだった。領内領主とは、一応領主ではあるが、領地の貴族は、主人である貴族のものになるのである。江戸時代の藩の重役が藩内に領地を与えて貰うようなものなのだろう。前の反乱に加担した貴族は全員、貴族家を取り潰しになってしまったが、中立もしくは反乱軍に反抗した貴族家もあり、隣ののイカルガ市の領主であるブラウン・フォン・イカルガ子爵は領都に近いせいもあって、積極的に打って出ることはせず、籠城して反乱軍と対抗したとのことであった。どんな人なのか、会ってみたいと思っている。


 そう言えば、領内に貴族は何人いるのだろうか。ベンジャミン卿に聞いたら、流石に伯爵はいないが、子爵は3人、男爵が8人いるそうだ。あと準男爵は19人も居るそうだ。今回の内乱で、子爵1人と男爵7人、準男爵4人が処刑され、お家断絶となったそうだ。さすが広大な領地だけあって、貴族が多かったようだ。男爵以上の者の領地はどうしているか聞いたところ、隣接する貴族が仮統治しているそうだ。早急に帰属を確定する必要があるが、ナイーブな問題もあり、直ぐには決められない状況があるとのことだった。まあ、そうでしょうね。


 冒険者ギルドの支部長に、この辺に出没する魔物について聞いたところ、ビッグホーンボアやファングベアなどの野獣系の大型種が多いそうだ。そういえば、今日の夕食会のメインディッシュは、ビックボーンボアのステーキだった気がする。豚肉というよりも牛肉に近い味だが、適度に脂が乗っていて、高級食材らしい逸品だった。


 この魔物は、この近くでよく獲れるのか聞いたところ、Bランクパーティでやっと討伐可能な強度レベルだし、森のかなり奥にしかいないので、討伐した後で、町に戻ってくるのも苦労しているので、年に何回かした討伐できないそうだ。今度、領内巡視の途中にでも討伐してみようかと考えていたところ、冒険者のうちの一人が私の席に近づいてきて、食後、少しの時間をいただきたいと言ってきた。年齢は20代後半というところだろうか。長身だががっしりした体格のため、それほど大きさを感じない。うーん、パーティではタンク役だろうか。夕食会後は、特に用事もないので、ホテルの談話室で待っているようにお願いしておいた。


 談話室に行ってみると、その冒険者はソファに座ることなく、入り口の傍で立って待っていた。ソファに座る様に言っても、なかなか座ろうとしない。仕方がないので、私だけソファに腰掛けると、その男は突然その場で土下座をした。この世界では、土下座の習慣はなく、奴隷や罪人に強いることはあっても、一般人ではなじみが無いはずだ。男は、額を床に付けるようにしながら、震える声で話し始めた。


   「突然の申し入れ、聞き入れていただきありがとうございます。私は、ジオグリア・フォン・ケインズ元子爵が次男のクロウズと申します。家名は、お取り潰しになったので名乗っておりません。侯爵閣下には、ぜひお願いの儀があり、この場をお借りしております。」


 貴族出身とは聞いていたが、あ、元子爵の家族だったのね。


 

Bランク冒険者は、小さな町ではトップランカーです。

次話は、明日6:00に投稿します。

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