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92 ウエスタン領は豊作のようです

ウエスタン領への旅は続きます。

 真っ青な秋空が高く感じられる。北の空から真っ白な鳥が南の方へ飛んでいる。きっと、子育てを終えた白鳥が温かいウエスタン領に飛来してきたのだろう。木々はまだ紅葉を迎えていないが、ブナやシイ、楢ノ木のような広葉樹林が麦畑の向こう側に広がっており、また、すでに収穫を終えた畑には秋蒔き為に一家総出で耕している姿は平和で、ついこの前までツーリ王国からの侵略や内部貴族の武装蜂起があったことなど感じさせないのどかさだ。


 ゴーレム馬のポックン、ポックンと言う音を聞きながら、ウトウトしていたら、馬車がギイと止まった。あれ、どこかに着いたのかなと思ったら、ウエスタン市からベンジャミン準男爵とフラナガン衛士隊長が迎えに来てくれたそうだ。私とベス嬢は馬車を降りてお互いに挨拶をする。別に迎えなどいらないのにと思ったが、気持ちはありがたくいただいておくことにしよう。それと、旧ダメンズ侯爵が使用していた馬車の内外装がリニューアルできたので、それで迎えに来たようだ。馬車は、サスペンション付きの四輪4頭立てで、外装はウエスタン家のシンボルカラーの紺碧の青の漆塗り、馬車の周囲は、金のピンストライプによる唐草模様に装飾され、ドアにはウエスタン侯爵家の紋章、竜に互い剣が2本が描かれている。御者が乗車台をセットしてくれたので、ベス嬢の手を取って乗車してもらう。馬車は、総革張りのソファが向かい合わせでセットされており、進行方向に向かっては大きなソファタイプとなっており、反対側は、1人掛けのソファが2脚、並んでおかれている。私とベス嬢は、進行方向に向かっているソファに二人で並んで座り、ベンジャミン準男爵とフラナガン騎士隊長は、反対側に座っている。


 ベンジャミンさんは、さっそく、今年の作物の収穫状況を報告してくれた。しかし、報告を聞いて驚いた。今年の収穫は、通年の収穫量の倍、大豊作だそうだ。これだけの収量は、過去のダメンズ元侯爵の治世でもなかったそうだ。あれ、特に豊穣の神に祈ったこともないんですけど。きっと皆には内緒にしているけど、あの『神の加護』のおかげだろう。また、税免除の噂を聞いて、商人や職人たちが大量に流入しており、街は『豊作景気』と言う活況に沸いているそうだ。良質な小麦を大量かつ廉価に買いたい商人、買い取った小麦を王都などの大消費地に運ぶ運送屋、その警護を引き受ける冒険者、後は馬車屋や馬喰などの職人、そして大金を手にした農民達、その大金を狙っている商人達。本当に『風が吹けば桶屋が儲かる』の諺ではないが、豊作万々歳だ。


 領都の拡張計画も進んでおり、今の城壁から500m程度、周囲に広げていく計画を策定中だそうだ。うーん、この際だから500mなどと言わず、1000mつまり1キロ程度は拡張したいな。そうすれば、スラム街も整理できるし、新しい産業もできると思うんですけど。


  あと、市内のメインストリートに鉄道を敷きたい。この世界では、まだ気動車等はないので、当面は、馬で曳く鉄道馬車になるだろうが、将来的には魔道具で動く気動車を作りたい。というか、作るつもりだ。実際には、私が王立学院を卒業してからになるだろうが、市のインフラ整備に合わせて、鉄道だけは整備していこう。ウエスタン領は、王国内でも最も広く、東西350キロ南北250キロ、8万5千平方キロもある。日本では、北海道並みの広さだ。とても徒歩や馬車で移動できる広さではない。私なら、空間移動で短時間で移動できるが、領民達は、領内でも行ったことのないところが多いのではないだろうか。そう考えると、領内の鉄道網の整備も喫緊の課題だろう。魔力エネルギーを活用した内燃機関もそのうち作れるだろうが、やはり蒸気機関を参考にした外燃機関の製作が先かなと思う。


 私たちは、ウエスタン領内の最初の村に到着した。領境から領都であるウエスタン市まで、約200キロ、途中、1市1町2村がある。東からイスラ村、インバス町、イカルガ市、イマジカ村となっている。私達は、イスラ村の入り口で、村民たちの盛大な歓迎を受けた。もう夕方だというのに、こんなに大勢の人達が出迎えてくれて、夕飯の支度は大丈夫なのだろうか。しかし、これもすべてベンジャミンさんの差配によるものなのだろう。村に一つしかない旅館の前に馬車を止め、降車すると、周囲は村人で囲まれている。私は、村人の方に向かって、挨拶をする。


   「皆さん、お出迎えありがとうございます。私は、ウエスタン領の領主に任じられたフレデリック・フォン・ランカスター・ウエスタンです。皆さんとお会いできたことをうれしく思います。領内のことは、ここにいるベンジャミン卿に任せていますが、何か困ったことがあったら、遠慮なく申し出てください。」


 うん、この挨拶は、これからどこでも使うことにしよう。この後、村長という人が代表挨拶をして一旦解散となった。この後、お風呂に入ってから、旅館の食堂で、歓迎夕食会だそうだ。本当は、ゆっくりしたいところだが、まあ、これも領主の務め、しょうがない。もちろん、ベス嬢は私の婚約者として出席する。ベンジャミンさんは、いろいろ手配をしているが、夕食前に、村の有力者の挨拶を受けなければならないそうだ。村は、人口2500人程度だが、教会が1つ、小さな商会が2つ、診療所が1つ、冒険者ギルドの出張所がこの旅館の中にあるそうだ。それと、100人程度の単位で寄合が決められており、いわゆる日本で言う町内会のようなものだろう。その区長さんたちが村長と協議して村の運営を決めていっているらしい。まあ、簡易的な民主主義だね。あと、村役場の助役というか行政的な責任者が3人ほどいた。総務、徴税、民政の3部門だ。これは領内の村では標準的な構成らしい。総務部門は、責任者といえども部下がいないので、何でも屋的な仕事を一人でやっているらしい。とにかく、限られた人員で村を運営していくのは大変なことだろう。頑張ってください。


 夕食会は、食堂のテーブルを長くつなげた形だ。私とベス嬢は細長い長方形のひな壇のところに座らせられたが、狭い食堂内だ。かなり密着しているけど、なぜかベス嬢、ニコニコしている。食事の内容は、周辺の野山でとれる鳥獣類と山菜、それと大量の野菜が主な材料の様で、とてもおいしく頂くことができた。旅館の亭主と奥さんだけでは手が足りなかったようで、近所の奥さん連中も手伝ってくれたみたいだ。食事会と言っても、大人たちにはお酒が提供されている。飲み物はエールとワイン、それと珍しいことに山でとれた芋から作った焼酎だ。でも、焼酎と言っても、蒸留していないので、ドロッとしたどぶろくのような感じだ。かなり匂いがきつそうだが、村人やベンジャミンさん、グイグイ飲んでいる。あ、これって駄目になるやつだ。私とベス嬢は、早々に食堂から退散することにした。


 部屋は、この旅館で一番大きな部屋だが、ベッドがダブルベッド一つしかない。スザンヌさんやジュリちゃんはシングルに分散して泊っている。まあ、8才児と7歳児では何もないだろうが、部屋に二人っきりでいると緊張してしまう。ベス嬢がお茶を入れてくれる。お茶の入れ方はレディの嗜みなので、ベス嬢も幼いころから教わっているようだ。うん、それではお茶を飲んだら寝ますかね。


  翌朝、午前6時に起きて、ベス嬢を起こさないように、そっとベッドから出ていく。この時の秘訣は、ベッドを揺らさないように、少しだけ『浮遊』をかけて体重をベッドにかからないようにするのだ。音をたてないようにパジャマから普段着に着替え、窓から見える裏庭に『ゲート』をつなげる。こんな時、『ゲート』は非常に便利だ。


 10月も下旬ともなると、この時間は日の出前だ。東の空がほんのり赤くなったかなという感じの中、準備体操を終えてから、3斤の木刀による1000本素振りだ。


   ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ


 木刀の風切り音がする。最初は『ビュッ』という音だったが、最近は高音の風切り音に変わってきている。途中の休みなしで40分ほどで素振りを終えた。次は剣の形を練習する。仮想の相手に向かって、中段、上段、下段と構えを変えての打ち込みだ。最近は、片手剣の形も混ぜている。片手剣は、単に片手で剣を振るだけではなく、両刃の剣の特性を生かした、突きを主体とした形だ。3斤の木刀は日本刀のような片刃の剣を模して作成されているので、どうしても片手剣の形では無理があるのだが、そこは気にしないで右半身の基本の姿勢から打ち込みをしてみる。剣先を相手の眉間に合わせて、一歩踏み込んで上段から打ち込み、そのまま、すり足で半歩前進して、あいての胸のあたりを突いていく。その後、剣を右に振りぬいて、相手の胸から剣を抜く動作を仮想で行い、左前で体を躱し、仮想の盾を持っている左手を前に出して、相手の攻撃を防ぐ残心を示す。


 日本剣道の形とはかなり違うが、構えから打ち込み、そして残心と流れは一緒だ。30分も形をしていると、汗がびっしょりとなってしまう。これ以上は朝食に間に合わなくなるので、今日の稽古は終了だ。


「神の加護」は、最強です。

次話は、明日6:00に投稿する予定です。

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