94 クロウズさんが臣下になるようです
クロウズさんは、元騎士団長だったようです。
クロウズさんは、現在27歳、王立騎士学院を卒業し、王城騎士団に入団したが、父の領地の騎士団長をするために6年前に辞職したそうだ。ケインズ子爵領は、ダメンズ元侯爵の領地内領地で、領内でも最も西の領境に接して南北に細長く伸びた領地を治めていた。隣接のブロンコ辺境伯との関係は良好で、領境でも問題は起きていなかったが、ダメンズ元侯爵からは、何かというとブロンコ辺境伯領地を侵食するように言われていたそうだ。ケインズ家は、もともとダメンズ家で騎士団長をしていたが、100年前のツーリ帝国との戦争で武功が認められ、男爵に任じられ、その後、災害級の魔物が領内で暴れていた時に討伐隊を指揮して撃退したことを評価されて王室から子爵に昇爵されたのだが、領地は、独立領ではなくダメンズ侯爵領内にある現在の土地を領地内領地として租借していたそうだ。
曾祖父の頃から、ダメンズ元侯爵家の筆頭貴族として、また武門の要としての重責を担っており、それなりの処遇を受けていたのだが、今回の内乱においてツーリ帝国の侵略に呼応しての蜂起を廃爵された貴族らに促されたらしい。クロウズさんの父親であるジオグリア・フォン・ケインズ子爵は、王室に叛旗を翻すのには反対だったが、先祖からの付き合いのある貴族達の窮状を聞き及び、民百姓のためと訴えられては断ることもできず、僅かな供回りを連れて、内乱軍とともにブロンコ領内に先陣を切って進攻したのだそうだ。まるで明治時代、窮状を訴える武士達のために立ち上がった西郷隆盛みたいな人だったようだ。
籠城をすすめるブロンコ辺境伯軍が反撃に出た際、一度も干戈を交えずに降伏をしたのだが、罪は罪、内乱罪で極刑に処されてしまい、自領内に立てこもっていた長男も責任を取って自害したそうだ。結局、内乱軍に加担はしたものの、直接、戦闘に参加していなかったということで、それ以上一族に類は及ぼさず、家門廃爵、領地没収ということで処分は終わったそうだ。もちろん、次男であるクロウズさんは、所属している騎士団が解散させられたので、両親と義理の姉それと、その子供達を養うために冒険者として、この地で活動しているそうだ。そして、彼のお願いとは、亡き兄の遺児、今年7歳になるそうだが、その子を取り立てていただきたいということだった。
ベンジャミン卿とフラナガン衛士隊長は、彼のことはよく知っているようで、何も言わずにじっと私の方を見ている。うーん、彼の要望をすぐに叶えてあげるにはかなり無理がある。あまりにも情報が少なすぎるのだ。まず、クロウズさんの人となりが分からない。もちろん、言っていることが真実かどうかも含めてだ。あと、御父上のケインズ子爵が決起した真の理由だ。いくら元の仲間達から求められたとは言え、国家への謀反は重罪である。あと、今年7歳になる甥御さん、クロウズさんは本当にその子のことだけを心配しているのだろうか。子爵家再興となれば、成人である本人が子爵を継げばよいのではないか。というか、その親子は今どこにいるの。また、領内のの騎士団はどこに行ってしまったの。その辺が分からないのに、今、返事をするわけには行かないだろう。
クロウズさんの冒険者仲間である2人も元貴族の子弟と言っていたが、彼らは一体クロウズさんとどんな関係があったのだろうか。
「クロウズさん、あなたのお仲間の二人も元貴族の子弟と聞きましたが。」
「はい、この2人は、私の配下として騎士団で将校をしていた者たちで、私とは騎士学校で同期でした。」
なるほど、皆さん、優秀な方々ばかりだったのですね。
「騎士団長だったあなたが、どうして御父上と一緒に決起されなかったのですか?」
クロウズさん、目をつぶってしばらく沈黙していた。
「・・・そ、それは父の考えでした。騎士団長である私は、領主である父と行動を共にするつもりでした。また、そうでなければ不忠の誹りを受けてしまうでしょうし、そのことは耐えかねない恥辱でありました。しかし、父は、私を城の地下にある牢屋に拘束して、自分だけ、いや3名の腹心のみを連れて領都に向かったのです。」
クロウズさん、本当に悔しそうな顔をしている。ことの善悪ではなく、武人として父とともに行動したかったのだろう。うん、これは今決めないけど、様子見しよう。
「分かりました。それでは、皆さんは、私達と一緒にウエスタン市に向かってください。クロウズさんは、その甥御さんを私に会わせてください。それから判断します。」
やっぱり、会ってみないとね。ついでに、3人のレベルを鑑定させて貰った。
クロウズ
アスラン暦439年4月21日生まれ(27歳5か月)
人間族 男性
レベル 28
HP 85
MP 72
攻撃力 79
防御力 43
魔法適性 火
称号:なし
スキル:剣術(中級)
身体強化(初級)
錬金術(初級)
騎士団長としては、少しレベルが低いかなとも思えるが、錬金術スキルが珍しい。聞くと、小さい時から色々なものを作るのが好きで、いわゆる工作少年だったらしい。冒険者になってからは、薬草を採取してきて、独学で回復薬や毒消薬を作っていたらしいのだ。それで錬金術が生えたのだろう。あと、残りの2人もなかなか優秀そうだった。魔法適性が、土と水なのもいろいろと使えそうだ。
もともと、広大なウエスタン領を統治するためには、優秀な人材が必要であり、断絶された貴族家の復活も考慮しているところだ。外国と内通していたダメンズ元侯爵や、苛政を敷いていたカインズ伯爵、廃爵に納得できずに反乱を起こした元貴族が処分されたことは仕方がないが、その家族まで一蓮托生で処分するつもりはさらさらない。
今後、寄子や領地内領地を統治している配下の貴族に対して、ある程度発言力のある者を仲間にしていかなければならない。そう考えてみるとクロウズさんは、元騎士団長だし子爵家というウエスタン領内では上位の貴族になるのであろうから、子爵家復興の方向で調整してみよう。
次の日の夕方、何事もなくイカルガ市に到着した。城門の外には騎士達が10騎ほど整列しており、貴族服を着た40年配の男性が先頭に立っていた。おそらく彼がイカルガ子爵なのだろう。私たちの馬車はその前で停車し、私とベンジャミン卿、フラナガン隊長が降車してイカルガ子爵の挨拶を受けることにした。イカルガ子爵は、右手を握って左胸の前にあて、左手は、腰の後ろに回して、やや頭を下げる貴族の礼をしながら、
「初めてお会いします。私は、このイカルガ市を任されているブラウン・フォン・イカルガと申します。本日は、ウエスタン侯爵閣下の御尊顔を拝し、恐悦至極にございます。以後、忠誠をお誓い申しますので、末永くお引き立てよろしくお願いします。」
「フレデリック・フォン・ランカスター・ウエスタンです。今後もよろしくお願いいたします。」
うん、領地内領主である貴族は、確かに私の配下になるのだろうが、貴族の任命権はあくまでも国王陛下にあるので、私の臣下というわけではなく、臣下の礼はとる必要がないのだ。私みたいな8歳児に臣下の礼など、くすぐったい気がしてしまうし。
まだ、日が落ちていない位の時間なので、このままブラウン子爵邸まで歩いて行くことにした。メインの通りは、石畳が敷き詰められており、馬車のわだちで抉られているところもなく、また、残飯など雑多なゴミも落ちていない。街の人達も活発で、なかにはブラウン子爵に声をかけてくる人もいる。それだけでも、皆に慕われていることが伺える。
ブラウン子爵邸は、お城というよりも大きなお屋敷と言う感じだった。敷地はそれほど大きくないが、品のある建物がコンパクトに建てられていた。敷地に隣接して騎士団と衛士隊の合同庁舎が建てられている。合同庁舎が面している道路の反対側が行政庁だ。幾つかの馬車が停まっており、許認可届に訪れる商人などが多いのだろう。
ブラウン子爵の屋敷の中は、落ち着いた雰囲気で、子爵の人となりが窺える内装と調度品だった。子爵からは、今年の租税と年貢が免除されたことに対しての謝意が伝えられた。領地内領地の課税権は、そこの領主にあるが、宗主貴族に上納する額が多いと、領主内領主の取り分は微々たる物になってしまう。近年、領民にはかなり無理をして貰ったが、今年は蓄えができるほどに豊作で、かつ子爵の取り分がわずか1割としているので、今までの無理な課税の分の補填ができたと喜んで貰えた。
その日は、子爵邸に泊まらせて貰ったが、夕食も素材はありふれたものばかりだったが、心のこもった素晴らしい味の料理ばかりだった。
いよいよウエスタン領に到着するようです。
ストックが枯渇したので、次話は、火曜日の夕方になる予定です。




