71 領都は治安が悪そうです。
ようやく領都に到着しましたが、領都も問題ばかりの様です。
(王城の国王執務室です。)
国王陛下:「それで、ウエスタン領内で決起した反乱軍2000名を、フレデリックが1人で殲滅したのか?」
ザイン宰相:「御意」
国王:「それで、拉致された女性26名を救助したのか?」
宰相:「御意」
国王:「それで、3日で最前線に行き、戦闘に単身参加したのか?」
宰相:「御意」
国王:「それで、敵の弓部隊を壊滅させたのか?」
宰相:「御意」
国:「それで、あのツーリ王国最強の『剣聖ヴァイオフォン』を1人で討ち取ったのか?」
宰相:「御意」
国王:「それで、恩賞はどうするのじゃ?」
宰相:「・・・・・」
国王:「ノープランかい!」
宰相:「取り敢えず侯爵に叙爵したので、抱え込みは成功したと思いますが。」
国王:「しかし、今回の恩賞がショボいと他国へ移住されてしまうのでは?」
宰相:「御意」
国王:「御意じゃないだろ、御意じゃ。もうなんか考えなよ。」
宰相「では、領地から国庫への上納を3年間免除というのは。」
国王:「現在の国庫納入金は幾らじゃ?」
宰相:「それが、ダメンズ元侯爵の嘆願書により、過去8年間ゼロでございます。」
国王:「それでは意味がないではないか。」
宰相:「実質ではありません。優遇していると言う名目が重要なのです。」
国王:「そうか、実より名か。成程・・・。ザイン、お主も悪よのう!」
こうして、残念な2人の悪巧みは続くのであった。
◆
私は、各市町村を視察しながら東に進み、漸く領都に到着した。ウエスタン領は広いとは聞いていたけど、本当に広い。ダメンズ元侯爵家は、代々周辺貴族にも金を貸していたらしく、借金のカタに領地の移管を承諾させていたらしい。国王陛下も両者が納得していると言われれば、拒否することもできず、元の貴族の地位はそのままで領地のみ、移管したらしいのだ。
領内には5市8町16カ村があり、広さだけなら王家に次ぐ広さを誇っていた。しかし、余りにも広すぎるため、統治が及ばず色々なところで問題が起きているらしい。
あれもこれもは出来ない。まずは領都を掌握しないと。領都ウエスタン市は、南北10キロメートル、東西18キロメートルの楕円形と言うか水滴型をしている。西側が細くなっているのだが、こんな形にした理由がよく分からない。西側の尖った所に城門があり、衛士が出入りのチェックを行なっている。門は、二つあって、一つは平民用の狭い門だ。広い門は貴族用で、馬車2台が余裕ですれ違える位広い。
平民は狭い方の門を使うのだが、馬車がすれ違えるわけもなく、交互に通っているため、渋滞が凄かった。ルッツさんが、貴族用の門を通ろうとしたので、ルッツさんと騎士達だけ通って貰うようにお願いした。侯爵邸で待ち合わせる事にし、私1人だけ列に残る事にしたのだ。
ホワイトの手綱を持って列で並んでいると、前の商人風の男が声をかけて来た。
「坊やはいい服着てるけど、お貴族様じゃあないのかい?」
「はい、父はそうですが、私は平民に近いので。」
「そうかい、爵位が低いと大変だなあ。貴族章を貰えなかったのかい?」
「はい、まあ。」
男の言っている事は、子爵位までの低位貴族は、貴族章を3個しか発行して貰えない。これは巷に貴族が溢れかえるのを防ぐためと、次男、3男は早い段階で自立して平民になるので、貴族章を使う期間が短いために無駄になるのを防ぐためのようだ。
城門を見ていると、1人の衛士が額に汗を流しながら入場しようとする人達の身元を確認しているが、後4人の衛士が側で雑談をしている。確認している衛士さんは。見た感じ、一番若そうだが年齢は関係ない。皆で身元確認をすれば5倍は早くできるだろう。
しかも10人位通したら、今度は城門の向こうに行って、出場しようとする人達の身分を確認し始めた。向こう側にも5人の衛士がいると言うのにだ。ここの城門が混雑しているのは、狭いことが原因ではなかった。
私は、前にいた商人風の男の人に尋ねた。
「あの衛士さん達は何をしているんですか?あの若い衛士さんに全部やらせて。みんなでやれば、もっと早く済むのに。」
「しーっ!聞こえたらどうすんだよ。あの連中は、ゴルガン組の奴らだ。あんな奴ら、何もしない方がいいんだよ。」
はあ?衛士が裏社会の奴って、それダメでしょ。そのゴロツキ衛士が動いた。見ていると若い女の子が街に入ろうとしている。衛士達がニヤニヤしながら、その子に声をかけている。
「おい、お前、手配の盗人女に似ているな。身分証を見せろ。」
女の子は、震えながらバッグから証明書を出して来た。衛士の1人が、
「兄貴、これ偽物ですぜ!」
「兄貴って呼ぶな。曹長と呼べ。曹長と。そうか、偽物か。女、こっちへ来い。徹底的に調べてやる。」
若い衛士さんが飛んで来た。
「曹長殿、この証明書、おかしな所はありませんが。」
そう言うと同時に、若い男は曹長と呼ばれた男に殴り飛ばされた。
「うるせえ。孤児院出のお前が衛士をやっていられるのは誰のおかげだ。黙って、言われた事だけやっていりゃあ良いんだよ。」
「女、手配の女は、胸に大きな傷があるそうだ。胸を見せてみろ。」
女の子は、もう泣きベソをかいているが、他の衛士達はニヤニヤしながら見ているだけだった。
うん、何となく見えて来た。あの若い衛士さんだけは、まともそうだけど、後はクズだね。クズにはクズらしい扱いをしないとね。
私は、曹長と呼ばれた男の側に近づいた。
「何だ、ガキ。テメエの番はもっと後だ。」
「良い加減、弱いものいじめはやめたらどうですか。ちゃんと仕事をして下さいよ。」
「何を生意気な事を言ってるんだ。ぶっ殺されてえのか?」
「誰が誰を殺すんですか?」
「てめえだよ!」
曹長さんは、私の顔面に右パンチを打って来たが、腰の入らない手を伸ばしただけのヘナチョコパンチだ。私は、少ししゃがんで頭の上を通っていく男の拳を両手で掴み、そのまま脇に決めた。グイッと男の手首を上に持ち上げると、鈍い音と共に、脇で固められている右腕の関節が曲がってはいけない方向に曲がってしまった。ついでに相手の右足のつま先を思いっきり踏みつけた後、相手の右目に掌底を打ち込む。あ、眼球が破裂したね。私の掌底打ちは、かなり打撃力があるみたいだ。身体全体を使って一点に力を集中させるとともに、3キロのオモリのエネルギーが加わっているので、ヘタをすると頭蓋骨が粉砕されてしまう。手加減が微妙すぎる。
曹長さん、脳震盪を起こして気を失ってしまった。次は、立ちすくんでいる隣の衛士の顎をチョンとかち上げた。さらに、その隣の衛士のコメカミにて掌底を打ち込んで、あっという間に2人の意識を刈り取った。
若い衛士さんは、さっきの女の子を庇いながら、後ろの方に下がっていく。6名の衛士が抜刀して取り囲んで来た。
「あなた達は、剣を抜いたと言う事は、私を殺しても良いと考えた訳ですよね。でも、それって自分が殺されることもあるって分かってます?」
そう言いながら、3斤の木刀を『ストレージ』から取り出す。2斤の木刀に比べて、一回り大きいだけだが、先端に鉛を埋め込んで重さを調整している。この木刀で相手を殺すことなく、全ての衛士を無力化してみる事にした。
青眼に構え、相手との間合いを詰める。相手が、間合いを切ろうと動こうとした瞬間、相手の心臓に向け突きを放った。衛士は、銅の胸当てをつけているが、強い打突をピンポイントで受けると、大きく凹んでしまい、心臓にショックが伝わって一瞬鼓動が止まってしまう。死ぬような事はないが、暫くは息もできないほど苦しむだろう。
後は小手打ちで、剣を握れなくする位で、衛士達の間をすり抜け終わった時、まともに動ける衛士はいなかった。ろくに訓練もしていないんだろうが、余りにも脆すぎる。こんな連中に街を守って貰ったら、安心して夜眠る事も出来ないだろう。
さきほどの若い衛士さんに衛士本部まで案内してくれるようにお願いした。衛士本部に行くまでの間、この街の衛士隊のことをいろいろ聞くことが出来た。
この若い衛士さん、名前はジムと言い、驚いた事に未だ14歳だそうだ。この街の孤児院で育ったのだが、12歳になると孤児院を出て行かなければならず、最初は肉屋の丁稚として働いていたそうだ。でも、その店の奥さんに所謂セクハラを受けているのを、旦那が見かねて暇をくれたが、次の就職先までは世話をしてくれず、途方に暮れていた時に、衛士達に拾われたそうだ。最初は雑用係として、使いっ走りや食事の準備などをしていたが、14歳になった時衛士見習いとして、制服を着て門番をする事になったそうだ。見習いなので、帯剣もせず、見よう見まねで身分確認などをしていたそうだ。
この街の衛士隊は、300人位いたのだが、徐々にゴルガン組の奴らが衛士になってきて、1年位前に元々の衛士だった人が全員辞めさせられたそうだ。ダメンズ侯爵の後に王都から来た行政官の偉い人は、衛士隊の言いなりでどうしようもないらしい。ここまで言って、ジムさん、言い過ぎに気づいたのか、ハッと口をつぐんだ。
話しながら3時間近く歩いていると、街の中心部にある衛士隊本部に到着した。
フレデリック君、もうチート無双の片りんが見えてきました。
次話は、本日の夕方17:00に投稿予定です。




