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70 戦いは終わったようです。

戦争は終わりましたが、これからが大変そうです。

 戦いは終わった。我が国の勝利ではあったが、被害は小さくはなかった。反乱軍に襲われ、壊滅した村は3つ、ブロンコ軍の死者163名、負傷者は私が多くの兵たちの傷を治癒したので分からないが、かなりの数の負傷者がいたようだ。


 総数600名のブロンコ軍で163名の死者は、完全に負け戦だ。しかし、ツーリ王国軍は、ヴァイオフォンさんが討ち死にしたことで戦意を失い撤退した。まさか、この戦争の勝利条件が、ヴァイオフォンさんを討ち取ることだったなんて。


 ブロンコ辺境伯の引き止めにも関わらず、翌日、王都を目指して出発した。帰りは、街道を進んで、戦禍の影響や敗残兵の潜伏などを確認しながらルッツさん達と合流するつもりだ。ブロンコ領内は、戦勝に沸いており、領民たちの笑顔がどこでも見られた。旅館の宿泊者まで、ニコニコ笑いながら食事をしていた。やはり、旧ダメンズ領と接していた村々だけが被害にあっていたらしい。奴らは、若い女性だけを攫って、手間のかかる幼児や金にならない老人そして管理に手間のかかる男どもを皆殺しにしたようだ。最後に村に火を放って、生き残りができないようにするなど、やることが残虐非道としか言いようがない。あんなのがウエスタン領内にまだいるのかと思うと気が重くなる。


 国境の戦場を出発して3日目、領都ブロンコ市に到着した。街角や大型店舗には国旗と領旗がはためいており、市民の間にも戦勝気分が盛り上がっている。しかし、戦死傷者・被災者の実態が判明すれば一気に悲しみに覆われるような気がする。ホテルに泊まっても、戦闘の経過や敵兵をけなす話題ばかりで、この戦争で不幸に遭った人々の話題は全くない状況だった。


 私が、ルッツさん達の部隊と合流したのは、あの襲撃されて壊滅した村の手前だった。ルッツさん達は、村内に残っていた遺体を埋葬していたので、結構時間がかかったみたいだった。皆で、亡くなった方々の冥福を祈って、村を後にした。さあ、いよいよ初めてのウエスタン領だ。期せずして騎士30騎を同行しての領内初視察になった。しかし、領内に入って、目につくのは領民の貧しさだ。一目瞭然、ブロンコ領との差が目立ってしまう。まず、畑の耕作状況だ。確かに見渡す限りの畑が広がっているが、ところどころに雑草が生え放題の畑がある。これは離農者の畑か耕作放棄をしたか、どちらかだろうが、今、5月の段階で種植えがなされてなければ、今年の収穫は見込めないだろう。ルッツさんが、ここまで来る途中の畑は、皆、こんな状況だったと教えてくれた。村に行っても、閑散としていて、元気がなく、とても風薫る新緑の5月の雰囲気ではない。


 村長と話してみると、一昨年までの年貢や税金を払うために借金をしてしまったため、その返済が影響して、どんなに働いても楽にならない者達ばかりだとのことだった。借金は、年7割の利息が付き、田畑を売り払っても返済できない者は、当然に村から逃げてしまう。人口も最盛期の7割を切ってしまったそうだ。金貸業者は、領都で手広く金融業をしている者だとの触れ込みだったが、どうやら裏ギルドの一員だったらしく、妻と娘を無理やりに連れて行かれた者もいるし、一家心中をした家もあったそうだ。


 その状況はダメンズが捕縛され、天領となって新しい行政官が来ても変わらなかった。今でも組の幹部が月に1度、月利を徴収しに来るそうだ。ちょうど、今日の夕方、その男が何人かのチンピラを連れてくることになっている。村では、何とか猶予を貰うために、酒を飲ませ、泣く泣く後家の女を抱かせて、少しでも利息を安くしてもらっているのが現実だそうだ。


 私は、ルッツさんと顔を見合わせた。今日は、何とかしてあげることはできる。しかし、その金を貸した大元の組織を何とかしなければ、これから未来永劫同じことが繰り返されるのだろう。


 今日、自分達の食事は自分達で用意するからと言って、脱村した者の家を借りる事にした。今日は騎士料理だ。と言ったって大した物が作れる訳がない。干し肉を炙ってスープの出汁にし、野菜と豆・ジャガイモを一緒に煮たものだ。炙った干し肉の香りが出て、食欲をそそる。もうそろそろ食事の準備が終わろうとする頃、村長の使いが来て、奴らがやって来たと教えてくれた。家の外に出てみると、村長宅の前に人だかりができている。男の大きな声が聞こえて来た。


  「だから、チマチマ利息を返すんじゃなく、この女とあっちの娘2人で、今年の利息はもう良いって言ってんだろ。」


 男は、安物だが派手な色合いのチェニックに短めのウールの上着を着ているキザな男だが、目つきに卑しさが現れている。供の男どもは、浮浪者に毛の生えた程度の服を着ていて、おそらく小遣い銭程度で使いっ走りをさせられているんだろう。


 村長が、私たちに助けを求める視線を寄越す。あれ、これって日本でずっとやっている時代劇ドラマみたいだな。


  「スケさん、カクさん、やってしまいなさい。」


 成程、あの人気番組のセリフ、一度言ってみたかったんだよね。でも、ルッツさんしかいないしなあ。あ、そんなことより、少し話を聞かなくっちゃ。


   「あのう、どうしたんですか?大きな声を出して、子供が怖がっているじゃないですか。」


 子供が言うなって言わないでね。一応、おとな対応しているんだから。


   「ああーん?何だ、テメエは。ガキはすっこんでろ。」


 ルッツさん、電光石火の勢いで、男の首を締め上げていた。


   「おめえこそ、誰に口を聞いてる。このお坊ちゃまこそ、新しいウエスタン侯爵様だぞ。おめえら、頭が高えぞ。土下座をしやがれ。」


   あ、良いところが一瞬で終わっちゃった。ルッツさん、覚えてるからね。土下座をした男達から色々聞きました。まず、こいつらの親分はずいぶん昔から、農民専門の高利貸しをしているらしい。農家の大人1人が1年間に食べる小麦は150キロ程度で、6人家族で600キロが年間消費の目安だ。1haの収量が1500キロ程度なので、種籾を200キロ確保しても700キロは年貢として納められる。王国法では、種籾分は終了から減らして、残った分から50%を年貢として徴収するので、650キロが年貢になる。しかも、牛馬を使えば反収入は飛躍的に増えるし耕作可能面積も増えるので、生活するのに不自由は無いハズだ。しかも、王国法では徴税は年に一度と決められており、裏作、つまり冬場の二期作なり二毛作は完全に農家の取り分になる筈だ。


 ダメンズ侯爵は、年に一度の年貢は、種籾分を控除しないで7割を徴収し、裏作も同様に5割を徴収したらしい。これでは、食べるだけで精一杯で備蓄も何もできないため、色々な消耗品を買うための生活費が不足してしまう。それで高利なのは分かっていても、銀貨10枚とか20枚と小口で借りてしまったらしいのだ。最初は、利子だけ返して貰えば良いですよとニコニコ貸し付けていたが、凶作が続くと豹変して、元本も返せと言って来たらしい。そして娘を売れとか、女房を奉公に出せとか無理を言って来たのだ。


 どうもダメンズ元侯爵と結託して暴利を貪っていたような気がするが、まあ、おいおい分かるでしょう。


   「ところで、貴方は王国法で人身売買が禁止されている事は知っていますか。」


   「いえ、無学な俺っちなんか難しい法律はとてもとても。」


   「それじゃあ、金を貸した時の利息が最高で年2割5部だって知ってますか?」


   「い、いいえ。」


   「それじゃあ、借金のカタだろうが何だろうが、本人の意思に反して連れて行くことが拉致監禁誘拐罪で死刑に該当する事は?」


   「い、いいえ。お、お許しを。」


   「最後に、貴方は私に対し、『何だ、テメエは。ガキはすっこんでろ。』と言ったけど、貴族に対する侮辱罪は裁判無しで処刑できる事は知ってますか?」


   「い、い、いいえ。知らねえし、貴方様が領主様だってことも知らなかったんです。」


 もう、震えまくっている。この世界の貴族の特権は、江戸時代の武士以上で、平民がタメ口を聞いたり、貴族の言うことを聞かない場合に、その場で処刑、つまり殺すことが認められている。そんな事を繰り返していれば、領民は逃げてしまうわ、国王陛下から爵位を下げられたり、取り上げられてしまうので、そんな馬鹿な事をする貴族はいない、いない筈、いるかも知れないけど。ゴホン。


 男の持っている借金の証文を全て取り上げ、親分のところに戻ったら、首をよーく洗っておくように伝えておけと言って宿舎に戻る事にした。食事の後、村長をはじめ村民の方々がお礼に来たが、お礼の品が無いからとさっきの娘さんを前に出すのはやめて下さい。まだ7歳の子供だし、ソバカスとアカギレで『おてもやん』のような女の子をどうしろと言うんですか。

フレデリック君の領地は、かなり手入れをしなければならないようです。


次話は、明日6:00に投稿する予定です。

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