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69 ツーリ王国の剣聖のようです

 謎の男は、強敵のようです。

 男は『ヴァイオフォン・ヴォイド・トレノ』と言う名前で、ツーリ王国の『剣聖』だった。後で知ったのだが、ツーリ王国では、剣聖と認定されると無条件に男爵位に叙爵されるそうだ。例え、その者が奴隷であってもだ。


   ヴァイオフォン・ヴォイド・トレノ

   アスラン暦427年1月1日生まれ(38歳5か月)

   人間族 男性

   レベル 37

   HP  999

   MP  146

   攻撃力 999

   防御力 258

   魔法適性 なし

   称号:剣聖

   スキル:剣術(超級)

   瞬動(中級)

   斬撃波

   限界突破


 鑑定では、私よりも全て数値は下だ。しかし『レベル37』は、数多くの戦闘と『生き死に』を経験してきた証だろう。数値でだけ判断すると、絶対にやられる。相手からの威圧感というか剣の気配が、それを物語っている。あと、『限界突破』スキルがある。通常、人間のステータスは99が最高値のはずだが、ある一定の条件を達成すると、その数値を超えることができるらしい。それが『限界突破』だ。ただ、この男の数値を見ると、それでも999が最高値のようだ。


   「オイラの国はよ、アスランのように7人も剣聖はいねえんだよ。最強の1人のみが『剣聖』になれんだよ。アスランのガキ、本当の『剣聖』の力を見せてやんよ。」


 長い剣に魔力が薄らと纏われているのが分かる。この木刀では、真っ二つにされてしまうだろう。私は、木刀を『ストレージ』にしまうと、『聖剣グラム』を取り出した。鞘を腰のベルトに差し、鯉口を左手で握り、柄を右手で持っていつでも抜けるようにした。


   「フレデリック・フォン・ランカスター、参る。」


 名乗りを上げるとともに腰を低く右前に構える。居合の最大の利点、相手に間合いを悟らせない構えだ。


 相手の微妙な動きを捉える『遠山の目付け』で、ジリジリと間合いを詰めてゆく。未だだ、未だ遠い。あの『物干し竿』の長さに畏怖して、遠間で戦おうとするのは最悪手だ。逆に近間では、あの長さが邪魔をして思うような動きが取れないはずだ。


 それは相手も十分に分かっているようで、近づいた分だけ、後ろに下がって間合いを取ろうとする。


 いつの間にか、周囲の戦闘は止んでいて、私達の戦いを固唾を飲んで注視しているようだ。ヴァイオフォンさんは、スーッと『物干し竿』を上段に構えた。右足を前にする右上段だ。後、4分の1足分で彼の剣の物打ち部分が私の頭を分断するであろう間合いに入った。瞬間、殺気も見せずに素晴らしい速度で打ち下ろされてきた。もちろん、同時に間合いが詰められている。通常だったら絶対に見えないし、見えたとしても反応出来ずに切り殺されているだろう。私は、瞬動で彼の懐に入り込み、剣を抜きざま右胴を切り払おうとした。しかし驚いたことに、彼は『物干し竿』の柄を自分の右脇腹に下して、私の剣をガキンと受け止めたのだ。私の剣は、彼の柄に深い傷を刻んだだけだ。直ぐに納刀して彼の背後に離脱した。


 驚くべき反応速度だ。瞬動で接近するのに0.06秒、抜き打ちに0.4秒計0.46秒。その間に私の動きを見極め、判断して、振り下ろしている『物干し竿』を、体側に構え直すのだ。常人に出来ることでは無い。これも、彼の『瞬動(中級)』スキルなのだろうか。


   「遅えぞ。蠅が止まるぜ。」


   「そうかな。右腕を見てみろ。」


 彼の右腕、手首付近から一筋血が流れている。柄で居合を防いだ時、腕が切り裂かれたのだろう。彼は、右腕をペロリと舐めてから、大きく踏み込んで右胴を狙って横凪に『物干し竿』を振ってきた。速い。私は、大きく後ろに下がって避けたが、続けて上段から打ち下ろしてきた。これも何とか見切って左へ避ける。私の右を通り過ぎた『物干し竿』がうなりを上げていたが、地面に触れることは無かった。剣は振ることよりも止める方が難しい。『物干し竿』は、慣性の法則を無視して、地面の上5センチ位のところでピタリと止まった。


   「へえ、見えてんのか。それじゃあ、もうちっと早くしてやんよ!」


 それから数合、躱わすのが精一杯で、抜き打ちなどできる余裕はなかった。そして、突然の『突き』が来た。射程距離の長い『突き』が、私の右胸を狙ってきた。これは躱せない。剣先と自分との距離が分かりづらい上に、異様に速い。ダメだ。やられる。


 私は、無意識のうちに『聖剣グラム』を抜くと同時に、『物干し竿』の剣筋を払った。


    チーン!


 綺麗な金属音とともに、火花が散った。軌道を左に逸らされた『物干し竿』が、私の右の二の腕付近を切り裂いた。良かった。浅い。まだ動く。


   「チッ!しょうがねえなあ。見せたくなかったんだけどな。」


 ヴァイオフォンさんは、『物干し竿』を右脇構えに構えた。この構えは、己の剣を隠すことにより、間合いを分からなくし、不用意に近づいた相手を逆袈裟斬りで切り上げるのだが、欠点は切り上げるために剣速が若干落ちることだ。しかし攻撃は左右上下の広い範囲を薙ぎ払って来るので受けにくく、ましてあの長い剣だ。こちらとしても攻めにくいため、ここは一旦間合いを開けよう。そう思って一歩下がった段階で、一歩踏み込まれて『物干し竿』を左上に切り上げてきた。私は、右にステップし、何とかしゃがんで躱した。私の頭上を通り過ぎた剣の行方を追うことなく、そのまま一歩近づこうとした時、通り過ぎた筈の『物干し竿』が、頭上から切り下ろされて来た。これは躱せない。私は、頭上に剣を構え、『物干し竿』を受け止めようとした。しかし、激しい斬撃を片手で受ければ、受けた剣ごと兜を割られ、その下の頭蓋に致命的なダメージを負いかねない。


 日本刀なら峰に手を添えれば良いのだが、両刃のショートソードでは、そんなことをしたら自分の手を傷つけてしまう。私は、咄嗟に防御結界を手のひらだけに纏わせて斬撃を受け止めた。


 凄まじい衝撃が左手のひらに伝わってきたが、切り落とされずに済んだようだ。後ろに転がりながら、とにかく間合いを空けるのに必死だった。


 さっきのあれは一体何だ?慣性の法則を無視して切り返してきた。あれでは、剣の動きを予測出来ない。


   「ほお、俺の秘剣『燕返し』をよく受けたな。しかし、次はそうは行かないぞ。」


 もう、丸パクリではないか。でも格好良すぎるだろう。その時、左手にズキンと痛みが走った。さっきの受けの時、左手の平が切れてしまったらしい。骨も数箇所折れているみたいだ。でも、まだちゃんと付いているのだ。戦える。私は、無詠唱で傷を治癒した。


 『聖剣グラム』の性能をフルに発揮すれば、きっとこの男には勝てるだろう。しかし、それでは剣の技で勝ったのではなく、剣の力で勝ったと言うことになる。それでは、せっかくのこの試合が、意味のないものになってしまうような気がする。


 私は、大きく深呼吸をし、『聖剣グラム』を右片手のみで構えながら、右手のウエイトバンドを外す。直ぐに剣を持ち替えて、左手のウエイトバンドを外す。お腹と両足のオモリは外している暇がないだろう。しかし、これで十分だ。剣速が2割でも早くなれば、勝つチャンスが生ずるであろう。


   「お前、なんてものを腕に付けてんだ。それでオイラと戦っていたのかよ。」


 私は、黙って青眼に構えた。剣先を相手の眉間に向け、ゆっくりと間合いを詰めてゆく。彼と私の剣の刃体の長さの差は1m以上ある。然し、それを恐れてはいけない。


   『山川の末に流れる栃殻も

    身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ』


の言葉通り、相手の間合いに飛び込んで活路を見出すのだ。誰かが足元の小枝を踏んだ音がした。彼の頬がピクリと動いた。


 もう、その時のことは余り覚えていないが、瞬動で間合いを詰めるとともに、相手の右胸に『聖剣グラム』を突き刺した。『一瞬遅れて『物干し竿』が、私の右肩を切り裂いたが、鎧とチェーンメイルが、何とか勢いを殺してくれたようで、九死に一生を得たようだ。


 ヴァイオフォンさんは、口から血を吐き出しながら私を見た。


   「お前、強いな。最後の『突き』、全く見えなかったぜ。最初から全力で掛かってくりゃ良いのによ。」


 そういうと、大きく咳き込んだ。大量の血を吐いて、地面に崩れ落ちていく。勝ったかもしれない。まったく勝った気はしないが、ヴァイオフォンさんから攻撃されることはもうなかった。


 ヴァイオフォンさんが倒されたことから浮き足だった敵兵が、撤退するのに、そう時間はかからなかった。戦争は終わったのだろう。周囲には、敵味方も判然としないが死体の山だった。


 私は、ヴァイオフォンさんの『物干し竿』を拾い上げて鞘に納め『ストレージ』に収納した。勝負に勝った時に『運が良かった。』と言う者は、勝負に負けた時に『運が悪かった。』と言うのだろうか。それは違うと思う。剣で生きる者が、『運』で勝負を、自分の生き死にを賭けてたまるものか。全て、平素の鍛錬の結果が勝負を決するのだ。しかし、ヴァイオフォンさんには悪いことをした。お腹と両足のオモリを外して果し合いをするべきだった。それが最低限の礼儀のような気がした。


 しかし、今回、私は本当に勝てたのだろうか。戦いに『もし』はないが、私が『防護結界』が使えなかったら、『治癒』魔法が使えなかったら私は負けていただろう。ステータスの数値とは関係のない剣の実力のみでは、ヴァイオフォンさんの方が確実に上だった。世界には私の知らない強者が大勢いるのだと言うことを思い知らされた。


 前の世界で、神童と呼ばれ自分が一番強いと思っていて、剣道の強豪校に推薦で入学した時のことを思い出す。新入生歓迎試合で、上級生は勿論のこと同級生でも私よりも強い者がいた。試合早々、簡単に小手を取られた事にショックを受けてしまったが、以来、ずっと勝てなくて『3番手の男』と言われ続けた。この世界では、剣の道を極めるんだ。前の世界でできなかった事。それが、この世界に転生してきた意義のような気がする。

 7歳の少年が剣聖を倒してしまいました。チート過ぎます。

 

 次話は、本日の17:00に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の傲りを反省する主人公 とても好感持てます( ^ω^ ) この作品好きです
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