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72 市街戦になったようです

今回は、街の掃除なのですが、敵はいないようでした。

 城門から衛士本部まで歩いて3時間もかかったら交代が大変だと思ったが、いつもは大型の馬車2台で交代が来るので1時間位で着くらしい。ジムさんは、ずっと西門の詰め所に勤務していて、早朝、本部でお弁当を作って馬車に乗り、午後2時になると詰所で夕食の準備をしてから隊本部に歩いて戻るそうだ。


 街の中心に向かっては大通りが伸びており、ようやく通れるようになった西門から入ってきた馬車などが東に向かっている。西門周辺は、南北にスラムが広がっており治安が悪いそうだが、流石に衛士の制服を着ているジムさんを襲うような者はいなさそうだ。


 普段着だが貴族服を着ている私をジロジロ見ている者がいたが、それだけで特に何もなく、中心部に到着した。中心部には、大きな森が見えていて、その森の手前には幅の広い池があったが、ジムさんが『あの森の向こうに元ダメンズ侯爵のお城がある。』との事だった。え!あの森の向こう?


 近づくと、池に見えていたのは幅50mはありそうな濠で、馬車2台は通れそうな石橋が掛かっていた。通常なら跳ね橋にして最後の防御線にするのだが、どうも『見栄』だけで作ったようで、橋の欄干や途中の街路灯が青い青銅製なのもどこかの美術館のようだ。


 衛士本部は、お堀に面した大通りとの交差点の北角に建っていたが、300人が常駐するにはかなり小さく感じる。それに鍛錬場も併設されていないが、鍛錬はどうするんだろうか?通りを挟んだ南角には古びた煉瓦造りの建物があるが、今は使われていない騎士本部だそうだ。


 衛士本部の前には、いかにもと言えそうな若い衆がたむろしており、衛士さんは外に立っていなかった。正面玄関の上には、大きな看板がかけられていたが『ダメンズ衛士隊本部』と書かれており、以前のままに放置されているんだろう。


   「ありがとう。もうここで良いから、このまま橋を渡ってお城の中に入って下さい。中に騎士団がいますから、事情を話してくれれば分かりますから。」


   「でも、フレ君はどうするの?」


 自己紹介で、私のことは『フレ』と言ったので、ずっとフレ君と呼ばれている。


   「私は大丈夫。西門でも見たでしょ。」


   「でも、中には何百人っているんだよ。」


   「うーん、きっと大丈夫かな?」


 あのツーリ王国の『剣聖ヴァイオフォン』のような強者が、こんなゴロツキどもの仲間にいるとも思えない。


 私は、3斤の木刀を取り出す。最近、素振りをしても、あまり重さを感じなくなった。しかし、これ以上重くしたら、筋肉や骨格に悪影響が出そうなので、速度で負荷を増すようにしているが、今日は、その成果を試してみよう。


 そのまま、玄関前のチンピラに近づく。モヒカン、丸刈り、スキンヘッドといろいろだが、皆、首筋に星の刺青を入れている。あ、このスキンヘッドの男、頭にも刺青を入れている。


   「あーあん!なんだ、テメエは?ガキの来るとこじゃあねえぞ。」


  スキンヘッドがガンを飛ばして吠えて来た。無視をして、右肘関節を叩き折る。右の男の左膝、左の男の左と、彼らの関節を砕いていく。粉々になった関節は、かなりの金貨を教会に積まなければ完全治癒できないだろうし、放置すれば筋肉組織が壊死をして切断せざるを得ないだろう。どちらを選ぶかは彼らの自由意思だ。


 残りの3人も同様に戦闘不能にして玄関から中に入る。中は、ロビーのようになって奥に廊下が伸びている。チンピラと衛士達が何やら話し合っていたが、ドアを乱暴に開けて入って来た私と、右手に下げている木刀を見て異常を察知したようだ。誰かが、


   「殴り込みだあ!」


 と叫んだけど、ちょっと違う。私は、あなた達と喧嘩しに来た訳ではありません。殲滅しに来たのです。ロビーには、40人位いるかな。皆、抜刀して向かってくるが、敵一人に同時に掛かれる訳もなく、どうしても正面、左右、背面からしか切りかかれない。私は『気配感知』を研ぎ澄まし、私の木刀の間合い、私から半径130センチ以内の範囲に入った者は、その瞬間、腕か足の関節が砕かれていた。私自身は何も考えない。ただ、あるがまま、なすがままに剣の摂理に従って敵を討つだけだ。相手は、いつ打たれたか気付かぬうちに激痛に襲われているだろう。5分後、ロビーには誰もいなくなった。


 奥に続く廊下を進む。ずらっと並んだ扉の向こうに、息を潜めて剣を構えている気配がする。室内に圧縮した『ライティング』を爆発させる。まあ、魔法のフラッシュバン弾だね。後は、ドアを蹴破り、盲目、難聴状態の敵を無力化するだけだ。最奥の階段に到達するまでに12の部屋があり、92人の敵が悶絶している。


 階段の上には20人位の敵がいたが、こんな狭いところで密集していたら、殲滅して下さいと言っているようなものだ。あ、1人魔導士がいるみたい。魔力の濃度が高くなっているのを感じる。流石に、ここでファイアボールは無いとは思うけど。階段の踊り場まで来ところで『ウインドカッター』と言う呪文が聞こえたとともに、上の階から撃ち下ろされてきた。あ、こうしてと。そのまま、木刀に魔力を纏わせて、打って来た方向に勢いを倍にして打ち返してやった。えーと、バッティングセンター?上の階で悲鳴が聞こえた。上がってみると、悲惨な状況だった。首や胴体がチョンパされたのが8体、腕や足が切断された者が6人、残りも身体のどこかに重大な損傷を負っている。今回は、死者を出さないつもりだったんだけど、こんな所で魔法を打つからいけないのだ。のだったら、そうなのだ。


 2階も、結構小さな部屋があったが、敵が潜んでいる部屋はそれほど多くなく、結局、2階の敵は50名少々だった。1階と同じように殲滅して3階に向かう。


 3階は、大会議室と道場それと幹部役員室のようだが、100人以上の気配が会議室の中から感じる。会議室だと、机や椅子などの什器類が邪魔だが、しょうがない。反面、一度に掛かってくる人数も制限されるので対応も楽になるだろう。


 フラッシュバン弾を3個程時間差を設けて爆発させ、後は次々と無力化していく。これは剣術では無い。単なる作業だ。這って逃げようとする者の膝裏を踏み抜いたり、手探りで逃げようとする右肘を打ち払ったりと無傷の者が1人もいないように配慮した。


 3階の奥には、真っ赤な絨毯が敷かれた廊下があり、いかにも幹部役員専用スペースという雰囲気だ。近づいて行っても誰も出てこない。一番奥が本部長室だろう。ドアの作りが違う。手前左右の4部屋は幹部室かな。幹部室は、ドアも開けずに中に『サンダーボール』を投げ込んだ。こういう時、魔力生成の攻撃は便利が良い。心臓疾患でも無い限り致死にならない電圧のサンダーボールだ。意識を失う程度だろう。彼らは、方の裁きを受けて貰うつもりだ。当然、判決を言い渡すのは領主だけどね。


 本部長室のドアをノックする。ドアのネームプレートには『ゴルガン本部長』とあるので、裏組織のボスが中にいるのだろう。


   「だ、誰だ?」


   「フレデリック・フォン・ウエスタンです。ドアを開けてくれませんか?」


   「フレデリック?ゲッ!領主様?確か、西の国境で戦っている筈では?」


   「あ、あれ、もう終わりましたよ。残念ですね。ツーリ王国にならなくて。」


   「な、何を言っているのかわからんが。」


   「良い加減、開けてくれませんか。高そうなドアが壊されますよ。」


   「ま、ま、待て、待て。あ、待って下さい。今、開けます。」


 ドアを開けて出て来たのは、50年配の太った男だ。右目に額から頬にかけて切り傷があり、いかにもと言う風貌の男だ。鑑定してみた所、まあ、一般の人間ならこんなもんだろう。


   ゴルガン

   アスラン暦409年12月8日生まれ(56歳6か月)

   人間族 男性

   レベル 19

   HP  58

   MP  21

   攻撃力 99

   防御力 99

   魔法適性 土


 暴力組織のトップになる位だから、それなりの強度なのだろうが、どうも通常人の攻撃力やHPには上限があり、それは『99』なのではないだろうか。ヴァイオフォンさんが限界突破をしているみたいだが、それでも『999』が上限なのだろう。


   「さあ、それじゃあ行きましょうか?」


   「ど、どこへ。」


   「決まっているじゃあないですか。貴方がやって来たことを裁く場所ですよ。」


   「儂が何をした。ダメンズ侯爵様の言う通りにしていただけじゃ。」


 その時、ルッツさん達が駆けつけて来た。ゴルガンと幹部達は、そのまま拘束されて連れて行かれた。間違いなく処刑されるだろうが、それは市民の前で公開処刑が相応しいだろう。


 私は、無人になった本部長室の奥の金庫を調べることにする。あの魔導書に書いている魔法呪文と魔法陣は全て暗記したので、『開錠』の魔法陣を思い出す。呪文発動キー『アンロック』を唱えると、カチャリと鍵が開けられた。金庫の中には、大金貨や白金貨などが積まれており、15億ジェル以上はありそうだ。後、証文類も全て没収だ。


 何に使うのか分からないが、大量の魔石もしまわれていた。後で、封じられている魔法を解析していかなければ。金庫の中が空になったので、次は事務机の引き出しの中だ。酒やつまみなど碌な物が無かったが、一つだけ、青っぽい金属の短刀が隠されていた。鞘が象牙製らしく、いかにも高級品の作りだったので、これもストレージの中にしまっておくことにした。



フレデリック君が本気モードになれば敵はいません。


次話は、明日6:00に投稿予定です。

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