56 皇帝陛下は残念?なようです
フレデリック君は7歳になりました。
アスラン王国歴465年2月14日、私の7回目の誕生日だ。しかし、今日の誕生日を祝ってくれる者はスザンヌさん以外にはいないだろう。ここは、エイボン皇国の皇都エイボン市の中央にある皇居の中だ。
今から1年半前、魔物討伐戦勝祝賀会の日、突然現れたアーマード・リザード12体を1人で殲滅し、手足を欠損した重傷者全てを完全修復した。その際の魔法のレベル、剣技そして『治癒』の能力が皆の目に留まり、ランカスターの3男フレデリックの名を知らぬ者がいなくなってしまった。それだけならまだ良いのだが、教会の上層部に『治癒』の能力がバレてしまい、『神の思し召し』、『神の子』と呼ばれて、教会から召喚状が3通も来てしまったのだ。つまり、開明派、原理派、利得派の全ての教義派から召喚されてしまったのだ。
どうにも動きようがなくて、困っていた時に助け舟を出してくれたのが、エイボン皇国のフレデリック皇太子殿下だ。当分の間、エイボン皇国への留学と言う建前で避難をする事させてくれるそうだ。でも、フレックス殿下御一行は、他の貴族領から招待が掛かっており、一緒に同行することが出来なかったのだが、公式行事が全て終了するまで待つなどという悠長なことは言ってられなかった。
私は、単身、シュナちゃんだけを連れ、ホワイトに乗ってエイボン皇国を目指した訳なのだが。5歳児の一人旅など、無謀すぎると言う事を思い知らされてしまった。まず町や村に入るのがスムーズにいかない。貴族徽章を見せても、侯爵家の貴族徽章など見たことも無いらしく、信用してもらえない。領主や代官を呼んで話して貰う訳にもいかず、前回泊まったホテルや宿屋の店主を呼んで貰って、漸く中に入ることができた。宿泊は、そのホテルや宿屋にしたのだが、前回と同じ部屋を用意されてしまう。旅費は潤沢に準備しているが、私1人で1泊金貨6枚は高すぎだろう。
広すぎるスイートルームで、1人黙々と食事した時の味気なさ、少し泣けて来たね。そして、私が来訪した事を聞いた行政官や代官が挨拶に来るのだが、ここに来た事情を話す訳にもいかず、修業の旅に出されたと誤魔化したけど、絶対に疑っているよね。
キャサリン市では、キャサリン子爵夫妻は未だ王都から帰っておらず、家令の方が、『こんなホテルにお一人で泊まらせる訳にはいかない。』と強硬に子爵邸へ誘われてしまい、既に支払った宿泊料金貨4枚が無駄になってしまった。ヂグジョー!
次の問題は、子供1人だと思って、どこでも声をかけられる事だ。まあ、1人なんだけど。
「坊や、1人でどこ行くの?お姉さんが連れて行って上げるわ。」
とか、
「へへへ、坊ちゃん、1人かい。おじさんと遊ばないかい?」
世の中には、変な趣味の人間が溢れているんだね。まあ、エイボン皇国に入る時のアラモード砦に到着してバニー卿と会った時には、流石に涙が流れてしまったのは内緒にしておこう。
本来、出国するときは外務官吏の発行した出国許可証が必要なのだが、そこは臨時出国許可証などをすぐに作ってくれた。エイボン皇国に入ってからは、フレデリック皇太子殿下の通行許可状が効果を発揮し、どこの町や村でもトラブル無く通過することができた。
だが、街道筋ではそうはいかないようだ。皇国は財政的に厳しいと聞いていたが、町や村を守るのが精一杯で、衛士の絶対数が足りず、街道の治安は最悪だった。野盗や奴隷狩りなど、次々と現れたのには参った。昔大流行したRPGで、街を出たとたん弱小モンスターが次々と現れたのを思い出してしまった。もう捕まえるのも面倒なので、水月や眉間に掌底を打ち込んで昏倒させて、急いで離脱すると言う繰り返しだった。でも、ちょっと加減を間違えて、内臓や脳にダメージが入ってしまうことがあるけど、出血していないから大丈夫だよねえ。あれ、耳から血が出てますよ。大丈夫ですか?返事がない。死んでいるようだ。
ようやく皇都に入り、道を聞き聞き皇居に到着した。門番をしている衛士の方に書状を見せたところ、すぐに年配の方が10人位の部下を連れて来られて、馬車に乗せられてしまった。この年配の方は、皇国の外務大臣で、これから準備が出来次第、皇帝陛下に謁見して頂きたいとのことだった。細かな事情は鳩が飛んで来て全て承知しているとのことだった。
エイボン皇国の皇帝は、セイオンネル・ノウリン・シン・エイボン7世と言い、50歳位の大柄な方だった。皇后陛下はベティラハムと仰っていたが『ベティと呼んで。』と気さくに話された。皇帝陛下が悔しそうにして『じゃ、儂はセインと呼んで良いのじゃ。』って、何故か残念臭がして来た。
私の住居として、皇居内の離れを貸して貰い、そこで起居しながら修業を積み重ねた。食事は、職員や騎士さん達が利用する食堂を使わせて貰うことにした。
ここに来てから2週間後、スザンヌさんが来た。あのう、泣きながら抱きつくと、涙と鼻水で大変な事になっちゃうんですけど。私の身の回りとシュナちゃんの世話をして貰う事にしたが、非常にありがたかった。外務大臣から職員3人を派遣して貰っているが、如何にも官僚という感じの方々で、私の身の回りの世話なんか絶対にできなさそうな人達だったからね。
皇居は、周囲5キロのほぼ円形で、日本の皇居の西洋版という感じだった。周りをお濠で囲まれた閑静な森の中に西洋のお城が建っているというアンバランスを感じているのは、私だけだろうか。お堀の内側は外壁がグルリと囲んでおり、壁の内側が遊歩道になっているので、好きなだけ走り込みができた。
訓練スケジュールも作ってみた。
05:00 起床 駆け足(4周20キロ)
06:00 木刀素振り 1000本
07:00 朝食
08:00 日本剣道形 天然理心流形
09:00 体術形 巻藁打ち
10:00 騎士団との合同稽古
12:00 昼食
13:00 魔法制御練習
15:00 自由時間 市内見学
18:00 夕食
19:00 読書(魔導書精読)
21:00 就寝
これで完璧だと思った時もありました。ピアノもダンスもしなくて済むと喜んだのも束の間、結局、ベネチア皇太孫殿下と一緒に王族としての一般常識を学ばされることになった。ピアノ、ダンスは勿論、詩作や絵画、行儀作法など盛りだくさんだった。ベネチア殿下は、私と同い年なので、術科以外は完全に一緒のカリキュラムだった。
結局、早朝稽古と夕方の自由時間、それに就寝前の時間しか自分の時間が持てなかった。それでも、1年半の間にワールド・グリモワールは暗記出来たし、木刀素振りでは風切り音が前進後退共に出るようになった。
久しぶりに自分自身を鑑定してみた。
「鑑定」
フレデリック・フォン・ランカスター
アスラン暦458年2月14日生まれ(7歳0か月)
人間族 男性
レベル 13
HP 2,246
MP 7,980
攻撃力 2,689
防御力 1,965
魔法適性 全て
称号:日本からの転生者
神童
ドラゴンマスター
聖剣使い
スキル:剣道錬士6段
逮捕術上級
高校教諭(体育)
中学教諭(体育)
飛翔(初級)
瞬動(上級)
鑑定(上級)
空間操作(中級)
体術 (初級)
神の加護
錬金術(上級)
かなり強いのかも知れないが、他の強者と命の削り合いをしていないので、本当の強者となり得たか疑問だ。あ、そうだ。今日から手足のウエイトバンドに、もう1キロずつ鉛片を追加する予定だったんだ。不思議なもので、重くしても暫くすると付けている事を忘れてしまう。と言って、身体が小さいので、手足につけるスペースがなくなってしまった。
元の世界なら、スプリングで作成された『〇〇〇ーグ養成ギブス』を装着したいところだが。無いものは仕方がない。今度は、腰回りにベルトをして装着してみよう。
◆
月に一度、自宅に一時帰宅とアーサーに会いに行くことにしている。まだ『空間移動』は未熟なので、『飛翔』を使って移動をしている。600キロ位を3時間で移動できるので、時速200キロ位の速度が出ているのだろう。そのため、ガラス細工屋さんにお願いして、飛行用のメガネを作って貰った。第二次世界大戦の頃、零戦パイロットがつけていた形のものだ。
あらかじめ帰省する日を手紙で知らせているので、確実にベス嬢が待っていた。ベス嬢に聞いたら、ブルーム殿下は、王太子になるべく鍛錬を欠かさないそうだ。また御学友も3人出来たようで、週に一度は御学友と共に市井に出かけており、孤児院とか無料施療院を慰問されており人気が高いそうだ。
アリスちゃんは、とても可愛らしく成長している。母上にそっくりの目をクリクリさせて「フィレ兄」と言ってくれる。帰省のたびにエイボン名物のクリームあんみつを買って帰るので、とても懐いているのだ。やはり子供には甘い物が効果的だ。
最近は、貴族や教会関係者の間で、私の話題が出る事が少なくなったそうだ。今、最もホットな話題はブルーム殿下の婚約相手が誰かということらしい。本命は、デューダ王国のお姫様らしいが、うちのアリスも含めて数人、ご令嬢が候補に上がっているらしいのだ。驚いた事にベス嬢も候補になっているらしいとのことだった。
うん、どこの国にも残念な人っていますよね。
次話は、明日6:00に掲載いたします。




