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55 恩賞授与式は嬉しいようです

戦争には恩賞がつきものです。でも、恩賞の原資があればいいんですが。

 9月21日、この日は『秋の区分日』と言う祝日だそうだ。いわゆる『秋分の日』だが、やはり昼と夜の長さが同じと言うのは特別の日なのだろう。


 しかしアスラン王国では、今日は本当に特別の日だ。『地竜討伐戦勝記念祝賀会』の日だ。今日のために各国から元首級の招待客が来訪しているし、また王国内の貴族も全員、王都に集合している。今日参列していないのは、ルース帝国の代表のみで、駐アス大使が祝辞の親書を持ってきただけだったそうだ。


 祝賀会の前に、今回の討伐の恩賞授与があった。最初は、糧食や装備資機材などの徴用に応じてくれた大商人や大商会で、恩賞の徽章のほかに功労の大きい商人には『準男爵』に叙爵して、その功労を評価してあげている。商人の中には、もう少しサービスしておけばと悔しがる者も少なくなかったそうだ。


 次に、後方支援部隊の褒賞授与だ。これは徽章と金一封が基本だが、中には昇格・昇級の者もおり、悲喜交々の表情が窺われた。ルッツさんが騎士爵に叙爵されたのはランカスター騎士団を率いて王都の防備に貢献したことが評価されたらしい。


 次は、実際に派遣され戦った兵士、騎士達で最低でも徽章と1階級昇級、負傷したり仲間を助けた者は2階級特進と勲章が授与された。


 次は、殉職した者達で、これは遺族や関係者が代わって授与を受けたが、全て騎士爵以上に叙爵し、遺族には年金が生涯支給される。


 最後は、シュリンガー団長とゾリゲン団長で、男爵に叙爵され、ガンズ伯爵領の半分ずつを拝領した。これには列席の貴族達も驚きの声を上げたが、これには条件があって、将来、ある貴族の麾下に入ることが義務付けられているらしい。誰も、そのある貴族が誰か分からないまま式典が終わった。


 最後に、国王陛下からのお祝いの言葉があり、今回の遠征を成功に導いたブルーム王子を褒め称えるとともに、アンドレイ王太子殿下の王太子としての身分を抹消し、ブルーム殿下が12歳になった時に王太子を誰にするか決めるとのことだった。いわゆる『王選』を行うということらしい。その時は、順位にかかわらず王位継承権を有する者すべてが参加資格があるとのことだったので、ベス嬢も参加できるようだ。まあ、参加させないけどね。


 この時、席を立って退席する者がいた。ダメンズ外務卿だ。今回のブルーム殿下を総大将に任じることも反対していたが、この措置も不満だらけなのだろう。しかし同調する貴族はいなかった。沈みかかっている泥舟に乗るような事を利に聡い貴族達がするわけがないのだ。


 恩賞授与式は無事に終わった。ブルーム殿下の王位継承可能性が高いという望外の地位が与えられたが、これからの警護を考えると気が重い。まあ、近衛騎士団から専属の警護部隊が選任されるので、表面上は安心できるだろう。


 心配なのは、アンドレイ殿下の動静とダメンズ外務卿のこれからの対応だ。この式典が終われば新人事の発表があり、ダメンズ外務卿の更迭が示達される筈だ。表向きの理由は、ガンズ伯爵に指示してエイボン殿下御一行のお迎えを妨害した事だが、あのエイボン渓谷での暗殺未遂事件も彼の仕業と目されている。決定的なのは、彼の愛妾がルース帝国の高級娼婦で、帝国と内通している疑惑がある事だ。あの『真実の水晶』で調べればすぐに分かるのだろうが、先祖の功労に免じて、その点は不問にする事にしたらしい。





 本日の祝賀会は、王城の大広間を使って盛大に行われる予定だ。ブルーム殿下は、国王陛下と行動を共にするので近衛の厳重な警備があるだろうし、私は御学友兼警護として壁のシミに徹するつもりだ。一応、武器の携行は禁止されているが、『ストレージ』が使える私としては、意味のない規制だ。


 開宴は午後6時からだ。私は、一応、会場周辺を見回り異常の有無を確認する。不審者が潜んでいないか、おかしな魔力だまりがないかを確認して回る。知らない人が見れば、5歳児がウロウロしてカーテンの陰やテーブルの下を見て回る姿の方が不審だろうが、王城勤務の方々は、また御学友が変わったことをしているな位にしか思われないだろう。点検して発見したのは、用途不明の魔石7個だった。微量の魔力を感知したのだが、何処にあるのかまでピンポイントで探し当てることは、今の私には出来ない。何となく怪しいなあと思って探して見つけたに過ぎないが、ある筈がない場所にあった魔石なので、回収して近衛の責任者の方に渡しておいた。しかし、あの魔石は何なのだろうか。一応『鑑定』をしてみたが、


   魔石

   属性:無属性

   用途:不明

   注意:食べられない


 謎だ。しかし、この時、もっと徹底して探しておけば良かったと後で後悔したのは内緒にしておこう。


 祝賀会が始まった。参加者は1200名位だろうか。私は、ゾリゲン団長とシュリンガー団長に叙爵のお祝いを述べに行った。平民や貴族の次男、3男が領地持ちの貴族になるなど通常はあり得ない。誰かの配下になるのが条件のようだが、たいした問題ではないだろう。騎士団の幹部達もお祝いを言いにきている。剣聖と言われている2人が叙爵することに異論を言う者なんかいるわけないのだ。


 アン嬢が私を見つけて、トコトコ走ってくる。人が多いからぶつかるよと思ったら、案の定誰かとぶつかって転んでしまった。あ、涙目になっている。私は、すぐに駆け寄り助け上げていた時だった。


   ドガーン!


 大きな音と共に、正面のドアが吹き飛んだ。皆、何が起きたか分からないまま、ドアの方を見ている。壊されたドアを乗り越えて、大広間に入ってきたのは、アーマード・リザードだ。それも手にしている武器は、棍棒ではなく幅30センチもありそうな鉈、つまりダンビラだ。切れ味は大したことないが、膂力のある者が振り回した場合の破壊力は凄まじいものがある。


 フルアーマーの近衛騎士がハルバートを振り上げてかかっていったが、アーマーごと上下に分断されてしまった。場内に響く悲鳴を他所に、次々とアーマード・リザードが大広間に入ってくる。女性や武器を持っていない貴族達は、割れ先にと反対側の出入り口に殺到している。


 私は、アン嬢の手を握り、フレックス殿下の所在を探した。いた。国王陛下の側に妃殿下と共にいた。私は、アン嬢の手を握ったまま『飛翔』で、殿下のそばに飛び、アン嬢をお渡しする。その間にも、次々と近衛や王城警備の騎士達が倒れていく。


 ブルーム殿下が恐怖に引き攣った顔で、魔物や血を見ている。国王陛下の側には、ゾリゲン団長とシュリンガー団長がいたが、2人とも武器を持っていない。私は、『ストレージ』の中からショートソードと2斤の木刀を出して2人に渡した。どちらを使うかは、2人で決めてもらいたい。


   「魔物は任せてください。陛下達をお願いします。」


 私は、『聖剣グラム』を取り出し右手に構える。左手は、親指と人差し指を伸ばして拳銃の形にする。


 そのまま、魔物の方に走り寄る。私の存在に気づいた1匹が残忍そうな笑いを浮かべた。その眉間にメタルバレットを撃ち込む。しかし、後方に吹き飛ぶが致命傷ではなかったようだ。眉間から血を流しながら立ち上がった。やはり鋼鉄のような鱗を撃ち抜くこよは難しいようだ。私は、メタルバレットの使用は諦め、『聖剣グラム』を青眼に構える。同時に魔力を流し込んだ。『聖剣グラム』の刃から真っ赤な炎が燃え上がった。そのまま、目前のアーマード・リザードに上段から切り下げる。血の一滴も出ないまま、頭蓋骨から腰骨まで正中線で左右に切り分けられた。それからは蹂躙劇だった。瞬動で近づいた瞬間、体が2分されるのだ。しかも切り口は高熱の炎により焼かれるので、傷口の血管が焼き潰され、血が一滴も出ないのだ。


 切り掛かる時、気合いも入れることなく、無言で切り飛ばしているので、会場内は『聖剣グラム』の風切り音と、アーマード・リザードの崩れ落ちる音だけが響いている。


 どれ位、時間が経ったろうか。全ての敵を殲滅した事を確認して、『聖剣グラム』の炎を消し、静かに納刀した。


   カチャリ!


 締まらない鍔鳴りと共に、戦闘は終了した。誰かがパチパチと拍手をしている。次第に拍手をする人が増え、そのうち歓声を上げる人が出てきて会場内は騒然として来た。


 私は、シュリンガー団長に重症者をどこかの部屋に集めて貰うようお願いした。散乱している手足も可能な限り集めて貰う。


 この襲撃で、即死した者13名、手足が切断されたり内臓を損傷した重症者は28名だった。28名中、修復できないほどの損傷を受けた者3名以外全員に『エリア・ハイヒール』を掛けてあげた。手足が上手く付かなかった者は、再度『ハイヒール』を個別に掛けて完全回復させた。


 修復不能だった3名について、1人1人、傷口に手を当てて『エクストラ・ヒール』を掛けてあげた。徐々に欠損部位が生えてくるシーンは、シュールだった。

 フレデリック侯爵の誕生です。でも、メルボルン公爵家への婿入りの件はどうなるんでしょうかね。

 今日は、成人の日でお休みなので、次話は、17:00に投稿予定です。

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