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54 ベス嬢は怒っているようです

 今日は、楽しいダブルデートです。

 次の日、シンシア様とエイボン皇国の皇太子殿下の兄妹謁見式は、王城の貴賓室で行われた。同席者は、アスラン王国側はブルーム殿下と私、あとザイン宰相だ。向こう側は、フレックス殿下のご家族と、随行の外務卿となっている。


 本当は、兄妹水入らずでの会見がよいのだろうが、独立国とはいえ、エイボン皇国はアスラン王国の庇護下にある言わば属国のような立場の国なので、変な要求を妹であるシンシア様に申し入れられても困るという思惑が働いたのであろう。こういう形での謁見となった。もちろん、上席者はフレックス殿下になる。


  お二人の会談は、和やかに始まった。


   「お兄様、お久しぶりです。私がこちらに嫁いで以来となりますので、8年ぶりになりますか。」


   「うむ、息災の様で何よりだ。どうだ、何か困ったことはないか。」


   「いいえ、こちらでは本当に良くしていただいて。今、私たちの住む後宮を立て直していただいてますのよ。」


   「なに、それは誠か。聞いた話では、随分狭い後宮にいて、外出もままならぬと聞いているが。」


   「今は、外出も自由ですし。それに今度できる後宮は、お国の宮殿よりも大きいかも知れませんわよ。」


   「ほほう。それは重畳。」


 ま、延々と近況報告が続いていたんですけど、その中で、聞き捨てならないことが話されていた。何と、ブルーム殿下がアン皇女を都内見学に連れて行くと言うのだ。え、私、聞いていないのですが。ザイン宰相の顔を見ると、バチンとウインクをしている。おっさんのウインクなんか見たくないから。随行は、私と、え、ベス嬢?何ですか、その人選は。もう、完全に波乱の予測しかないのですが。もしかして、そのために、私を同席させましたか。悔しい。


 邸に戻って、その事をスザンヌさんに話したら、『ダブル・デート』ですかって、異様に盛り上がってしまって、着ていくものから食事や買い物のコースまで細かくメモしてくれた。でも、どうせスザンヌさんも同行するんでしょ。私1人では買い物も食事もできませんから。


 その日の夕方、ベス嬢が来訪して、明日の打ち合わせが始まった。勿論、相手はスザンヌさんだ。今、王都で話題のレストランやスイーツ屋さん、それに洋服屋さんに玩具屋さんなどに行くコースを練っているようだ。結局、ベス嬢は夕食を一緒に食べてからもスザンヌさんと検討会をして、随分遅くに帰る事になったので、私が公爵邸まで送る羽目になってしまった。


 翌日、午前10時にベス嬢を迎えに行き、そのままブルーム殿下を迎えに後宮脇に馬車を付けた。既に2人とも玄関先で待っていて、そこでお互いに紹介する事になった。あ、そう言えばブルーム殿下がベス嬢にお会いするのは初めてなのか。


  「私は、フレデリック様の婚約者で、エリザベス・メルボルン・フォン・アスランですの。お見知り置きを。」


   「ぼ、僕はブルーム・エイボン・フォン・アスラン」


 うーん、ブルーム殿下、女の子に対する免疫、無さ過ぎ。


   「あたち、アンナクリーゼ・レジアナ・シン・エイボンでちゅ。アンで呼んでいいでちゅ。」


   「よろしくです。アンちゃん。私の事はベスと呼んでいいです。」


   「ベス、よろしく。」


 あ、ベス嬢を呼び捨てですか。ちょっとムッとしましたね。ベス嬢、笑顔笑顔。


   「さ、さあ。馬車に乗ろう。」


 早速馬車に乗り込んだが、ここでもトラブルが。アン嬢が僕の隣に座ったのだ。それは、大人用2人掛けですから、幼児3人は余裕で座れるんですが、これって、やっぱり・・・。」


   「ちょっと、アンちゃん、どうしてそこに座るんですの。ブルーム殿下の隣が空いてますのよ。」


   「アン、じゅっとフレ君の隣だったもん。今日も隣でちゅ。」


   「フィレ君の隣は、私の指定席でちゅ。早く退くでちゅ。」


 あのう、ベス嬢、言葉が戻ってる、戻ってる。仕方がない。私は、立ち上がってブルーム殿下の隣に座ってしまった。残念そうな顔をする2人だが、すぐに顔を背けている。


   「将来のハズ、絶対渡さないです。」


   「寝取りでちゅ。寝取りでちゅ。」


 あのう、2人とも仲良くね。あと、アン嬢、意味分かってますか?


 最初のコースは、最近出来たペットショップの見学です。流石に親の許可が無いのに、勝手にペットを飼う訳にもいかないので、見るだけです。ついでにシュナちゃんに何か買って行こうかな。店内には、ガラスケージの中にワンコとニャンコが一杯だった。今、人気があるのは、ワンコならフレンチ・ブルドッグとボストン・テリアだ。あれ、でも、その名前、絶対転生者が付けているよね。ニャンコだってロシアン・ブルーやアメリカン・ショートヘアって、店の人、意味分かってますか?


 私は、シュナちゃんにビーフジャーキーと豚耳を買ってあげた。きっと喜んでくれるよね。あ、そう言えばアーサーにはあれ以来会っていないな。今度の日曜にでも会いに行こうかな。


 そんな事を考えていたら、ケージの前が大変な事になっていた。ベス嬢は、スコティッシュ・フィールドの前、アン嬢はヨークシャー・テリアの前から動かなくなっていた。アン嬢、ガラスは汚いから舐めないでください。ベス嬢、ニャンコが怖がるから、変顔やめようね。


 結局、ペットショップに1時間以上いてしまった。スザンヌさんが、しきりに謝りながらガラスケージの手形や涎の跡を拭いていたのは見なかった事にしよう。それから、定番のファンシーショップだ。まあ、手鏡やブラシ、リボンに小物入れって、この店の雰囲気、絶対、転生者が関与している筈だ。店の人に聞いたら、どこかの国で流行っているって聞いて真似をしたらしい。うーん。


 お昼は、予約していたレストランで、お子様ランチを頼んだ。丸いトレイに仕切りがあり、ハンバーグにウインナー、パスタにチキンライスって、これもか!ご丁寧に小さな国旗までチキンライスに刺さっているなんて。食事中に、大きなバスケットを下げた店員が、オモチャの注文を聞いてきた。ブルーム殿下は木彫りのクマを、ベス嬢は猫のぬいぐるみ、アン嬢はトカゲの尻尾を選んだけど、アン嬢、それはやめましょう。ワンコのぬいぐるみに変えて貰った。私は、当然、オモチャの刀にした。


 食事の後は、おトイレに行って、さあ今度は洋服屋さんだ。その店は、子供服専門店で高級店として売れている店だったけど、私、忘れてました。女性と洋服店に行ってはいけないという格言を。もうブルーム殿下、お口から白いモヤモヤが出ていますよ。結局、この店に2時間もいたため、もう帰る時間になってしまった。あとおもちゃ屋さんと本屋さんにも行く予定だったが時間切れになってしまったみたい。でも、ベス嬢とアン嬢がすっかり仲良くなって良かった、良かった。でもアン嬢、そのセカンドとかキープって何ですか?





 次の日は、完全休養日という事で、何もする事がない日だった。私は大量のキャベツとレタス、人参にピーマン、あと大きな魚を樽いっぱい買って、全て『ストレージ』に収納してから、お庭に出た。シュナちゃんを抱っこしてから、『浮遊』でゆっくり上昇する。周囲から見えないように光学的結界を張っておく。これは光魔法『ミラー』の応用で、光を細かく屈折反射させて、上の光をそのまま下にスルーさせ、私の姿が下から視認できないようにしたものだ。


 高度100m、周囲に異常なし。目標東南東3時半の方向。ヨシ!


 指差し呼称をしてから念動で徐々に移動する。風魔法で追い風にする。こうする事によって、風の抵抗がほぼ無くなり、念動のパワーが無駄なく使える。念動パワーを掛けている間、ドンドン加速していく。風魔法も風速を上げていく。速度計がないから、正確には分からないが、真下は怖くて見られないほどの速度が出ている。アーサーのいる谷は、王都から馬車で1日半だから100キロ位離れている筈だが、30分で到着した。時速200キロ、まだまだ加速できるが怖いからやめておく。


 谷を降りると、アーサーが洞窟から出てきた。あれ、なんかシュナちゃんを怖がっているみたい。


   「シュナちゃん、脅しちゃメッでしょ。」


 この日、シュナちゃんとアーサーが仲良くなるのに結構時間がかかったようだ。アーサーには、持ってきた食材を全部揚げたんだけど、お魚の入っていた樽まで食べるのはやめましょうね。


 シュナちゃんは、アーサーと遊ぶのが飽きたのか、川に入ってお魚を取って遊んでいるけど、あ、そんな大きな魚、シュナちゃんが食べられちゃうよ。でも平気で頭を齧ってトドメを刺し、アーサーにプレゼントしている。えーと、その魚って1m以上あるし、牙も生えてるし、鱗だって魚というよりもトカゲだけど、アーサーが喜んで食べているから良いかな!


 シュナちゃんはどうも普通のワンコでは無いようです。ヒエラルキーでは、アーサーの上にいるようです。

 次話は、明日6:00に投稿予定です。

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