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48 豚伯爵と呼ばているようです

地方貴族は、自分が一番偉いと思いがちだそうです。

 ガンズ伯爵邸は、市内の丘の上に立っており、この街の規模から考えると不相応に大きいような気がしたが、まあ、自領の税収の範囲内で賄えるのならば、領民も納得するだろう。でも、馬車を引いて丘の急坂を登っていく馬達が可哀想に思ってしまう。


 屋敷は、石造り3階建てで、正面玄関には、年配のメイドさんが1人立って出迎えてくれた。屋敷の中に入って驚いた。真っ赤な絨毯に金メッキの什器、シャンデリアの鎖まで金色だ。そのままメイドさんに案内されて応接室に入ると、そこも赤色と金色のオンパレードだ。まあ、金色がいけないとは言わないけど、目に痛いのは何とかして貰いたい。


 しばらく待たされて、中年のかなり太った男性と、10歳位だろうか、男とよく似た体型の少年が入って来た。私達は、入り口側の長ソファ、つまり下座に座っていたのだが、その男性は一番上席のソファに、その隣には一緒に入ってきた少年が座った。この2人がガンズ伯爵と、その子息だろう。


 男は、座ると同時に


   「何故、立たない。お前は、侯爵家の3男だろう。儂は伯爵家当主のガンズじゃぞ。」


   「は?」


   「分からぬか?叙爵もされていないお前など、儂が入った時点で立ち上がり、膝を付いて臣下の礼を取るのが貴族の常識だろう。」


   「はあ、そうですか。ここ、ガンズ伯爵領では、それが常識なのですか。初耳でした。でも、貴族が臣下の礼を取るのは、国王陛下にのみと教わっております。それに、招待しておいて、その無礼なお言葉、この事は我がランカスター家への挑戦と受け取って宜しいのですね?」


   「なんじゃと。生意気なことを。おい、お前。どんな躾をしているんだ。」


   「へ?あっしですかい。あっしはしがない騎士団副団長です。主家筋であるフレデリック様を躾けるなど、とても、とても。これでも分を弁えてますんで。」


   「もういい。主人が主人なら部下も部下だ。それで、今回は、儂の指揮下に入ると言うことで良いのじゃな。」


   「失礼ながら、ザイン宰相閣下からの書簡をお読みになられたでしょうか。もし、読めないようでしたら、お読みして差し上げますが。」


   「ふざけるな、字くらい読めるわ。あの手紙には、儂の指揮下に入れろと書かれておったわ。」


   「えーと、ここに同じ書簡があるんですが、ここには『お互いに協力して』と書かれております。おかしいですね『指揮下に入る』とは何処にもありません。ザイン宰相閣下は、複写しで2枚同時に書かれていた筈ですが。」


   「うぐぐ、もういい。用は済んだ。帰って良いぞ。」


 さあ、挨拶は済んだようなので帰る事にしよう。私とルッツさんが立ち上がると、ガンズ伯爵はそっぽを向いている。しかし、正面の少年が私達を睨みつけている。余程悔しかったのかも知れない。


 帰りは、伯爵家の馬車を使わず、歩いて駐屯地へ戻る事にした。まだ7時過ぎだと言うのに、人通りも少なく、飲食店や酒場からの喧騒も聞こえない。


   「ルッツさん、この街、静かすぎませんか?」


   「昔、この街に似た街を知っていやすぜ。そこは領主が横暴で、重税に耐えかねた住民が逃げ出しちまったんでさあ。この街がどうかは知りやせんが。」


 なるほど。『苛政は虎よりも猛し。』とはよく言う事だ。あの金満豚の伯爵のことだ。きっと税を重くしているのだろう。そんな奴に愛想が尽きた領民が、他の領地に行って冒険者になったり、賃仕事をして糊口を凌ぐことが難しくないこの世界だ。江戸時代の日本では農民は移動の自由が無かったが、それは移動したがる農民が多かったための制限だったのだろう。しかし通行手形のない者は、領境の関所を抜けることが出来ず、結局、一箇所の農地に縛られていたのだ。まあ、小作制度が普通だった日本と自由民の農家が主流のこの世界では、比較しても仕方がないだろう。


 私とルッツさんが部隊に戻ったら、部隊の半数が街に飲みにいっていた。門の付近のお店だけ賑やかな訳だ。また部隊のテントを回って菓子や果物を売り歩く女の子の姿も見られた。中には、目に見えない商品を売る女性もいたが、あのう5歳の少年には早過ぎる気がするんですけど。ルッツさんは、舌打ちをしながら、中隊長に、女達にはもっと遠くで商売させろと注意していた。


 次の日、午前8時に城門の中に入り、街中を通って北門を目指す。次の宿泊先までは、我々の方が先行するつもりだ。既に、随行の文官が、宿泊先の手当てをしており、私とルッツさんは、街のホテルでも最上級の部屋を予約しているそうだ。


 次の宿泊先は、キース子爵が治めるナイシー町で、それほど大きな街ではないが、教会の集会所や民泊も利用して騎士160名、輜重部隊20名が宿泊する事ができた。町を治める行政官のアルル氏が、私達を招待して晩餐会を開いてくれたが、何故か街の幼女達が集まっている。あのうアルルさん、何を考えているんですか?私、婚約者がいるんですけど。晩餐会は、それなりだったが、アルルさんの気配りが有難かった。


 結局ガンズ伯爵以下30名は、夜遅く街に到着したらしいのだが、宿泊先で一悶着が起きた。午後10時近く、部屋のドアがノックされた。なんだろう。ドアを開けると、ホテルのオーナーとフロントにいた支配人が立っていた。ルッツさんが用件を聞くと、ガンズ伯爵が、部屋を譲れと大騒ぎしているらしいのだ。はあ?何、それ。幾ら横暴でも信じられない。ホテルの部屋は、早い者勝ち。先に予約した者が優先利用権がある。これ、世界の常識。


 当然、丁寧にお断りしたけど、突然、支配人の後ろから見たことのある豚、ウホン、ガンズ伯爵が現れた。


   「お前、ガキのくせにこんないい部屋に泊まりやがって。部屋を譲れ。俺は伯爵家当主じゃぞ。」


  「お断りいたします。お引き取り下さい。」


 そのまま、ドアを閉めようとしたら、無理矢理ドアを押し開けて部屋に入ろうとした。左腕で私を押し除けようとしたので、私の眼前にある相手の水月に右掌底を叩き込み、そのまま相手の腕を頭上に掲げてから、回転しながら前方に引き倒す。たまらず、腹ばいのまま倒れた相手の腕を取って後ろに回し、背骨の真ん中に私の膝を当てて制圧する。しかし、悔しいかな私の体重が足りないため、完全には制圧できていない。後はルッツさんに任せる事にして、直ちに離脱、右手手刀を相手に向け、左手は軽く握って後ろに引いて残心を示す。


 ルッツさん、豚の片足をムンズと掴むと、そのまま引きずって廊下の方へ出て行った。あ、やり過ぎないようにね。南無。


 しかし、こんな貴族同士の争いが、領地をかけた争いになることもある事から注意が必要だが、今回は貴族の格と騎士団の規模が違い過ぎるので、争いにはならないか。その日は、ぐっすり眠る事ができた。


 翌朝、5時に起きていつもの駆け足、それと3斤 の木刀による千本素振りだ。最近は、素振りの剣速も上がって来たので、それまでの前進面のみから、前進後退面に変えている。おかげで素振りの所要時間が半分になったのだ。でも、自分としては未だ未だだと思っている。素振りの際の風切り音が、私が前世だった時とは違うのだ。まあ、まだ5歳、これからだ。


 ホワイトに乗っての進軍も魔力鍛錬だ。ホワイトに魔力纏を掛けながら、自分の体を鞍から少し浮かし続けておく。あ、ごめんなさい。魔力の鍛錬というよりも、鞍がお尻に当たって痛いので、少し浮かしているのです。あ、皆には内緒です。


 しかし、豚伯爵は、本当にエイボン皇国の皇太子殿下をお迎えし、安全に王都までお送りするつもりがあるのだろうか。そもそも昨日の宿泊先も決まっていないようでは、殿下が王都に向かう際の宿泊先をどうするつもりなのだろうか。私は、随行の文官に殿下をお迎えしてからの王都への行程、宿泊先を検討して貰うようにお願いした。後、鳩を飛ばして、ランカスター家で最上級の馬車を搬送するようにもお願いしておいた。


 ナイシー町を出発する時、豚伯爵の部隊を見たが、予備の馬車は準備されていなかった。自分が乗る金ピカ悪趣味で豪華な馬車が1台あるだけだ。何かトラブルがあった時、どうするつもりなのだろう。


 馬車に随行している豚伯爵の隊列の進行速度は、騎馬のみの私達より2割は遅く、宿場街に到着するのは、いつも私達が夕食を食べ終わった後だった。でも豚伯爵の体型を見たら、乗馬できるようには見えないから仕方がないよね。


 さあ、明日は最初の難関、北西の魔の森を通り抜ける道を進む予定だ。手前の街の冒険者ギルドから情報を聞いたところ、エイプ系とスネーク系の魔物の出現が見られたそうだ。後、どこにでもいるスライムとゴブリンは、これだけの部隊を見たら逃げ出すだろう。

 豚伯爵、「ざまあ」があるかも知れません。

 次話は、明日6:00に投稿予定です。

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