47 北西の魔の森は楽しそうです
明けましておめでとうございます。2024年初の投稿となります。
本年もよろしくお願いいたします。
今回の国賓の送迎と接遇はダメンズ外務卿と父上を除く5人の侯爵がそれぞれの国を担当することになった。しかし、エイボン皇国からの国賓の送迎は、王都の北西にあるガンズ伯爵が対応することになっているそうだ。それらの送迎計画を決めたのは、外務卿であるダメンズ侯爵なのだが、どうも恣意的なものを感じてしまう。
エイボン皇国は、今でこそアスラン王国の同盟国だが、かつて北に接しているルース帝国の属国だったこともあり、現在も虎視眈々と侵略の機会を狙っているようだ。我が国の最大の仮想敵国がルース帝国であるように、ルース帝国も大陸の覇権を狙っており、その橋頭堡としてエイボン皇国を手中にしたいようだ。
しかし、アスラン王国としても絶対防衛戦としてのエイボン皇国の位置付けは十分理解しており、北のノウリス辺境伯の騎士団とは別に北部防衛騎士団をエイボン皇国に派遣している。
他国に騎士団を派遣するなど異例中の異例だが、アスラン王国とエイボン皇国の間で締結されているアスエイ安全保障条約では、相互に軍事支援を行う事が義務付けられている。実質的には、アスラン王国から騎士団1200名をエイボン皇国へ派遣駐在させて、ルース帝国との国境の防護にあたっている。勿論、エイボン帝国も騎士達を国境線の防備に当たらせているが、国力からも200騎の国境警備隊を編成するのが精一杯だそうだ。
近衛騎士団など編成する余裕もなく、衛士による皇宮警備隊が皇居を防備しているくらいだと聞いている。
そのエイボン皇国から、シンシア様の一番上の兄君つまり皇太子殿下が、今回皇帝の名代として来るとのことだった。
通常なら、ルース帝国に狙われている弱小国の来訪である。絶対に何かあってはならないと、最大の警備体制を敷くところ、国境の接していない伯爵家に護衛させるなど大丈夫かと思ってしまう。同じ事は、ザイン宰相も思っていたらしく、小規模の騎士隊しか持っていないガンズ伯爵では、不安しかない。そこでザイン宰相の私兵を応援に派遣する事にしたらしい。しかし、ザイン宰相も立場こそ強いが、南に領地を持っている伯爵家に過ぎないので、軍務卿への依頼という事で兵力を融通する事になった。ふむふむ、それはいい考えだと思う。父上は軍政の責任者であり、今回の国賓来訪の警備責任者でもあるのだが、実際には1兵とも動かす訳ではなく手持ち無沙汰だったようだ。
ランカスター家の手持ちの兵力は、王都屋敷の警備に120名、領地の守備に360名、総数で480名の騎士団だ。この部隊が基本3交代制で境界警備や魔物討伐等の治安維持に当たっているのだが、非常の場合には2交代制にシフトして、160名の遊動部隊を編成する事が出来る。この部隊をザイン宰相のからの要請に応じた部隊に当てようと言う訳だ。
これは、シンシア様も心配されている事で、私自身もブルーム殿下から相談を受けていたことだった。今回、ランカスター家からガンズ伯爵への応援という形で派遣する事になったが、辺境伯軍に匹敵するほどの強さを誇るランカスター騎士団が支援するのだ。もう大丈夫だろう。その旨を伝えたところ、
「うーん、その部隊にフレデリックも一緒なの?」
とブルーム殿下に聞かれた。
「は?まさか、私はブルーム様の御学友兼警護という任務があります。ブルーム様のお側を離れる訳には行きません。」
「気持ちは嬉しいんだけど。お願い。今回のお迎え、フレデリックも騎士団の人達と一緒に行ってくれるかな?」
「えーと、ザイン宰相と父上に聞いてみなければお答えできません。」
その日の夜、父上から、今回のお迎え部隊への同行を命ぜられた。解せぬ。
◆
8月末、ランカスター家の警護部隊180名が、エイボン皇国の皇太子殿下をお迎えするために、王都を出発した。総指揮官はルッツさん、いや副団長兼王都邸警備隊長、あ、やっぱりルッツさんでいいや。私は、お迎えの接遇要員として随行するんだけど、それって文官それも専門の典礼官の仕事だよね。でも鎧、兜の完全装備なのはどうしてだろう。まあ、いいけど。これも鍛錬だと思って頑張ろう。
今回、初めて1人で馬に騎乗している。馬といっても、超小型のポニーなんだけど。聞いたら、ドワーフホースという種類で、普通の馬とは違う種類らしい。どう見ても馬なんですけど。名前の由来となったのは、小さいが力が強く勇敢なところがドワーフのようだと比喩された事らしい。
しかし、決定的な欠点がある。それは体型由来なのだが、圧倒的に速度が足りない。普通の馬の並足が、この馬の駆け足なので、スタミナが持たないのだ。と言って、この馬の速度に合わせていると、部隊の進軍速度が遅くなる。
ルッツさんが、部隊だけ先に行かせることを提案してきたが、私は可能な限り付いて行くと答えておいた。実は、秘策があった。それは、この馬にコッソリと魔力を纏わせて身体強化をするのだ。
「さあ、頑張るんだよ。ホワイト。」
ホワイトとは、この馬に勝手に付けた名前で、白い馬だから『ホワイト』だ。ひねりも何もない名前だけど、ホワイトは喜んでいるみたいで、耳をピコピコしている。
ガンズ伯爵領は騎馬で2日、そこからノウリス辺境伯領を通ってエイボン皇国の国境の砦まで5日掛かるそうだ。その間、森を通過したり谷を渡河したりと難所が幾つかあるが、それもルース帝国が進行してきた際の障害になるようにと、あえてそのままにしているそうだ。
2日目の夕方、ガンズ伯爵領の領都であるアル・ガンズ市の入り口に到着した。門の入り口に160騎の騎士と補給輜重の馬車が10両ほど隊列を組んでいる。
ルッツさんが、門の衛士さんに支援部隊が到着したことを伯爵に伝達するように申し入れたが、門番の衛士の方が聞いてないとか、書面が欲しいとか言って中々入れてくれない。1時間以上経ってから、執事のような若い方が現れて、市内にはこれだけの部隊を受け入れるだけの宿舎が無いので、今晩は城壁の外に野営して貰いたいとの事だった。私たちが、今日、到着する事は既にザイン宰相から伯爵に文書が送達されているはずだし、民泊をさせるつもりなら幾らでも宿泊先などあると思うんだけど。
まあ、野営の準備は全く問題がない訳で、そのために輜重部隊にはシェフも数人同乗させていたのだ。たまにはキャンプ飯を食べてもいいな。
早速、野営の準備を始めていたら、さっきの執事みたいな方が、ずっとそこに立っている。何かなと思って、ルッツさんが声を掛けると、
「あのう、大変申し訳ありませんが、代表の方がガンズ伯爵閣下へ到着のご報告をお願いしたいのですが。」
と言って来た。確かに、我が部隊はガンズ伯爵の支援に来たが、それは宰相からの依頼を受けたと言う形を取っており、伯爵の指揮下に入った訳ではない。もし、そうなら部隊編成の勅命がなければならない。
また、勅命があったのなら自分の指揮下になった部隊に対して、野営をしろなどと反感を買うような接遇をするなどもってのほかだ。それは、勅命に従えない、または勅命を蔑ろにした事になる訳だ。
「執事さんよお、まだ名乗って貰ってねえから名前を知らねえけど、俺たちゃあランカスター侯爵家の騎士団だ。なんで格下の伯爵風情に挨拶しなければならないんだ。挨拶したいんなら、そっちから来るのが筋だろう。あ、俺は騎士団副団長のルッツという者だ。あ、それと、この部隊の総大将は、侯爵閣下の三男、フレデリック様だ。そこんところ、よろしくな。」
うん、ルッツさんの最後の『よろしく』は、絶対に『夜露死苦』だろうな。執事さん風の人、最後まで名乗らずにに帰っていっちゃった。大丈夫かね。
その日の夜、食事も終わり、明日も早いから寝ようかと思っていたところに、高級そうな馬車が到着した。中からいかにも執事然とした年配の紳士が降りて来て、面会を求めて来た。
私とルッツさんが対応すると、きちんと自己紹介から始まった。
「私は、ガンズ伯爵家の家令でサイモンと申します。そちら様は、この部隊の総大将フレデリック卿で宜しいでしょうか。」
まあ、こんなむさい騎士さんたちの中で、まだ少年と言うのも憚られるような私以外に該当する者はいないだろうに。仕方がないので、
「はい、私がフレデリック・フォン・ランカスターです。」
と答えた。本当は、総大将じゃあないんだけど、ルッツさんからそういう風にした方が良いと言われたので、そこは黙っている事にした。
「先程は、我が家の若い者が大変失礼をしました。お許し下さい。本日は、遠路はるばる来られた皆様に宿舎の準備も出来ず大変申し訳ありませんでした。平にご容赦願います。」
言葉使いは丁寧なのだが、どこか真心がこもってない空虚な言葉を重ねただけの印象だ。こういうのを『慇懃無礼』と言うのだろう。
家令さんの用件は、私とルッツさんを伯爵家の晩餐に招待したいという事らしい。もう、夕食も取ったので断っても良いのだが、折角の招待なので、挨拶だけでもしておこうと思い、そのまま迎えの馬車に乗る事にした。
まあ、反対派閥の貴族から嫌がらせをうけるのはテンプレですね。
今日はお休み日ですが、朝のみと投稿といたします。次話は明日、6:00に投稿いたします。




