41 ベス嬢が泣いているようです
フレデリック君、なるべく目立たず生きていくつもりでした。
「それで討伐遠征に当たって何か望みはないか。」
えーと、何も思いつかないのですが。あ、そうだ。私が戦うところをあまり見られたくないので、これだけはお願いしておこう。
「お願いがあるのですが。」
「なんじゃ。申してみよ。」
「討伐にあたって、シュリンダー団長とダンドール教授以外の方々は、私の後方3キロ以上離れていてもらいたいのです。魔法の影響を受けては危ないですから。それと、討伐に成功しても、ブルーム殿下の功労は大々的に広報していただいてよいのですが、私のことは内密にお願いします。恩賞ももちろんいりません。」
父上は、私の言いたいことを理解したみたいだが、国王陛下にとっては意外過ぎる申し入れだったのだろう。キョトンとした顔をしている。暫くして、その意味が理解できたのか大笑いをし始めた。私は、公爵家へ婿入りはしても、生涯、一剣士として生きていきたい。人から尊敬などを得るのが目的ではないし、強い者と干戈を交える中で自分を高めていきたいのだ。そのためにも、ここで身に過ぎた評価を得ることは避けたいのだ。地竜を討伐するのは、問題はない。いや是非やってみたい。しかし、討伐したことによって世間の注目を浴びたくないのだ。できることならブルーム殿下の一従者として成人したいものである。
「フレデリック、おぬし、変わっておるのう。」
「はい、皆に言われます。」
主に、ブルーム殿下からですが。
◆
ランカスター侯爵家の王都屋敷に戻ったら、ベス嬢が来ていた。あれ、今日来るなんて言っていたかな。ベス嬢、私の顔を見たら、ワンワン泣き出してしまった。どうしたんだろう。何かあったんだろうか。
「ベス嬢、どうしたの?何かあったの?泣いていては分からないよ。」
「フィレ君、酷いです。魔物討伐に行くの黙っているなんて酷いです。」
ああ、そのことですか。別に黙っていた訳じゃあないけど、今日の午前中に初めて知ったのに、どうして、ベス嬢に伝えられると思ったのですか?
ベス嬢は、定期的に王都に遊びに来ていて、そのたび毎に我がランカスター邸を訪れるんだけど、毎回何をしに来るのかよく分からない。まあ、リバーシをしたり、お茶を飲んだりしているんだけど。
今日は、たまたま王都に来ていて、私の遠征のことを祖父であるメルボルン公爵から聞いたらしい。それで、そのまま我が家まで来たらしいのだけど、決して黙っていたわけじゃあないんだけど。
「ベス嬢、落ち着いてよく聞いてね。私だって今日初めて聞いたんだよ。それに危ないことは決してしないから。だって、相手は魔物だよ。地竜だよ。私なんか遠くから見ているだけだよ。ブルーム殿下の護衛として行くんだから。」
ごめんなさい、嘘です。本当は、魔物と戦いに行くのです。でも、そんなことを言ったら、もっと大泣きしそうなので、嘘も方便、そこは前の世界で38年間、こちらで5年、計43年間生きてきたのだから平気です。
「本当、本当に危なくないの?」
「うん、全然大丈夫だよ。魔物は騎士さん達がやっつけるって言っていたよ。」
「じゃあ、私も一緒に行っていい?」
「はああ?え、何で?何で、ベル嬢が一緒に行くの?それって何しに行くの?」
思いもしない展開になりそうだったので、もう、必死で阻止しました。魔物討伐の遠征に婚約者を連れて行くなんて考えただけでもあり得ないでしょう。そもそも戦闘力ゼロのベル嬢が一緒に行って何をしようとするんですか。ベル嬢を連れていくくらいなら、スザンヌさんを連れて行った方が百倍役に立ちますから。でも、そんな事は言えるはずもなく。
「ほ、ほら。この前、ベル嬢がくれたスイーツ、あれ、なんて言ったっけ、あれ、おいしかったな。」
「グス、あれって、マカロン?」
「うん、それ、マカロンっていうんだ。あれ、おいしかったよね。また食べたいな。どこに売ってるのかな?」
もう必死です。関係ない話を必死に続けるのって辛いです。43歳のおじさんでも辛いです。でも、絶対、絶対にベス嬢を連れて行くわけには行かないので、とにかく誤魔化す。絶対に誤魔化す。それしかありません。
結局、今度一緒にマカロンを買いに行くことを約束したことで機嫌を直してくれたみたいで、帰っていった。
次は、母上に呼びつけられた。
「フレちゃん、あなた、私に内緒にしている事ない?」
冷静な声、絶対にバレている。しかも怒っている。考えろ。母上は何故怒っているんだろうか。相談しないで魔物討伐を決めたから?いや、違うな。危ないところへ行くから?それとも最近、ハグをしていないから。うーん、分からん。とにかく、メインテーマは母上に内緒にしている事だ。えーと、えーと。
「母上、ごめんなさい。何のことか良く分かりません。」
「あなた、母に内緒でどこかに行くそうじゃない。何処へ行くの?」
「えーと、東の森の方です。」
「まあ、東に行くのね。それじゃあ、もう桃が熟しているはずよ。いっぱい買って来てね。」
あのう、魔物討伐のお話は?母上は、そのような話には全く興味がないみたいで、美味しい食べ物と特産品のお話が延々と続いた。
夕食後、父上に執務室に来るように言われた。執務室に行ってみると、ゾリゲン団長とルッツさんもいた。先ず、今回の魔物討伐にはゾリゲンさんが同行するそうだ。後、ランカスター騎士団から50騎の騎士が派遣されるので、私がその指揮をすることになった。あのう、皆様、大切な事を忘れてませんか?私、未だ5歳ですが。5歳の幼児に指揮官ができると思っているのですか?
それと、今回の討伐対象の地竜の特殊個体について基本的な事項の確認をしておくことにする。まず、地竜が高位魔物なのは大きさもさる事ながら、その硬さだ。鉄板のような鱗がビッシリと生えており、通常の剣では切り倒すことが出来ないそうだ。
例外は『逆鱗』と呼ばれる下顎の後部にある鱗で、この鱗は、他の鱗とは逆に生えているため、鱗同士の重ね合わせが出来ず、剣がスッと通るらしい。後、口の中、上顎から延髄にかけても剣が通るが、そのためには、その顎門の正面に立たなければならず、極めて危険だそうだ。ブレスを噴かれたら逃げられないもんね。
今回、広域殲滅魔法ではなく、剣で倒したいと言った事は皆に評価された。その理由は、鱗をはじめ貴重な部位素材が大量に入手出来るかららしい。業火で焼くと鱗も損傷し、買取価格が下がってしまうらしいいのだ。でもさっきから話を聞いてると、素材のお話で盛り上がっている。この人達は、5歳の私がSランクの地竜を討伐するのを既定路線のように思っているのですね。
あ、そうだ。国王陛下から下賜された剣のことを忘れてた。自分の部屋から持って来て、皆に見せてあげた。全長は80センチ位、刃体の長さは50センチ位で、銀色の鞘に金色の唐草模様のような装飾がされている。柄は赤色の紐で巻かれており、柄頭には赤い宝玉が嵌められている。
ゆっくり抜いてみる。鯉口を切るとき、若干の抵抗感があったが、すぐになくなって、スッと抜けた。この剣、両刃の直刀だが、何だろう。金属の刃が、角度によって赤色の輝きに見える。鎬には龍のような彫金の飾りがあるが、まるで元の世界の伝説の龍のような姿だ。構えてみると重くもなく軽くもない。不思議な持ち味だ。
その剣をじっと見ていたゾリゲン団長が、
「聖剣グラム。」
と唱えた。目には、驚愕の色が見える。私は、両手で青眼に構え、ゆっくりと魔力を流してみる。意識せずとも、私の魔力がスーッと通っていく。刃体がほんのりと赤く光りはじめた。
「フレデリック様、魔力をお切りなさい。これ以上は危ない。」
ハッと気がついて、魔力を遮断した。どうしたのだろう。ゾリゲン団長が『聖剣グラム』と言ってたが、聖剣って、特別な力があるのだろうか?
ゾリゲン団長によると、戦と死を司る神『オーディーン』が与えた剣が度重なる戦いで折れてしまい、その破片を鍛え直した剣だと言われている。使い手を選ぶが、切れない物は無いとされているそうだ。
国王陛下、あなたは一体、なんて物を下賜されたんですか。それに、この銀色の鞘、絶対に錆びず永遠の輝きを保つ希少金属、アダマンタイト鋼で出来ているそうだ。そして柄に巻かれている紐、これは最強の糸、アラクネの糸で組まれた紐を巻いているらしい。
もう、これって最強の剣を手に入れたかも知れない。
フレデリック君、地竜討伐の主力火器になってしまいました。
次話は、明日6:00に掲載予定です。
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