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36 鍛錬の準備は万全なようです

 素振り用木刀1800グラム。5歳で振るなんて異常です。

 今日の午後、スザンヌさんと一緒に武道具店に向かった。ゾリゲンさん達王都屋敷から来た騎士団の皆さんは、今日の朝、帰還のため出発したので、護衛は領地騎士隊の指揮官のバード隊長だ。バード隊長は2m近い巨体で、武器は大型のハルバートだ。どう見ても粗野で乱暴な印象の男の人だが、隣接の男爵の次男で、温厚で誠実、隊員からの人望も高い人物だそうだ。意外。最初、ブルーム殿下は、その容貌から非常に怖がっていたが、今は慣れたのか普通に話している。


 武道具店は、お城の南側、領都を囲む外壁の近くにあった。看板には『ドワンゴ武道具店』と書かれていたので、王都にあるお店の姉妹店かと思ったら、こちらが本店らしい。この店は、王都のドワンゴさんの親父さんがやっていて、長男の方が工房をやっているそうだ。親父さんは、悠々自適、好きな鍛冶だけをして、あとはお店で暇つぶしをしているそうだ。


 今日、武道具屋さんを訪ねた用件は、ウエイトバンドと木刀の作成依頼だ。


 ウエイトバンドは、両手首と両足首用で、皮膚に擦れず、中に入れる『おもり』の数を調整するものだ。『おもり』は、1個1キログラムの鉛で、1つのバンドに3個ずつ入るようにして貰いたいのだ。バンドの素材は、丈夫で柔らかいものをお願いした。


 この注文に親父さんが反応した。


   「お坊ちゃん、もしかしてお坊ちゃんが、そんな物を付けるんですかい?」


   「はい、そのつもりです。大丈夫ですよ。体力には自信がありますから。」


   「うーん、それとバンドの素材ですが、やはり『ロック・ディア』の背中の皮ですかね。表面は石のように固く、内側は鹿皮のように柔らかく、それに弾力性もあるので最適と思いますが。」


   「はい、有難うございます。どの位で出来ますか?」


   「加工は難しくないんで、1週間で大丈夫です。」


   「それで大丈夫です。あと木刀を作って貰いたいんですが。」


   「え?木刀なら、稽古用からお土産用まで、そこに揃ってますが。」


   「いえ、私が依頼したい木刀は特殊でして、長さは普通ですが、重さが3斤いえ1800グラムのものなんです。あと、持つところも私の手の大きさを考えて作って貰いたいのですが。」


   「はあー!1800グラム?そんな重い木刀、大剣使いでもなけりゃ振れないですよ。」


 いえ、大剣使いも1度は振れるだろうけど、普通に素振りは出来ないと思うけど。結局、先っちょから穴を開けて、鉛の心棒を入れることで重さを調整することにした。それでも今使っている2斤の木刀より、一回り太くなったけど。これも出来上がりは1週間との事だった。


 1週間後、木刀とウエイトバンドが届いた。木刀は、握りの太さも今までと変わらず、刃体部分の太さが二回りほど太いずんぐりむっくり型になった。先に鉛が入っているせいか、重心が剣先側にあり、しっかり振らないと木刀に振られてしまいそうだ。うん、頑張ろう。


 ウエイトバンドを両手首と足首に巻く。バンドを止めるベルトがついていて微調整が出来るようになっている。両足は自分で付けられるが、両腕はできないので、スザンヌさんに付けて貰った。最初、1キロの重さで試してみたが、これでは重さを感じないので、2キロにしてみる。うん、良い感じだ。少し動き回ってみても違和感がない。両腕も自分で付けることができるように練習しなくちゃ。


 ブルーム殿下も欲しがっていたけど、急に負荷をかけ過ぎると筋肉を痛めるだけで効果がないので、絶対に真似しないように注意しておいた。





 2月14日、私の5歳の誕生日が来た。今日から訓練メニューが変わる。まず素振りの木刀を新しい3斤(1800グラム)のものにする。それと、今回、特注しておいた2キログラムのウエイトバンドを両腕両足首に装着する。今日から、風呂に入る時以外はずっと装着し続けるつもりだ。


 さあ、鍛錬の開始だ。


 朝起きてのマラソンは、2キロで息が苦しくなった。でも、ここからが鍛錬だ。


   スースーハー!スースーハー!


 持久力を効果的にするための呼吸法?だ。最初、両足が異様に重く、もつれそうになった。次に、両脇に上げている腕が振れなくなった。当然、駆け足のスピードがガクンと落ちた。


   「フレデリック、大丈夫?」


 なんと、ブルーム殿下に心配されてしまった。ブルーム殿下と訓練を始めて、初めてのことだった。なんか嬉しくて涙が出そう。まあ、幾ら火球で暖めているからと言って、冷たい空気が鼻に入って鼻水は出ているんですけど。


 ゆっくり走って、午前6時に走り込み終了。筋肉がパンパンだ。本当は『ヒール』を掛けて筋肉痛を緩和

したいところだが、それでは筋肉の鍛錬にならない。ここは我慢だ。十分なクールダウンをしてから、お城にもどって、ゆっくりとお風呂に入る。筋肉の緊張を揉みほぐすのだ。ふうう。


 朝食後は、道場に行き、3斤(1200グラム)の木刀で素振りだ。しっかり振ることを心掛ける。最近は、前進時と後退時のそれぞれでビュンビュン木刀を振っていたが、今日は前進時のみ振ることにした。まずは木刀の重さに慣れることだ。いや、木刀とウエイトバンドの重さに慣れることだ。


 100本も振らない内に腕の感覚がなくなってきた。でも、ここからだ。柄を握る左手にしっかりと力を込めフンと振る。木刀が相手の頭を切り裂いたことを想定してに左右の握りを絞り、勢いで地面まで行きそうな木刀をシッカリと止める。それから、青眼の構えのまま、元の位置に後退するのだ。まだ、この木刀で風切り音がするほどの速度で振るのは無理だが、『継続は力』だ。いつか出来るようになるだろう。


 それから、通常の模擬剣を使っての打ち込み稽古だ。模擬剣そのものは軽いとは言え、片側2キロずつのウエイトの重さがある。ブルーム殿下の打ち込みに反応が遅れ、ヒヤッとしたことが何度もあった。


   「フレデリック、今日はなんかおかしいよ。」


 ブルーム殿下から違和感の訴えがあった。殿下には、ウエイトをつけることはあらかじめ言っているが、長袖のシャツの袖口に隠れているので、稽古をしている間に忘れてしまったらしい。


   「大丈夫ですよ。いやあ、ブルーム様は、本当にお強くなりましたね。」


    「本当?本当なら嬉しいな。」


 食事の改善と毎日の基礎訓練のせいか本当に、みるみる身体が出来てきた。今なら、やや細身の6歳児としても通るだろう。身長も確実に伸びているようだ。本当は、『鑑定』をかけて成長の証を数値化したいのだが、流石に王族に『鑑定』をかけるのは憚られるのでしないでいる。


 きっと、この先1か月くらいは筋肉痛に悩まされるだろう。でも、それも鍛錬と思って頑張ろう。それと、5歳になると不本意ながら、各種習い事が始まる。貴族としての資質を高めるためだと言うが、将来的に平民になろうと思っている私にとっては、余計なお世話だから。下級貴族や平民は幼年学校に通って基礎学力や職業適性にあった学力を身に付けさせるそうだ。私は、通えないけど。


 しかし、ここはランカスター領都のお城だ。当然、家庭教師はいない。しばらくは鍛錬三昧だ・・・。




 そう思っている時もありました。家庭教師の代わりにジョルジュ兄が、勉強を教えてくれることになった。決して勉強が嫌いな訳ではない。元の世界では、スポーツ推薦とは言え、一般試験を受けて国立大学に合格しただけの学力はあったのだから。数学だって数Ⅲまではキチンと学びました。この世界の数学は、もうなんて言ったらいいか、四則演算と図形の面積?を出すだけみたいで、三角関数や微分積分や高次方程式などは、研究者レベルの数学らしい。まあ、今でも高校や大学で習った数学がなんの役に立つのか分からないけど。


 あと地理と歴史は物凄く役に立った。ジョルジュ兄が、『ここは未だ早いけど。』と言って教えてくれる内容が面白くて、時間の経つのも忘れてしまいそうになる。


 反面、ブラスト叔父上の奥様から教わるピアノと社交ダンスそれにテーブルマナーについては、はっきり言って大嫌いだ。特に社交ダンス、あんな動き、絶対にできるわけがない。舞踏会の時は、壁の花いや壁のシミになろうと決意したのだった。


 ブルーム殿下は、全てにおいて如才なくこなされてしまう。さすが、王族。特にピアノについては母親譲りか天賦の才があるようだ。一度聞いた音を正確に再現できるし、初見の音符を見て、メロディーを口ずさむことが出来るのだ。奥様が『才能なのね!』と感心されていた。

 将来、どんなムキムキになるのでしょうか?

 次話は、本日17:00に投稿します。

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