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34 鍛錬の準備は大切なようです

王族が街のレストランに行くことは通常ありません。

 山賊達の小屋の中を調べると、大した物は無かった。煮炊きをする竈門以外には火の気がなく、寒々としている。聞くと、彼らは洞窟の中の首領や先輩達のために食事の準備をしたり、街へ買い物に行ったりと雑用をしながら、山賊見習いをしているようだ。


 私達は、取り敢えず小屋の中にある食材を使って、昼食の準備をする。捕縛されている連中は昼抜きだ。ベン卿に聞いたら、通常、牢屋に拘束中の犯罪者は1日2食らしい。朝は、黒パンと水、夜は水が野菜スープになるだけの質素な食事らしいのだ。まあ、シャバにいる時よりも豪華な食事を提供したら、入牢希望者が殺到しかねないからね。


 私達の昼食は、お肉たっぷりのスープと軽く炙った黒パン、それとチーズや干し肉のスライスサラダだ。小屋の中にある食材を目一杯使っての豪華ランチを楽しんでから、洞窟の中を調べることにした。あ、捕虜にした彼らは、衛士隊に引き立てられ歩いてブレーブ市まで行くことになるが、両手を後ろ手に縛られ、前後を繋がれての行進だから随分時間がかかるだろう。


 洞窟の入り口を騎士達に取り囲ませて、塞いでいる土の蓋に小さな穴を開ける。中の物音を聞くが、何も聞こえない。あれ、おかしいな。息を潜めていても、わずかな呼吸音や心臓の鼓動は消せないはずなのに、何も気配がない。


 ちょっとずつ穴を大きくしてみるが、中からの反応は皆無だ。人1人が通れるほどまでに穴を拡げ、中を覗くと、何人かの賊が折り重なるように倒れており、側には火の消えた松明が転がっていた。暫く換気をして、奥に進んで行くと、所々に死体が転がっているだけで、生存者はいないようだ。


 これは、きっと一酸化炭素中毒か酸欠死だな。息苦しさも感じずに意識を失い、死に至ったのだろう。まあ、密閉した空間で火を使うなど自業自得かな。気にせずにお宝を探す。金額的には大した事はないだろうが、我がランカスター家の大事な収入だ。無駄にはできない。今回は、騎士さん達の損耗がなかったので、経費は殆ど掛からなかったはずだ。まあ、みなさんにボーナスを支給するのは、ゾリゲン団長とベン卿の話し合い次第だろう。


 私は、全ての捜索が終わるまで外に待機していた。捜索終了後、賊の死体を洞窟の奥に集めて、超極大『ファイア』を放つ。魔法の炎は、燃焼材料がなくても大気中の酸素が炭素や水素と反応して大きな炎を生じさせるのだ。いえ、グリモワールからの受け売りです。


 後は、洞窟の出入口を厳重に密閉して終わりだ。掘建小屋も、放置すると不衛生なので、燃やしてしまうことになった。皆、森の方まで避難してもらう。


 体内の魔力にはまだ余裕がある。練り上げつつ、呪文を詠唱する。


   「火の精霊イフリートよ。汝の深淵なる力を我に与えたまえ。そわ地獄の業火となし、万象の事物を灰燼に帰せ。我の名はフレデリック。我は命ずる。地獄の業火を顕現せよ。インフェルノ・プロミネンス。」


 真っ黒な雲が天空に現れ、稲光が時々光る。雲の中心が大きく割れ、とんでもなく大きな火球が現れる。周囲の空気が、膨大な熱で対流を起こし雷光が光っている。あ、これって昔、テレビで見た核爆発の映像とそっくりだ。えーと不味いよね。こんな火球が爆発したら、地形が変わるか、ブレーブ市がなくなってしまう。


 えーと、無かったことにしよう。両手をかざして、待機中の魔力を全て吸収する。とにかく吸収する。魔力にも余裕があったが、体内魔力の貯蔵キャパ、つまり総魔力量もかなり余裕があるので、目一杯魔力を吸収して、なんとか火球のエネルギーを消滅させる事ができた。ふう。


 ここは、地道に1軒、1軒燃やして行こう。


    「ファイア。」


 ボヤ程度の火を付けて、ウインドで燃え上がらせる。全部を燃やし尽くすのに、時間がかかったが確実さが一番だよね。ね。


 最後に、ゾリゲンさんに頼んで今日見た事は内緒にして貰おう。特に父上と母上にはね。





 結局、ブレーブ市にもう一泊することになった。今日の夕飯は、ベン卿の招待で街のレストランでの食事だ。初めての街レストラン、物凄く楽しみだ。勿論、ブルーム殿下も一緒だ。シュレちゃんはスザンヌさんと一緒にお留守番だ。


 実は、ブルーム殿下も街のレストランは初めてらしい。目的のレストランは、市の行政庁の真正面にあって、市内で最も格の高いレストランだとのことだった。行ってみると、それほど大きい店ではなく、また一見、レストランとは思えない構えだった。入り口に立っている赤い制服の男の人の案内で中に入ると、レストランとは思えない広々した広間で、『え、この店、こんなに広いの』と思うほどだ。部屋の角にはピアノが置かれバイオリンとの協奏曲が奏でられている。


 私達は、奥の個室に案内された。最初にワインと果実水が運ばれて来て、本日の討伐成功について乾杯をした。ブルーム殿下が、自分も連れて行って貰いたかったと言ったが、そんな事をしたら、私は勘当、お家断絶になりかねないので勘弁して下さいね。


 レストランの料理は、フレンチとイタリアンの混合のような感じで、最初のチーズたっぷりのラザニア、それからシーバスのムニエルとフィレステーキ、最後の締めでパスタだ。あのう、これって4歳〜6歳の子供が食べる量じゃないよね。なんとか頑張ったけど、ステーキの途中でギブアップだった。でもデザートのティラミス風ケーキは美味しかった。この国ではカカオ豆が採れるのだろうか。王都では、漸くマシュマロがリリースされたというのに、ここではティラミス、なんか統一感がないな。きっと過去の転生者が色々やらかしたんだろうな。でもリバーシが無かったのは解せないな。


 夜、寝る前にいつものようにブルーム殿下の魔力操作の練習をする。手を握って、魔力を流した感じでは、ブルーム殿下の魔力容量はそれ程大きくないようだ。適正属性は風のようだから、風について教えてあげる。


   「ブルーム様、風ってどうやって吹いていると思います。」


   「うーん、風の精霊が起こしているのかな。」


   「いや、そうじゃなくって。風が顔に当たるときって、何が顔に当たっていると思いますか。」


   「そんなの、決まっているじゃあないか。風だよ。」


   「いえ、風ってなんで出来ているのかな?」


   「だから、風は風で、風の妖精が起こしているんだよ。」


 これが、世間一般の知識だ。まず空気の存在を知らない。空気には質量があって、圧力がかかっているという事を知らない。勿論、気圧の差で風が生まれるという事を知る訳がない。それで風魔法を使えというのだから、術式に頼らざるを得ないだろう。


 呪文には、精霊の力を借りるフレーズがあるが、精霊と契約を結んでもいないのに、力を借りることなど出来るのだろうか。私もグリモワールに記載されている呪文を唱えるときに、精霊の力を借りると宣言しているが、特に精霊の力を感じる事はない。また光魔法と闇魔法には精霊は必要ないようだが、という事は全ての魔法にも精霊の力が必要ないのではないだろうか。


 とにかく、魔法を使うには魔力が必要で、その魔力を操作できるようになるのが基本のキだ。術式を覚えるのは、その後になる。でも、まだ6歳の子供だ。きっと使えるようになるだろう。


 翌朝も、早朝マラソンだ。私は、両手両足に土魔法で作ったリングを嵌めて走ったが、これは失敗だ。硬い石が皮膚に直接当たり地味に痛い。時々『ヒール』をかけながら走っているが、何か違う気がする。やはり手首と足首に専用のウエイトを巻くことにしよう。きっと鍛冶職人なら簡単に作って貰えるだろう。


 朝食は、代官屋敷から派遣されて来たシェフが作るのだが、豆をたっぷり使ったスープと、チーズを挟んだ黒パンを作ってもらった。あと、蜂蜜をたっぷり入れたホットミルクだ。とにかく、高カロリー、高タンパクの食事を心がけている。そんな事を知らないブルーム殿下は、料理のおいしさと量に大満足らしい。


 午前10時、ブレーブ市を出発する。本日、傭兵団の首領を公開処刑するそうだ。あと、昨日捕縛した山賊16名は犯罪奴隷として、鉱山送りらしい。1人金貨3枚という超低価格だ。自分の命が30万円で、これから一生タダ働きさせられると知ったら、死んだ方がマシという奴もいるだろうな。


 ベン卿には、本当にお世話になったが、昨日のことは内密にと再度お願いして、ブレーブ市を後にした。

 これで第一章が終わりです。本当は20話位で纏めるつもりだったのですが、つい、あれもこれもと書き込んでしまいました。

 明日から第二章 少年期が始まります。異世界には、この世界にある食べ物などに、転生者の影が見えますが、今のところ別途登場させる予定はありません。

 次話は、明日午前6:00に掲載予定です。

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