33 魔法は使いようのようです。
フレデリック君のチート発揮回です。
目的地の街に着いたら、代官が街の入り口まで迎えに来ていた。この街は、ランカスター領内の3つある市の内の一つで、領都であるランカスター市の次に規模が大きい街だ。
街の名前はブレーブ市、人口2万8千人、主な産業はワイン醸造と酪農製品、それとガラス食器の製造だ。ワインはアスラン王国内でも有名で、温暖な気候で葡萄の生育が良く、糖度の高い葡萄が採れるらしい。しかしブレーブ市の名前を全国レベルまで高めたのは、やはりガラス食器だと教わった。元の世界には色鮮やかなベネチア産の食器やクリスタルガラスで有名なバカラなどがあったが、流石にそこまでの技術はないみたいだ。しかし、今の技術で最高峰のものを作り上げているようで、ブレーブ産のワイングラスは、ワンセット金貨2枚もするものがあるらしいのだ。
代官は、実直そうな男性で、名前をベン・エリソンと言い、若い時に王都守備騎士団で中隊長までなり、騎士爵を叙爵したそうだ。ベン卿は、ずっと門の外で待っていたせいか、唇が真っ青だった。代官邸の隣が貴賓宿舎になっているとの事だったので、一緒にそこに向かうことにした。馬車の中では、しきりに恐縮していたが、ゾリゲン団長が古くからの知り合いらしく、
「ベンさん、最近、この辺って物騒なのかい。」
「そうなんだよ。野盗の類が街道沿いに出没して困っているんだ。通ってきた森があったろう。あの西が山岳地帯になっていてな。そこに巣食っているんだが、うちの衛士隊では絶対数が少なくって殆ど放置状態になってしまっているんだ。」
山賊や野盗は、ずっとアジトにいるわけではなく、金を持てば、普通に街に来て買い物をしたり、飲み食いをしている。それで金がなくなれば、アジトに篭って、チャンスを狙うらしいのだ。その話を聞いて、私はゾリゲン団長と顔を見合わせた。
山賊の討伐は、ゾリゲン団長が率いる騎士団が27名、それに私の戦力を合わせれば、なんとかなるのではないだろうか。でも、山賊討伐に1日を掛けるとランカスター市到着が遅れてしまい、ジョルジュ兄に心配を掛けてしまう。そこさえクリア出来れば、山賊討伐に協力できるのに。
貴賓宿舎に到着してから、私とゾリゲン団長は、ベン卿のところを訪れて山賊討伐に関して相談した。領地騎士団が定期的に巡回してくるが、通常は15騎程度の規模で編成されており、山賊討伐には若干不安がある。市の衛士隊は、市内の犯罪取締りや旅人の出入りのチェックなど多忙を極め、討伐に出せる人数も最大10名程度だそうだ。
色々検討した結果、取り敢えず、明日、討伐隊を出すことになった。アジトにいるかどうか分からないが、行ってみて調査をするだけでも奴らへの牽制になるだろう。でも、ベン卿、どうしてさっきからチラチラ私を見ているんですか?
「ゾリゲン、討伐に行ってくれるのは有り難いがフレデリック坊ちゃんが一緒に行くのはどうなんだ。」
「ベンさん、今日、途中で傭兵どもを返り討ちにしたろ。あれ、半分以上はフレデリック様がしなすったんだぜ。」
「え?だってフレデリック様は未だ・・・。」
ベン卿は、ゾリゲンさんの真剣な顔を見て黙り込んでしまった。
「ベンさん、フレデリック様が普通じゃねえって、騎士団の連中はみんな知っているんだ。」
あのう、その言い方って、酷くありません?自分でも普通じゃないのは知っていますよ。なんたって転生者ですから。
結局、現状、どうしようもない状況に陥っているベン卿が私達を頼ることになった。討伐は明日の早朝、騎士団25名と衛士隊は非番も日勤も全て投入して20名、それとベン卿と私だ。衛士隊は殆ど徒歩なので、今日の夜半に森の入り口まで前進して野営をするそうだ。私達は、騎馬を走らせて森の入り口まで行くので、明日未明に出発だ。
翌朝午前5時、貴賓邸の前に騎士団が集合した。今日の任務は昨日のうちに説明していたので、後は出発するだけだ。前衛10名、中段にゾリゲン団長と私、それとベン卿が位置する。勿論、私はゾリゲン団長の騎馬に同乗だ。惻衛と後衛で15名、全員騎乗を終えて出発だ。あ、その前に3個のライトボールを高さ7〜8mの高さに打ち上げる。前衛、中段、後衛にそれぞれ1個ずつだ。うん、みなさん見上げないで下さい。直接見ちゃうと、暗反応で前が見えなくなりますよ。
出発してから1時間、森の入り口の野営地に到着した。既に衛士隊の皆さんは、出発準備を終えている。これから森の中に入るのだが、私が先頭で2列縦隊を作ってもらう。進軍は、このまま直線でアジトのある山岳地帯を目指すのだが、当然、道などないので、道を作りながら進軍する。
『ウインドカッター』で樹々を幅2m位に切り開き、切り倒された幹や枝は邪魔にならないように魔力で脇に退ける。まあ、大木は横に倒れるように切れ目を入れているんだけど。切り株などは、土魔法で、根っこごと浮き上がらせ退かせてしまって、あとは均して道の出来上がりだ。
森の中では、照明は小さな光球を10個位低い位置に浮かばせている。敵に先に見つかったのでは何もならない。概ね時速8キロ位の速度で進んだが、騎士さん達は進行速度の速さに青息吐息だった。ゾリゲン団長が、
「フレデリック様、もうちっと速度を緩めてくれねえか。これじゃあ、到着するまでに騎士達がバテてしまう。」
と言うので、普通に歩く速度まで緩めて、木々をゆっくり処理していく。陽が昇り、辺りがほんわかと明るくなった時、森が終わろうとしていた。もう、道を作るのはやめにして、樹々をすり抜けながら前進する。
騎士の中から斥候が出てくれた。山賊達のアジトの確認だ。1時間程して、斥候が戻ってくると、アジトは、この先1キロ位、山に続く坂の途中の岩肌をくり抜いて作られているらしい。あと、掘立て小屋が幾つかあり、中から煙が出ているので朝食の準備をしているのだろうとの報告だった。あと、その掘立て小屋の屋根に1人、見張りが立っているそうだ。
作戦としては、掘立て小屋の上の見張りを最初に排除し、次に掘立て小屋の中にいるもの達を制圧する。その間、洞窟から仲間が出てこないように、洞窟の入り口を塞いでおくことにする。小屋の中を完全制圧してから、ゆっくりと洞窟内の野盗どもを殲滅していけば良いだろう。
早速、作戦開始だ。掘立て小屋との距離は、おおよそ500。向こうが高所だ。近づいていく前に弓矢で狙い撃ちされる恐れがある。とはいえ、距離がありすぎてこちらの矢は届かない。
「フレデリック様、昨日の弾、あそこまで届かねえすか?」
やった事はないが、スナイパーライフルの最長有効射程距離は2キロ位と聞いたことがある。ただし、望遠スコープもない私が、2キロ先の敵の急所を狙えるかと言うと、それは難しいだろう。しかし、ここは魔法の世界だ。弾に自動追尾の属性を付加すれば、問題は解決するはずだ。
「やってみる。」
私は、鉛製の9ミリパラベラム弾を生成する。スナイパーライフル用の弾など見た事が無いので、イメージができないのだ。空気抵抗を軽減するために表面をプルーフ仕様にして、魔力を練り上げる。初速は、秒速400m、回転は4500回転/秒にする。勿論、自動追尾属性を付加する。誰にも見えないだろうが、青い魔力が、自分の手の先から迸って生成した弾丸とリンクしているのが見える。右手の指をを拳銃の形にして頭上に掲げ、前方にビュッと振り下ろす。まあ、指の形は関係なかったけど。
「行っけー!」
ストーンいやメタルバレットを発射後、弾丸は音速を超えていたが、すぐに空気抵抗のため亜音速まで減速されたので、ソニックブームは限定的だった。
視力の良い者は、見張りが頭を吹き飛ばされ、屋根から転がり落ちていくのが見えただろう。私達は、すぐに駆け足で掘立て小屋に向かう。賊の連中は朝食準備中だったのか、暫くは誰も出てこなかった。ようやく剣や槍を持った男達が小屋からゾロゾロ出てきた時は、私達は小屋の目前に到着していた。私は、小屋から出てきた賊達には構わず、後方の洞窟の入り口に一直線に向かう。おそらく山賊の首領などは、この洞窟の奥にいるのだろう。あと洞窟には他に出入り口がない事は、斥候が確認済みだ。
私は、土魔法で洞窟の前の地面を盛り上げさせ、誰も出入り出来ないように蓋をした。それから蓋の隙間を丁寧に練った泥で塞いでおいた。中の人間は、酸素不足で早期に戦闘能力を失うだろう。酸素の存在を知らないと、松明や篝火をそのまま使い続けてくれるかも知れない。
小屋の周辺では肉弾戦が繰り広げられている。相手は20人位だろうか。おそらく山賊の主力は洞窟の中だろう。小屋の中の賊達は、成り立てなのか農民に毛が生えた程度の実力だ。騎士団にあっという間に制圧されてしまい、騎士団側の被害はゼロという素晴らしい成果だった。
そのうち、スナイパー銃も開発されるかも。
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