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29 ブルーム殿下は良い子のようです。

総アクセス数が9000PVを超えました。この調子だと、初掲載から1か月以内で10,000PV超えを達成しそうです。これも一重に皆様のおかげと感謝申し上げます。

 ブルーム殿下は、側室の子でした。

 ブルーム第三王子殿下に会うために王城に向かっている。侯爵邸からは歩いても30分程度だが、侯爵家は、4頭立ての馬車を利用する事と決められている。同乗はスザンナさん、随行騎士はルッツさんと若い女性騎士だ。王城の外堀に掛かっている跳ね橋を渡り、正門前で一旦停止、用件を伝えて入城許可を貰う。この前は、本館の正面の大階段を登った正面玄関から入ったが、今日はお城の後ろの方に回り込む。ブルーム王子は、第ニ後宮に母君と一緒に住んでいるそうだ。


 ブルーム王子の母君は、王妃陛下ではない。アスラン王国の北西にあるエイボン皇国の第四王女だった人だ。7年前、アスラン王国とエイボン皇国の同盟が成立した時に、側室として嫁してきたのだが、体のいい人質だろう。すぐにブルーム王子を懐妊し、第二後宮を与えられて住んでいるとのことだった。ブルーム王子は、私より1歳上で3月で6歳になるそうだ。


 第ニ後宮前に到着すると、玄関前にブルーム王子が立っていた。真冬の寒空の中、ずっと待っているなんて、風邪でも引いたらどうするんだろう。私は、直ぐに馬車を飛び降りてブルーム殿下にご挨拶だ。


   「ブルーム様、お久しぶりです。もっと早く来たかったのですが、なかなか日程が取れなくて、遅くなってすみませんでした。」


   「フレデリック、硬いよ。寒いから、早く中に入ろうよ。」


 2人で、後宮の中に入って行く。後ろから、スザンヌさんがブルーム殿下へのお土産を持って付いてきていた。通されたのは玄関を入って直ぐの居間の様な部屋で、暖炉の前のソファには若いお姫様が座っていた。年齢は16〜8歳位か、黒い髪を結ばずに背中まで伸ばしており、鼻筋の通った綺麗な女性だ。しかし、この女性がブルーム殿下の母君だとすると、今から7年前に妊娠したと言うことになる。国王陛下、それって犯罪ですよ。


   「フレデリック、紹介するね。僕の母上様だよ。母上様、いつも僕が話しているフレデリック、僕より1個下かな。」


 私は、軽くお辞儀をしてから、


   「お初にお目にかかります。ヘンリー・フォン・ランカスターが3男、フレデリックでございます。」


   「まあ、もうすぐ5歳にしてはしっかりしているのね。私はシンシア。ブルームと仲良くしてね。」


   「承りました。本日は、私の母マリアンヌよりシンシア様にお渡しする物をお持ちしました。お受け取りください。」


 スザンヌさんが、早速荷物の中から長い箱を選びシンシア様にお渡しする。


   「これは、我がランカスター領で採取したシープスパイダーから採れた糸で織ったスカーフです。ご承知のとおりシープスパイダーの糸は、鉄の様に丈夫でありながら、羊の毛の様に柔らかく美しい糸を吐き出します。我が領地には、この珍しい蜘蛛が繁殖している山があり、年に何度か採取に行っているそうです。」


   「これは珍しいものを、とても暖かいわ。お母様によしなにお伝え下さい。」


 さあ、母様からのお土産は渡したから、いよいよブルーム王子へのお土産だ。


 先ずはお約束のリバーシだ。石の白い象牙の面には、ランカスター家の紋章を掘り込んでいる。また、ローズウッド製の二つ折りの盤面の側面には金象嵌が嵌め込まれており、かなりの高級感が漂っている。これはバートさんに頼んで特別に作って貰ったもので、この仕様を特注で作ると、金貨2枚は必要だそうだ。当然、バートさんからのプレゼントということで金銭のやり取りはない。ブルーム殿下は、目を輝かせてリバーシを見ていた。


   「僕、これ欲しかったんだ。兄上達は1個ずつ持っているんだけど、僕の分は未だ手に入らないんだって。侍従長には、なるべく急いでもらう様にお願いしていたんだ。」


 あれ?幾ら品不足とは言え、王室からの注文なら最優先で納入するはずなのに、ちょっとおかしいな。王族としての扱いがされていない気がする。そう言えば、この後宮も国王陛下の側室用としては、かなり小さい気がする。今いるリビングは30畳くらいだが、奥に小さいダイニングテーブルがあるところを見ると、リビングとダイニングが一緒になっているようだ。奥がキッチンにバス・トイレだろうが他にドアがなく、2階に上がる階段が端にある所からリビングから直接2階に上がるみたいだ。どうも家の作りから見て2LKらしい。


 それよりも、メイドや侍従はどうしたのだろう。来客なのだから、もうそろそろお茶が出されても良いだろうが、奥の扉の向こうに人が居る気配がない。


   「あ、気がつかなくて。今、お茶を準備しますね。」


 シンシア様が、そう言って、立ちあがろうとする。


   「いえ、シンシア様、うちのメイドがしますから。」


 スザンヌさんが、スッと奥のキッチンに向かう。


    「うちのキッチン狭くて。片付いていないから恥ずかしいわ。」


   「えーと、シンシア様が食事の準備をするのですか?」


   「いえ、食事は、夕方、本邸のメイドが持ってきてくれるのです。でもお茶は自分で入れないと。専用メイドはいませんから。」


   「あのう、ここにはずっとおられるのですか?」


   「いえ、お城に来た当初は、女王陛下と同じ後宮の1室にいたのですが、ブルームがお腹にできたと同時にここに移ったのですよ。」


 詳しい理由は分からないが、きっとシンシア様の出自が問題なのだろう。同盟国とは言え、格下の弱小国、そんな国の人質に高待遇など絶対にしないだろう。それこそブルーム殿下が出来たから側室扱いをせざるを得ないのだろうが、そうでもなかったら軟禁状態の飼い殺しだろう。


 ブルーム殿下には、リバーシの他に素振り用の木刀と王都で一番人気のスイーツ屋さんで作られたマシュマロの詰め合わせセットをプレゼントした。


 メルボルン公爵からは刃渡り20センチ位のナイフがブルーム殿下に贈られたが、この事は内緒にしておく様にとのことだった。最初、どういう意味かわからなかったが、シンシア様とブルーム殿下の置かれている立場から身を守る物を持っていた方が良いのだろう。


 木刀については、通常の長さと太さのものだが、材質が超高級素材の黒檀製で金貨4枚もするものだ。ブルーム殿下は、間もなく6歳になろうというのに、未だ剣術指導を受けていないということだった。


 部屋の中は狭いので、早速、外に出て木刀の使い方を教えてあげることにした。最初は、構え方だ。片手剣の構え方を教えても良いが、この木刀の長さでは、やはり両手剣の構え方だろう。


 日本剣道型の青眼の構えを最初に教える事にする。まず木刀の握り方だ。左手の小指を柄頭いっぱいにかけて上から握り、小指、薬指はしっかりと締め、中指を軽く締め、人差し指と親指は軽く添えるように握る。右拳は鍔からわずかに離し、左手と同じように握る。両手とも人差し指と親指の股の所が刃体の背の部分、棟の延長上にあるようにする。


 それから、右足をやや前に出し、木刀を持っている左こぶしは、自分のお臍の前でこぶしひと握り分離したところに位置する。剣先を相手の眉間よりやや左目寄りに向ける。


 さあ、体の力を抜いて、先ずは深呼吸。最初は、木刀の重さに負けて剣先がプルプル震えている。肩に力が入りすぎだ。もっと柔らかく。次に、その位置のまま大きく振りかぶってもらう。うん、正中線からズレてるね。最初はしょうがない。剣先を持って、正しい位置まで修正してあげる。


 1時間位やっただろうか。何とか素振りの基本型が出来てきた。足捌きや木刀の止め方など、まだまだこれからだけど、それは練習しかない。本当は、毎日見てあげたいけど、そんな事は出来ないし、今日はやれるところまでだな。そう思っている時だった。


   「お前ら、何やってんだよ。」


 後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、アンドレイ第一王子殿下が立っていた。その後ろには、従者か友人か分からないが4人の男の子が一緒だ。


 私が、キョトンと見ていると、ブルーム殿下がその場で跪いた。え、臣下じゃああるまいし、跪くのはやりすぎでは。


   「お前、ランカスターの3番目だな、何で跪かねえんだよ。」


 貴族が跪くのは、国王陛下に対する場合だけで、それは絶対の忠誠を誓う臣下の礼の中でも最敬礼に当たるものだ。他の王族に対しては、右手を左胸に当てて、腰を30度折り、頭を下げる礼で十分なはずだ。しかも私とアンドレイ殿下は主従関係にないのだ。軽くお辞儀をする程度でも不敬にはならない。


   「私が跪くのは陛下に対してだけです。」


   「お前、ちょっと強いと思って、生意気だぞ。おい、お前ら。こいつに痛い目を見せてやれ。」


 あーあ、これは私闘ですね。剣術の稽古ではないですよね。しかも丸腰の私に、4人の少年が剣を抜いているんですよね。ブルーム殿下は、顔を真っ青にして後ろに下がっている。私は、地面に落ちている木刀を拾おうかと思ったが、敢えて丸腰のままでいることにした。


   「アンドレイ殿下、王城内での私闘は禁止されてますよね。それに、丸腰の私に剣を向けるのは、騎士道に反するのではありませんか?」


   「これは私闘ではないぞ。お前への躾だ。後、丸腰のお前が馬鹿なだけだ。文句は死んでから言え。」


 いやあ、この王子、馬鹿だとは思っていたけど、ここまで馬鹿とは思わなかった。私がここで殺されて、父上が何も言わないと思っているのだろうか。確かに、王族は無礼打ちの権利を有しているが、それは平民に対してだけで、貴族に対しては理由のない制裁は認められていない。


   「あなた達も、王城内で剣を抜いて、自分がどうなるか分かっていますか。」


 王城内で、理由なく剣を抜いて人に向けたら『死罪』もあり得る重罪だ。幾らアンドレイ殿下の命令でも、剣を抜く正当な理由にはならない。4人は、お互いに顔を見合わせて、剣を収めた。うん、賢明な判断だ。


   「アンドレイ殿下、今日は、このまま引き下がっていただければ無かった事にします。これ以上続ければ、この事を宰相閣下と父に報告しなければなりません。如何しますか?」


 私は、淡々とこれからのことについ手説明した。

 ブルーム殿下とシンシア様は、敵国の人質とその子という処遇を受けていました。

 次話は本日17:00に投稿予定です。

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