30 無刀取りって難しいようです
総アクセス数が10,000PVを超えました。掲載を始めて、23日目になります。これも皆様のお陰と感謝申し上げます。
アンドレイ殿下は、フレデリックのことを単なる4歳児と思っているようです。
私は、アンドレイ殿下に注意を与える。最後通告だ。
「これ以上続ければ、この事を宰相閣下と父に報告しなければなりません。如何しますか?」
「ふざけるな!」
まったく聞く耳を持たずに、アンドレイ殿下が掴みかかってきた。勿論、軽くステップして躱わす。殴り掛かってくる。躱わす。蹴り付けてくる。躱わす。もう動きが遅すぎて、躱しづらい。相手の拳や足が、こちらの部位にヒットする寸前に、最小の動きで躱したいのに、待っている時間が長すぎる。
10分もやっていただろうか。躱し続ける私に業を煮やしたか、遂に剣を抜いてしまった。見た感じ、装飾が多いだけのナマクラのようだが、それでも切られれば痛い。チラッと木刀を見たが、やはり『無刀取り』でいこう。『無刀取り』って、両手で相手の刀の刃を挟んで取るような、通称『真剣白刃取り』のようなものではなく、剣を持たずに相手から1本取るという事だ。今回のアンドレイ殿下との争いの勝利条件は、アンドレイ殿下のやる気を削ぐ事だと思っている。
私は、ジリジリと間合いを詰めていく。アンドレイ殿下の剣が大きく上下に揺れている。あれでは、打ち間を教えているようなものだ。剣先が大きく下がろうとした先を制し、剣の左横ギリギリのところをすり抜け、アンドレイ殿下の左体側に付く。殿下と正対し、剣を持っている右腕の手首と親指の付け根を左手で握って外側に捻る。合気道の『小手返し』だ。本当は、相手を倒すまで逆を決めるのだが、そこまではやり過ぎなので、剣を手放した段階で力を抜いて、後方に下がる。間合いを保ちながら残心を示していると、
「お前、俺に何をした。父上に言ってお前の家なんか取り潰してやる。」
捨て台詞を言い残して、第一後宮の方に走り去っていった。改めて第一後宮の方を見ると、まるで御殿のようだ。こっちの第ニ後宮はと言えば、日本のサラリーマンが30年ローンで購入する一戸建てのようだった。それだけで、シンシア様やブルーム殿下の置かれている立場がよく分かる。
ブルーム殿下がベソをかいている。あれ、どうしたんだろう。どこか傷めたのかな。
「ブルーム様、どうなされました。大丈夫ですか?」
「ううん、どうもしないよ。ただ嬉しくて。涙が出て来ちゃった。」
話を聞くと、かなり深刻な状況らしい。まず、シンシア様は、この第二離宮から出ることが許されていない。出るときには、国王陛下と宰相閣下それと外務卿の了解を得なければならない。特に外務卿が厳しく、なかなか許可をくれないらしいのだ。また、ようやく外に出られるとなっても近衛騎士団が護衛という名の見張りにつくらしい。自由に買い物やお茶会に出かけることなど夢の夢と言うことらしい。ははあ、それで母上はあのようなスカーフをお土産に持たせたのか。あと、公爵閣下がブルーム殿下へと渡してくれた短剣だって、今のブルーム殿下にしたら絶対に手に入らない品物なのだろう。
食事にしたって、夕方、夕食と翌日の朝、昼の分を一度に持ってきて、それを温めて食べるだけらしい。食事内容も王族とは思えないような質素なものらしいのだ。
「仕方がないのです。私は、人質の身ですから。」
シンシア様は、13歳でここに来て、7年間、そういう生活を送っているとのことだった。最初、第一後宮で暮らした時も、本当はお城の尖塔の上の牢獄のような部屋に入るはずだったのが、王妃陛下の指示で、第一後宮の1室を与えられたらしいのだ。でも、国王陛下の目に留まり、ブルーム殿下を身ごもってしまったので、ここに移り住んだらしいのだ。これも外務卿の指示によるらしいけど。
ブルーム殿下は、小さい時からアンドレイ皇太子殿下に『人質の子』と言われて虐められ続け、アンドレイ殿下の前では跪くことを強制されているとのことだった。アンドレイ殿下は、女王陛下の前では、普通に弟として扱うようなので、バレていないらしいのだが、そんなこと、絶対に耳に入るはずだ。もし、知らないとしたら、組織的にシンシア様達への扱いを隠ぺいしているのだろう。
どうにかしてあげたいけど、何も権限のない4歳児に何かができる訳もなく、とりあえず、ブルーム殿下に剣術を教えるところから始めようと思う。やはり、強者であれば、自分の意見も堂々と言えるし、弱者は何をやるにしても強者の意向を無視できないだろう。ブルーム殿下には、自分の好きな道に進んでもらいたいし、その為に力になれることは全力で応援していこうと思っている。
それから、部屋に戻って、リバーシの遊び方を教えてあげた。シンシア様も興味を示され、最初は私と勝負をしていたが、あまりにも私が強すぎるので、最後にはシンシア様とブルーム殿下の二人で遊び始めた。見た感じ、シンシア様の方が少し強いかなと思われる程度だった。
夕方、ブルーム殿下とお別れの時間となった。ブルーム殿下は、私よりも1歳年上なのに、グスグスと泣き始めてしまった。また、遊びに来るからと約束してようやく帰ることができたが、何故か気持ちがすっきりしない。ああ、この国の将来を、あのアンドレイ殿下に託すのかと思うと明るい未来が見えてこない。成人して独立したら他国へ移住しても良いかなと考えてしまった。
屋敷に戻って母上に今日の出来事を報告した。シンシア様の置かれている状況や、ブルーム殿下への虐めなどを話したら、悲しそうな顔をしていた。シンシア様が来られた時には、王城内のお茶会には、よく参加されていたのに、ご懐妊をされてからプッツリと見えなくなって心配していたそうだ。
夕食後、帰ってきた父上に執務室に呼ばれた。今日のことが王城内でも話題になっているそうだ。言いふらしているのは外務卿と、その取り巻きらしい。風評内容は、私がアンドレイ殿下に暴力を働いたという事らしい。私は、今日の事について詳しく説明した。父上は、私が丸腰だった事、向こうは殿下を含めて帯剣した5人だった事を再確認してから、何か書き物をしていた。
「フレデリック、お前は暫くの間、領地に行っておれ。騒ぎが治るまでは、大人しくしているんだぞ。向こうにはジョルジュもいるから、寂しくはないだろう。」
父上は私を叱ることもなく、今後の方針を淡々と話している。アンドレイ皇太子殿下の横暴な言動は、国王陛下をはじめ、皆が知っており、13歳にもなる皇太子殿下が4歳の幼児に一方的に暴行を受けるなど、あり得ないというか、もし本当なら皇太子殿下そのものの資質を疑いたくなる事案だ。そんなことは百も承知の外務卿が、その尻馬に乗って風評を流布しているなど、何か魂胆があるのだろう。まあ、王室からはお咎めはない筈だが、痛くもない腹を探られるのは嫌だろうから、少しの間領地見学ということで王都を出ておくことにしたらしい。私に異論はないが、ブルーム殿下のことを考えると胸が痛む。
「父上、ブルーム殿下はどうなるのですか。それにシンシア様は、まるで囚人のように幽閉されているではないですか。」
「うむ、宰相と私、それにメルボルン公爵の3人で善後策を考え中だが、少し困ったことになっていてな。これは秘密事項だが、シンシア嬢の母国であるエイボン皇国が、シンシア嬢の扱いにご立腹でな。側室として王室入りしたはずなのに、扱いが囚人並みでは協定違反だ。今すぐシンシア嬢とブルーム殿下を返して貰いたいとの公文が送達されてきたのじゃ。もちろん、シンシア嬢を返すのは問題がないのだが、問題はブルーム殿下だ。さすがに王位継承権3位の王子を他国にやる訳にはいかん。アスラン王国の正当な継承者だと立てられて、戦を仕掛けられるネタになるしのう。」
父上の話を聞いていて、根本はシンシア様の扱いが、あまりにも酷いということなのだと理解した。その外務卿と言う人が裏で糸を引いているようだが、そんなことをして何の利益があるのだろうか。
「父上、領地に行く時、ブルーム殿下を一緒に連れて行けないでしょうか?」
「うーん、ブルーム殿下も今年は6歳か。国内情勢を視察するのに早すぎるという事はないな。うん、その件は国王陛下と宰相に相談してみよう。」
これで、アンドレイ殿下に虐められなくなるなら、一石二鳥だ。もし一緒に行くことができたら特訓だな。
この時、第ニ後宮でお風呂に入っていたブルーム殿下が、ゾクゾクっと背中に寒気を感じた事は誰も知らなかった。
本当は、もっとコテンパンにやっつけて『ざまあ』感を出したかったのですが、今回は我慢しました。
次話は、明日、午前6:00に投稿する予定です。
この作品がお気に召したら、いいね登録をお願いします。
またブックマーク登録をしていただけると嬉しいです。




