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28 新年パーティはいつもより平穏のようです。

 年が明けました。フレデリック君も間もなく5歳です。

 1月3日、恒例の新年パーティが始まった。今年は、昨年よりも招待者が多いような気がする。と言うか、皆、私に注目している。きっと、公爵家へ婿入りが決まり、外戚とはいえ、公爵家に連なる者となるのだ。ジョルジュ兄と同様に、将来仲良くなっておいて絶対に損のない子供ということだろう。そういえば、今年は若い女性が極端に多い。ははあ、ジョルジュ兄の婚約者狙いだな。でも、我がランカスター侯爵家の派閥内から嫁をむかえるよりも、仲の良い辺境伯家などの貴族家からお嫁さんをもらった方が、ずっと役に立つと思うんだけど。貴族家の子女は、自分で配偶者を決められないのは大昔からの決まり事だ。貴族たるもの、家のために生き、家のために死す。そう、日本の武士のような生き様とよく似ている。ジョルジュ兄の婚約者は、ある日突然、父上から告げられるのだろう。


 もし、その時に、ジョルジュ兄に好きな人がいたら。でも、この国では、そういうときのために側室制度があるようだ。王族以外が第二夫人を持つことは許されていないが、側室についてはある程度許されている。ただし、そのために夫婦仲や家庭内別居が発生したのでは貴族としての気品と礼節を失していると評価されてしまうため、あくまでも表面上は正室、側室ともに仲の良いことが基本だそうだ。


 と言うわけで、ジョルジュ兄の正室狙いと、私の側室狙いが目的の令嬢たちが大挙して押しかけてきたわけだ。グレンベル兄は、あくまでもランカスター家のサブという位置づけだし、本人も全くその気がないのが分っているので、誰も近づこうとしないみたいだ。可哀そうなグレンベル兄。


 去年の新年会では、リンゲル伯爵の嫡男、ブロン君が我儘な態度を取ったので、少し懲らしめてやったけど、今年は何処にいるのかわからない程、小さくなっている。あれ、どうしたのだろう。ジョルジュ兄が小さい声で教えてくれた。


   「フレ、お前の武勇伝、派閥貴族の間で有名になっているぞ。将来の剣聖間違いなしだってよ。」


 え、それ、困るんですけど、私はこの世界でも剣の道を極めたいなと思っているけど、あまり若いうちから神童とか剣聖の卵などと褒められおだてられて良いことなど一つもない。強者は、いたるところにおり今この瞬間にもより高い境地に到達しているかも知れないのだ。宮本武蔵の『五輪書』に、


   『千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす。』


とある。3年で鍛となり、30年で練となる。剣の道は険しく遠い。この世に生を受けて高々5年、剣を握って3年では全く鍛錬には程遠い。他人の評価に惑わされる事なく、日々己を鍛えることが、達人への道の近道なのである。


 そんな事を考えていた時もありました。パーテーも半ばとなり、いつものように子供達だけの部屋に集まっての『お友達と一緒』タイムです。今年は、昨年と違って、リバーシセットを5セット準備しているので、子供達も楽しめるはずだ。


  一番年長のブロン君がすぐに食いついてきた。どうやら、これらがリバーシというゲームだということを知っているらしい。


   「すごい、リバーシじゃないですか。このゲーム、王都の貴族の間で流行っているんだけど、全然売ってなくて、今注文しても半年待ちだって。どうしてこんなに沢山入手できたんですか。」


 ブロン君、口調がとても変わってしまったんですが、まあ、いいんじゃないかな。立場を分かってもらえて。ゲームのやり方を知っている子が3~4人いたので、その子にインストラクターをお願いして、私は、皆の周りを回ってホストに徹しようとしたんだけど、もう、何故か私の周りには女の子達が集まってしまって。飲み物を持ってきたり、食べ物をくれようとしたり。あのう、私、もう婚約者がいるんですけど。そう言おうと思ったんですけど、もう、女の子の間で喧嘩みたいになってしまって。みんなで仲良くしようね。あ、ジュースありがとう。あと、このクッキーおいしいよ。ジョルジュ兄、どうして口を押えて笑っているんですか?去年は、ジョルジュ兄が女の子の的だったでしょ。


 突然、ゾワゾワと寒気がしてきた。あれ、なんだろう、背後から私を殺そうとしている気配がビンビンに伝わってくる。ソーッと後ろを振り向くと、なんと、ベス嬢がこちらを見ている。それもいつもの可愛らしい顔ではなく、物凄く冷たくかつ恐怖の大王のような目つきでこちらを見ているではないですか。今日、このパーティに参加するよていだったっけ?


   「ちょっと失礼。」


 周りの女の子たちに断って、ベス嬢のところに向かう。ベス嬢は、顔は怒っているが、目に一杯涙を浮かべている。うん、これは謝ろう。


   「ベス嬢、ごめんなさい。お迎えもしないで。来るんなら、一言言ったら迎えに行ったのに。いや、公爵邸までだって迎えに行ったよ。」


 今日は、3日、ベス嬢は、新年を領都の公爵屋敷で迎えてから、王都の公爵邸に来ると言っていたのを思い出した。


   「ぐす。わ、私、ずっと迎えに来るのを待っていたのに、全然お迎えに来ないのですもの。もう、待っているとパーティが終わってしまうと思って来てみたら。ひどいですわ。ほかの女の子たちに囲まれて、とっても人気がおありなのですのね。ぐすん!」


 誤解のないよう、はっきりしておこう。決して迎えに行く約束なんかしていません。それは、本当です。でも、そんなことを言ったら、火に油を注ぐようなものだし。そうだ、ここは大人の対応だ。とにかく、機嫌を直してもらおう。


   「えーと、あ、そのリボン、付けてくれたんだね。ピンクは私の大好きな色なんだ。ベス嬢の髪の色もピンクだし、リボンもピンクなんて、好きなところが一杯で困ってしまうよ。」


  自分で言っていて、とても恥ずかしい。顔が赤くなっているのが分る。しかし、女ごごろは分からない。途端にニコッと笑って、


   「今日は、特別にこのリボンをしたのです。今まで、ずっと大切にしまっていましたのです。でも、今日はフィレ君に見せたくて、特別に付けてきたのです。」


 お、機嫌が直りそう。もう一息だ。


   「そんな、いつでも付けてよ。かわいいベス嬢をいつでも見たいから。」


 もう駄目です。恥ずかしさで爆死寸前です。今日から、1週間寝込みます。でも、そんな見え透いたお世辞が功を奏したのか、完全にいつもモードになってしまった。


   「ところで、皆がリバーシーをやってるです。私は、フィレ君と一杯練習したから、結構強くなっていますです。仲間に入れて貰いたいです。」


 皆のところに案内して、開いているところを待っていたら、ちょうどブロン君の相手が負けて席を立ったので、待っている人に断ってベス嬢に座って貰った。あれ、ブロン君、顔が赤くなっているけど、この子、私の婚約者だからね。


 しかし、ブロン君。勝負となると容赦ないね。3分の2位のところで、ベス嬢の打つところがなくなってしまって、結局、ほとんどブロン君の色になってしまった。ベス嬢、ゲームで負けたからって泣いちゃいけません。私はホスト役だからゲームには参加せず、皆の周りを回って、いろんなお話を聞く役に徹しています。私と同じ、今年で5歳になる子が5人ほどいて、今年が初参加とのことだった。この子らは4月から王都にある幼年学校に通うらしい。初めて聞く名称に『それは、何か?』と聞いたら、貴族でも家庭教師を複数人雇うのはかなり高位貴族のみらしく、通常は1人を雇うので精一杯らしい。しかし、学問から武術それに魔法から芸術まですべてできる家庭教師などいる訳もなく、家庭教師の不得意科目については、その幼年学校で学ぶらしいのだ。何かいいことを聞いた気がする。幼年学校に通って、履修学科を短期間に学習し終えれば、もう学ばなくても済むということで、そうすると時間がたっぷり余るということになるわけで。うん、これは行かないわけには行かないな。


 そんな事を考えていると、顔に出てしまったのかジョルジュ兄が衝撃の事実を教えてくれた。なんと、その幼年学校には伯爵家以下の家格の子女でなければ通えないらしいのだ。そりゃそうだよね。辺境伯家や侯爵家は、家庭教師をダース単位で雇っても余裕があるのに、なにも公費補助がある幼年学校に通うなんて、経済が回らなくなってしまうもんね。


 と言うことで、今年の新年パーティは無事終わりました。ふう、何も無くてよかった。あと、パーティが終わってから母上から呼ばれて、婚約者を泣かしてはいけませんと注意されてしまった。解せぬ。


 次の日、王都のメルボルン公爵閣下に新年のご挨拶に行った。もう、なんだかすべてバレていて、冒険者と模擬戦をやって、6人抜きをしたこととか、メルボルン領でファングウルフやポイズンベアを討伐したことから、リバーシを創作し、商会と専売契約を結んだことまで、全部知られていた。それは自分の孫娘の婿になる男がどんな男が興味があるでしょうが、まだ5歳ですよ。そんな小さな子の素行を調べたってしょうがないと思うんですけど。


 公爵閣下、ニヤニヤ笑いながら、いろいろ聞いてくるんですが、本当、この閣下、完全に狸ですね。それも古狸です。何か答えるごとに不味いことになりそうなので、最後は黙っていると、テーブルの下から見たことのある箱を出してきた。リバーシだ。結局、公爵閣下とリバーシをすることになったが、10戦8勝2敗だった。後半は、コツが掴めたのかなかなか勝ちにくい進行になってしまった。しつこい位、隅を狙ってくるものだから、真ん中が全部、私の石になったんだけど、あっという間に逆転されるなどリバーシ特有の逆転ゲームが多くなってきた。この調子だと、いつか私が負け続けてしまいそうだ。


   「ところで、ブルーム第三王子には、『リバーシ』を持って行ったのかね。」


   「いえ、王子からお呼びすると言っていましたので、こちらからお伺いするのは控えております。」


   「そうか、そうだな。それじゃあ、私が話を通しておくから、明後日、王子に会いに行きなさい。もちろん、『リバーシ』のお土産を持ってじゃぞ。」


 本当、なんでも知っているんですね、この爺さん。

 いやあ、ベス嬢の突然の乱入、でもフレデリック君、大人の対応ができたみたいです。

 次話は明日6:00に投稿の予定です。

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