26 ワンコを拾ったようです
今回は、定番のワンコ登場です。ワンコと言えば、勿論あれです。
声は、死んだポイズンベアの下から聞こえた。ポイズンベアをどかして見ると、血まみれの何かがいた。毒もかかっているようで、紫色の液体がところどころに付着していた。
見た感じはワンコなんだが、鳴き声が『ブヒャ!ブヒャ!』と聞こえるので、ポイズンベアの幼体なのだろうか。魔物のはずなのに、魔力が掠れており、死にかかっているのだろう。しかし、こんな小さな生き物を死なせるのはかわいそうなので、取り敢えず、
「ヒール!」
治癒魔法をかけたところ、傷は塞がったが、出血が激しいのと毒の影響で未だ危険な状態だ。毒消しの魔法は知らないので、解毒薬を飲ませようとしたが飲みたがらない。解毒薬を人差し指につけて、無理矢理口の中に入れる。
『ゲホン!ブホン!ヒャイン!』
嫌がっているが、構わず何度も口の中に突っ込む。生えかけの牙で指は傷だらけだが、構わず続けていると、血の味が気に入ったのかペロペロと舐め始めた。ついでに解毒薬も舐めさえると、如何にもイヤイヤをしながら舐め続けた。もう大丈夫そうだ。あ、これってペットをゲットかな。ルッツさんを見ると、首を横に振っている。でも、このまま置き去りにすると、このワンコ、死ぬよ?それでもいいの?
可愛いモード全開でルッツさんを見ていると、あきらめたような顔で
「いいですか。こいつは魔物、人を喰って生きていく奴です。大きくなって少しでも人を襲ったら、その時は、フレデリック様が殺すんですよ。」
怖いことを言うが、そのとおりだと思う。生き物を飼うということは、その生き物のすべてに責任を負うということだ。しかし、そんなことよりも、この小っちゃくてかわいらしいムクムク、なんて名前にしようかな。
このワンコ、あまりにも汚いし、毒液が付いたまま抱っこなんかできないから、クリーンをかけてあげる。でも、固まった血なんかはきれいに落ちない。よし、早く帰ってお風呂に入ろう。おっと、その前にスザンヌさんに、このワンコを見せないと。
待っているスザンヌさんにワンコを見せると、
「ヒッ!何ですか、その赤黒いのは?」
「ファングウルフの赤ちゃん、これ、私のペットにするの。」
「ファングウルフ?魔物じゃあないですか。そんなの無理に決まってます。」
「なんで?この前、冒険者ギルドで従魔にしているのを見たよ。私も従魔にするんだ。」
「ふう、わかりました。旦那様に聞いて良いと言ったら飼いましょうね。」
公爵邸に戻ってから、父上と母上に聞く前にアリスちゃんに見つかってしまった。
「お兄たま、それは何ですの。その黒い毛むくじゃら、もしかして私に?ワンコでしょ、それワンコでしょ?抱かせて、抱かせて!」
もう、全く人の言うことを聞かなかった。それでも、まだ汚いからと抱かせるのはお預けで、とりあえず、そのままお風呂場に行って洗ってあげたら、何と黒いファングウルフと思っていたのが、灰色のファングウルフだった。新種か雑種か分からないが、まあ、魔物の世界だから何でもありだろう。ただ、ファングウルフは顎から上に伸びている大きな犬歯が特徴なのに、この犬の犬歯は普通の犬みたいに上から下へ伸びているのだ。これじゃあ、普通の犬と変わりはないと思うけど、魔力を有していることから、間違いなくファングウルフだろう。
洗い終わってから、アリスちゃんに預けて一緒に父上と母上のところに行ったら、飼うことについては即OKだった。ただ、品種は魔物だけに飼うのは私専属にし、アリスちゃんにはもっとかわいいワンコかニャンコを買ってあげると言われた。うん、アリスちゃんには甘々の両親だった。
ワンコと一緒に自室に戻り、名前を考える。灰色のワンコだから、『グレイ』なんてどうだろう。あ、気に入らないみたい。うーん。ファングウルフだから『ファング』や『ウルフ』でどう?あ、いやみたい。もう、面倒臭くなってきたので、しばらくは『ワンコ』にしよう。そう言ったら、ワンコが悲しそうな顔をしている。まあ、いい名前を考えてあげるから。
次の日、早朝の魔力鍛錬の際、ワンコは空中に浮かんでいる木刀にジャンプしてかかっていった。これは面白いので、浮いている木刀を上下左右に振って、ワンコにじゃれさせる。時々面や胴に軽く打ち込みをすると、ますます興奮してとびかかってきた。それを躱すのも繊細な魔力操作が必要で、いい魔力鍛錬になった。
ワンコの食事は、ミルクとひき肉、それと小麦や豆類の粉を練ったものだ。スザンヌさんがシェフに言って作って貰っているが、ワンコは好き嫌いがなく何でも食べるようだ。でも、時々、私の指を吸いたがるのはなぜだろうか。何も出てこないんだけど。朝食後の駆け足は、途中で付いてこなくなるだろうと思っていたら、最後までしっかりついてきたのには吃驚した。まだ、乳歯が生えたばかりの仔犬なのに、随分と体力があるなあと思ったが、もともとワンコの平均体力を知らないのだから、このワンコが他よりも優れているかどうかなど分かる訳がない。
しかし名前はどうしよう。何か考えなければ。犬を飼ったことはなかったので、昔、テレビでかわいらしい犬がドラマになって話題になったことがあった。あの犬は確か『ミニチュアシュナウザー』だったと思う。名前は『〇モ』だったと思うが、まんまパクリはいやだしなあ。うーん、うーん。そうだ、シュナウザーだから『シュナ』ちゃんはどうだろう。
「お前の名前は『シュナ』としようかな。」
ブハン!
あ、喜んでいる。これで、懸案事項の一つは解決したな。
「じゃあ、これからお前は『シュナ』だ。」
シュナの体が白く光ってから、スウッと消えた。さすが、魔物だ。名前を付けることによって隷従の契約でも成立したんだろうか。まあ、お前には頼みがある、あまり大きくならないでくれ。部屋の中で邪魔だからね。シュナちゃん、バウバフン!と頷いている。どうも、泣き方が仔犬らしくない。あれだ、ポイズンベアの毒で声帯がおかしくなっているのだろう。まあ、生活に支障はないみたいだから放っておこう。
次は、シュナちゃんの家をどうしようか。昨日は、ベッドの下で寝てもらったが、夜泣きがひどかったので、最後はベッドに入れて一緒に寝たけれど、やはり室内といえども犬小屋は必要だろうな。それと首輪だ。シュナちゃんは自分のワンコだと主張するためにも何か鑑札みたいなものは必要だろう。スザンナさんに聞いたら、鑑札は分からないそうだ。それでルッツさんに聞いたら、冒険者ギルドで従魔登録をすることができるそうだ。というか、登録をしないとギルドの中や街の中に入れないそうだ。それじゃあ早速登録に行かなくっちゃ。
午後は、シュナちゃんを連れて冒険者ギルドに行くことにした。もちろんルッツさんも一緒だ。シュナちゃんは、未だ首輪と鑑札がないので、私が抱っこをしているが、いくら仔犬と言えども4歳児の私にとってはかなり大きく前が見にくいったらありゃしない。冒険者ギルドの中は閑散としていた。ジョアンナさんのところに行き、シュナちゃんの従魔登録をしようとしたら、魔物の種類を記載する欄があった。とりあえず『ファングウルフ』と書いたら、ジョアンナさんが繁々とシュナちゃんを見つめている。シュナちゃん、この人に尻尾を振っても何もくれないよ。
ジョアンナさんが、一旦カウンターから離れてレストランに向かい、男の人と一緒に戻ってきた。あ、この男の人、この前パーティ対抗戦をやった時のテイマーの人だ。後ろに従魔のファングウルフを連れている。
「テモさん、この犬みたいなの、ファングウルフっていうんだけど、どう?この子の言うとおりかしら。」
「あれ、この前の。どうも、俺はテモって言います。もう、何も文句は言いませんので。」
いや、そこではなくて、シュナちゃんの魔物の種類を教えてください。テモさん、じっとシュナちゃんを見ている。口の中を見たり、尻尾を見たり。その間、從魔のファングウルフは尻尾を丸め、伏せの姿勢をとっている。
「犬だね。これ、絶対ファングウルフではないよ。うん、犬ですね。牙も普通だし、尻尾も普通だし、肉球も普通だから、間違いなく犬だね。」
はあ、シュナちゃん。お前は単なる犬だって。でも、かわいいからいいや。ところで、犬は従魔ではないから、登録はいらないよね。ジョアンナさんにそう聞いたら、従魔登録ではないが『使役動物』で登録しておくと、なにかと便利らしいのだ。行政府への登録や通行するときの通行審査が簡単とか、鑑札を首輪につけるので、いなくなってもすぐに分かるらしいのだ。それなら、ぜひ登録をお願いします。登録料は銀貨4枚、4000ジェルだった。高くはないが、安くもないかな。
首輪は、ギルドでは扱っていないので、ペットショップに行って飼うことにした。ペットショップは、ギルドの近くにあったのだが、中に入って驚いた。ペットと言っても、犬猫は勿論のこと、スライムや角ウサギまでいる。また、ニードルラットという、ハリネズミみたいな鼠を売っていたが、この鼠は攻撃的で、興奮すると背中のニードルを飛ばしてくるらしい。これ、絶対にペットにふさわしくないから。
ショップで首輪と連れて歩く紐を買ったが、首輪はカラー、紐はリードと言うのがおしゃれらしい。あと、病気にならないように予防注射があるらしいが、怪しいのでやめておいた。あ、シュナちゃん用のベッドとケージを買った。持って歩くのは大変なので、侯爵邸まで運んでもらうことにしたが、私が侯爵家の3男だとバレると、店長以下店員全員が出てきて、整列して挨拶してくれた。その後、『以後、トリミングや用品購入をよろしく。』とお願いされてしまった。
ワンコは、しばらくの間はワンコとして扱います。幾ら魔物でも急に大きくなったり、言葉を話したりはしません。今のところは!
次話は明日の朝6:00に投稿する予定です。
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