15 公爵領は困っているようです
今回は、フレデリック君が初めて対人戦を経験します。まあ、本人の自覚がないままに殲滅でした。
メルボルン公爵閣下との面接は、うまく行ったのか行かなかったのかわからないままに、公爵領の領都に向かうことにした。私たちの馬車は、我が家で準備したものであるが、警護の騎士は公爵家で準備した30騎の騎士隊だ。あと、従者やメイド達と補給の馬車もあり、かなりの集団の移動となるようだ。王都の北門を出ると、もうメルボルン公爵領だが、領都であるメルボルン市までは、2つの村と1つの町がある。今日の夜は、その町に泊まることになっている。町の名前は南メルボルン町とそのまんまの名前になっており、創意も工夫もない名前だ。
今晩泊まる宿舎は、町一番の大きなホテルで、ホテル内の離れがVIPルームになっている。私は、母上と一緒の部屋で、ベス嬢は、隣の部屋を指定したが、ベス嬢が一緒の部屋がいいと我儘を言い始め、当然、母上はすぐに許諾してしまった。大きな部屋だが、ベッドは二つしかなく、私がソファに寝ようとしたら、母上と同じベッドに寝ることになった。それを見ていたベス嬢がグスグスと『べそ』をかき始めたのだ。聞けば、病弱の母に気を使い、物ごごろ付いたころから、ずっと一人で寝ていたらしい。まだ2歳ちょっとのベス嬢にとってはとてもつらいことだったと思う。それを聞いた母上が、
「それじゃあ、ベスちゃんも一緒に寝ましょう。フレちゃん、ベスちゃんに手を出したら駄目よ。」
母上様、4歳児に何を言っちゃってくれてるんですか。母上が真ん中で、ベス嬢と私が左右に分かれて寝ることになった。うん、ぐっすり眠ることができた。
翌朝、いつもの通り、朝5時半に目を覚ますと、そっとベッドから降りて、ホテルの中庭に出ていく。いつもは魔法の練習をするのだが、今日は木刀も模擬剣も持ってきていない。と言って、攻撃魔法や生活魔法を使うわけには行かないと思い、どうしようかと思っていると、ちょうどよい大きさのガーゴイルの置物があった。青銅製で、どう見ても300キロ位ありそうだ。手で押してみてもビクともしなかった。よし、今日は、この置物を動かす訓練をしよう。その前に、とりあえず鑑定をしてみる。
青銅製の置物:ガーゴイルの像
重さ:386キログラム
食べられない
何か、余計な情報もあったが、まあ、良しとしよう。そのまま、魔力をガーゴイルに纏わせて、少しだけ持ち上げる。魔力消費としては、1ミリ浮かすも100m浮かすも同じ消費量だ。エネルギー保存の法則から言うと矛盾しているようだが、魔法の仕様だからしょうがない。あ、今のは洒落じゃないからね。
浮かしたガーゴイル像をゆっくりと前進させる。うん、これはそれなりに魔力を使うようだ。おそらく浮かせるという魔力操作と横に移動するという魔力操作では、魔力の性質が違うのだろう。30分位、そうやって魔力操作の鍛錬をしていると、突然、後ろから声がかけられた。
「ちゅごい、フィレ君、ちょれ、どうやってるの?」
え、ベス嬢?なんで?魔力操作の訓練をしているときは、魔力探知、気配探知を同時に発動しているので、誰かが近づくとすぐに分かるはずなのに、ベス嬢が後ろに近づくまで全く気が付かないなんてあり得ない。そのままでは危ないので、ガーゴイル像をゆっくり元の位置まで戻してから、ベス嬢の方を振り向いた。
「見たなー!」
とは言わず、平常心を保ちながら、
「これは魔力操作の練習だけど、こんな事をしているって皆には内緒だよ。」
「ちょれってフィレ君との二人だけの秘密?」
「うん、二人だけの秘密。」
「分かった。ウフフフフ!」
ベス嬢、笑いが止まらないようだ。どうしよう。闇魔法に記憶を消す魔術があったけど、今までのすべての記憶が消えてしまったら、ほぼ廃人だし。まあ、しょうがないか。いつかバレてしまうんだから。
朝食まではまだ時間があるので、二人で付近を散歩することにした。付近といっても旅館の中庭の中だけど。でも、裏の方に回ったら、生け垣が切れているところがあり、私たち位の子供なら自由に通り抜けられそう。あ、ベス嬢が先に、その隙間から出て行ってしまった。慌てて後から追いかけていくと、先の四つ角を曲がったところで、ベス嬢が立ち尽くしている。うん、どうしたのかな。あ、不審者だ。この世界では不審者なんて言葉はないかも知れないが、いかにも真っ当な商人でも農民でもなさそうな男が3人、ベス嬢を取り囲んでいる。3人は、ニヤニヤいやらしい笑いを浮かべながらベス嬢を見ていたが、私が近づいて行くのに気が付いたようで、すぐに2人が私の方に向かってきた。
「へへへ、お姫様だけでも大金なのに、こんなかわいいガキなら、かなり高く売れるぞ。」
なんと、人攫いのようだ。こんな町の真ん中、しかも公爵家が泊まっている旅館の近くで人攫いなんて、この町の治安はどうなっているのだろうか。
「あなた達、このお姫様はメルボルン公爵閣下のお孫さんだよ。手を出せば死ぬよ。」
貴族に対する犯罪は、最低でも本人の死罪、罪種によっては、一族郎党が死罪になることもある重罪だ。しかし、こいつらは全く気にしていないようだ。
「それがどうした。捕まらなきゃ関係ねえだろう。」
「フーン、捕まらなきゃ、何をしてもいいの?」
そういいながら、密かに魔力を練っている。ベス嬢がいるので広範囲魔法は打てない。ここは、まず相手の戦闘能力を奪おう。
「じゃあ、こんなことをしても大丈夫だよね。」
ベス嬢は、男たちの方を向いていて、私には背中を向けているし、男たちは全員私の方を見ている。
「ライト」 ボシュッ!
手を上にあげて特大圧縮ライトを放つ。はっきり言って、この光を見たら網膜が焼き付いて目がつぶれるの間違いなしの明るさの光球だ。
「うぎゃー、目が、目が。」
3人とも目がつぶれたようだ。あとは魔力を纏って、男たちの膝頭をけり砕いていく。転がった男たちのみぞおちの上に、ヤクザキックをお見舞いして終了だ。ベス嬢は、最初、ポカンとしていたが、そのうち目から大粒の涙を流し始める。
「ベス嬢、大丈夫。もう悪い男はいないよ。」
ベス嬢の肩を抱いて宥めている間に、騎士さん達が駆けつけてくれた。今回の護衛隊長さんに事情を説明して、宿の中に戻った。無事戻れたのに、母上に目が飛び出る位叱られてしまった。解せぬ。
後ほど、町の代官と守備隊長が来て、中庭に土下座をしながら事の顛末を報告していた。あの連中は、ここから少し離れた山の中に巣喰う野盗で、主に街道で商隊を狙ったり若い女性の旅人を襲ったりしているらしい。山の中にいくつかアジトがあるらしく、守備隊が急襲してもいつも逃げられてしまうらしいのだ。今回は、私たち一行が宿泊することを知り、若いメイドでも攫おうかと街の中まで入ってきたらしい。まあ、今回は私がいたから良かったけどベス嬢一人だったらどうなったか分からなかったよね。
最後に守備隊長が私の方を見て、
「あのう、お坊ちゃまが、あの3人を捕まえたのでしょうか。」
「はい、あの3人、どうなりました?」
「えーと、1人は、内臓破裂がひどくて拘束後死んでしまいました。残りの2人も、完全に目がつぶれてしまっているし、内臓の損傷もひどいので、長いことはないと思います。まあ、明日の朝、縛り首にする予定ですから、死んでも構わないんですけどね。」
あ、完全にやりすぎたかな。でも、中途半端に制圧して、ベス嬢に危険が及ぶ位なら、どっちみち死刑になる奴らだ。殺したって構わないよね。だって、それを聞いていた母上とベス嬢もニコニコしているし。でも、日本だったら過剰防衛になるのだろうか。あ、そうか。日本だと14歳未満の者は、何をやっても罪に問われないんだっけ。
それにしても、この辺は治安が悪いと思う。王都と領都を結ぶメイン街道に野盗の類が出没するなんて。奴らが巧妙なのか、こちら側が手薄過ぎるのか、私は両方が原因とみているが、すぐには解決できないだろうな。ま、4歳になったばっかりの私には関係のない話だけどね。
それから領都であるメルボルン市までは順調に進んだが、警護の騎士さん達は物凄く敏感になっていたみたい。これ以上何かあったら責任問題だもんね。まあ、ホンワカしている母上なら、何も気にしないだろうけど。
今朝の事件の通報と、先ぶれのせいか、領都の南門前には200名近くの騎士団と治安維持隊が整列して私達一行を迎えてくれた。何かパレードをしているみたいな感じだ。メルボルン公爵の領主館は、塀とお濠に囲まれたまさしくメルボルン城という感じの居城だった。外周は大理石の城壁が3階くらいの高さまであり、その中に6階位の物見塔が4本、四方に建っている。お城の中に入ると、伝統と格式のある調度品が品よく置かれており、通された客間は、美術館の一室のような感じだ。対抗するつもりはないが、我が侯爵邸よりもワンランク上の調度品、美術品と言った感じだ。
母上は家令やメイド長への挨拶も早々にベス嬢の母君クリスティーナ様の部屋に向かう。聞くところによると、貴族女学院の同期だったらしい。私は、一度に会いに行くと、クリスティーナ様の負担になるかもしれないと思い、後ほど機会を見て面会するつもりだ。ベス嬢は、一旦自分の部屋に戻り着替えて来るらしい。私ものんびりしたいが、今日の夕方にはベス嬢の父君との対面があるので気が休まることはない。
フレデリックに元日本人特有の殺人に対する忌避感はありません。生まれた時からそんな世界で育ったからです。
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