乙女
「あんたってさ、意外と乙女だよね」
隣の席の丸山くんが、私を指差しながら言った。
おいごら、人に指差すんじゃねーと教わんなかったのか? なんてね、ウソウソ☆ あたしはそんなことを言わない乙女なのだ!
「丸山くん、意外とってどういうこと? あたし、ショックだなー」
ぶりぶり、女の子らしく可愛くしてやってるのに意外とってどういうことだよ、あんた。何、あたしの何を知ったつもりよ?
「だってそれ、完璧素じゃないじゃん」
「はぁ? 何よ、たわけ」
「ほら、それ」
しまったにゃん☆
いっけなーい。あたしはキラキラ粒子が舞うような可愛い女の子だったー! たわけってなぁに? お魚さんのお名前?
あー、自分でも甘過ぎて吐き気。
「でも凄いよなー、好きでもない奴にまでそれやんの、しんどいだろ?」
「しんどいって? あたしは生まれた時からこの性格だよぉ? だから元気にゃん」
「ははっ」
「おいごら、引きぎみに笑うなや」
「それが素か。元ヤンっつーか、南の帝王かぶれっつーか」
も、元ヤンってどういう言葉!? あたし、頭悪いからそんな言葉わからなーい。
って、もう猫被んのしんどいな。っつーか、何でこいつ私の猫かぶりしってんのよ。あと、それでいて乙女ってどういうことよ。
「見てりゃ分かるわ」
と、疑い深い視線を感じたのか丸山くんは答えた。
「やだぁ。恥ずかしいー」
「思ってないくせに」
「何でそんなこと言うのぉ? 虐めないで~」
ぶりぶりしてやってんだから、簡単に騙されろやな。大体お前のために被ってるんじゃないことが分かってんなら、構うなや。
なーんてね、あたしはそんな汚い言葉は使いません☆
「あんた、本当に乙女だね」
「もうっ。そんなこと見て分かるでしょー」
「ああ、見てりゃ分かる。あんた、俺と話す時もずっと石川をチラチラ見ては、石川から最高に可愛く見えるポイントを探しているしょ?」
「それ、乙女って言わないでしょ」
「好きな男のために可愛くなろうとしたり、写ろうとするのは乙女だろ」
「……きも」
「褒めるな」
ははっと、頭をかく丸山くんを睨んでから思い出した。石川くんと丸山くんが仲の良いことを。
……丸山くんと仲良くなって、自然と石川くんに近づいていくのはどうだろうか。いや、でもそれは乙女道に反するし……あー!! 考えるのめんどい!
「とりあえず、あたし難しいことわかんなぁい」
「とりあえずってどういうことさ。あと、それは乙女じゃなくてただのバカ女。あんた、バカ女じゃないでしょ?」
「当たり前よ。この私を嘗めないでくれる?」
「ちょいちょい素が出てるとこも、バカ女になれきれてない感じがして面白い」
「丸山くんは評論家かなんかなの?」
「だとしたら、あんただけのね」
「きも」
「ボキャブラリー少ないね。二回目だよ、それ」
イラっときて、無視をすればつんつんと丸山くんが横腹を突っついてきた。
おい、お前。お前が超絶不細工だったら速攻警察呼ぶレベルの犯罪だからな? 分かっているのか?
なんてね。うそぴょん。
「おーい。無視すんなら、言っちゃうぞ。石川に」
さすがに、危ない脅迫には返事しなくてはならなかった。たっく……今が昼休みの五月蝿い教室の中じゃなかったら無視してたかんな。
「さいっ……ていだね。丸山くん」
「初めてだ。そんなスマイルで罵られたことは一度だってない。笑顔で誘われることは何度もあるけど」
「だろうな。あんた美形の部類に入らなくもないし」
「褒めてるのか、貶されてるのか分からないんだけど。……ほら、ヤクザが顔だしてるよ。しまいな」
「そうだよねぇ~」
「変化すげぇ」
くっくっく、と肩を揺らしながら笑う丸山くんを見てふと不思議な気持ちになった。
今までであたしの素を知っても笑ってくれる人はいただろうか。いや、いなかった。全てを受けとめてくれてる、そんな錯覚をして、一瞬頬に熱が溜まった。
あー、危ねぇ。照れてるとか勘違いされたら、死にたくなる。あたしゃそんな乙女じゃねーんだよ。
……うそうそっ! 乙女だよっ☆
「あたしに面白いって言ったけど、正直あんたの方が面白いよ」
「なに? デレ期?」
「ちげーよ。ばーか」
小競り合いをしながらも、石川くんを想う時とはまた違う暖かい感情を見つけた。やっば、あたしアカンしょそんな感情は。
そんな、乙女の皮を被って生きるあたしの日常。




