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日常  作者: 太郎
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煩悶

前のお話と繋がります。

 

「ね、佐藤くん。ここの問題分かる?」


 プリントを見せながら小声で言うのは、僕の友人である山田の恋する少女、伊藤さんだ。

 先月から平等たるくじ引きの結果、隣の席になった為授業中でも伊藤さんから頼まれることが多くなった。当然、山田が羨望の眼差しで僕の元へ来ることも多くなった。

 伊藤さんはどうやら数学が苦手らしく、今も数学の文章問題で引っ掛かっていた。


「ここは……これを代入して。移行して、こうして、こうすれば……」

「ふんふん。ほおほお。ほおー」


 大袈裟に頭を振って相槌をする伊藤さん。きっと授業中だということを忘れているだろう。幸い、一番後ろの席だから他の奴等に邪魔だと思われことはない。

 まあ、邪魔だと思われても僕が気にする必要はないのだが。


「やっぱり、佐藤くんは教えるのが上手だねー」

「そうか?」

「うん、そう」


 ニコニコ笑顔で僕を見ながら笑う伊藤さんを見ると何故か胸が熱くなった。

 な、ぜ、だ。何故熱くなる。外気は熱くないだろうが。こんな簡単な生理現象の理由も解明できない僕は馬鹿だ。

 不規則にリズムを刻む自身の心臓の真上に手を当てながら、伊藤さんのことについて悶々と考えていたら気がついた時には授業が終了していた。




「佐藤がノートを取り忘れるなんて、珍しいこともあるもんだな」

「お前のせいだろうが」


 授業終了後、板書を写していない綺麗なノートに気がついた時には黒板が消されてしまっていたのだ。僕としては初めての経験で戸惑いながら仕方なしに山田に頼んでノートを写している。

 山田のノートを写すなどこれまた、屈辱的なことはない。

 しかしまあ、山田の相談で伊藤さんに興味を持つようになって、それで僕が動揺してこんなことになっているのだから、ノートを見せるくらいの協力はするべきだ。


「俺のせいでノート取れなくなるとか、佐藤。俺に恋しているのか?」

「は?」

「や、でも俺には相手がいるから遠慮するよ」

 いなければ良いのか?まあ、僕は同性に好意を寄せる人種ではないのでそこは深く触らない。

「ふうん。阿呆な奴だな」

「で、そんな阿呆な俺に今日も恋のエキスパートとから助言をくださいよ」

 と、手をモミモミしながら厭らしく言う山田。そのまま伊藤さんにこの姿を見られて幻滅されてしまえば良いと何度思っただろうか。

「だから、僕はエキスパートじゃないっつーの」

「でも、お前の助言のお陰で名前も呼ばれるようになったんだぞー」


 むしろ、名前を呼ばれる以前の段階から伊藤さんに恋していた山田が凄い。確かに、伊藤さんは可愛らしい容姿だけども……僕には考えられないな。

 伊藤さんに恋なんて、ましてや勉学以外の物事に興味を向けるなんてことは。


「じゃあ、一つだけだ。伊藤さんは犬を飼っている。しかも、マルチーズ。お前の飼っている犬もマルチーズ……ここまで言えば分かるだろ?」

 ここまで来ると助言と言うか、伊藤さんについての情報を与えているだけと言うか……まあ、山田は喜んでいる様だし気にしないでおこう。

「ま!まじか!!ありがとうな、佐藤!恩にきるぜ!」

「いつになったらこの恩を返して貰えるんだかな」


 うっすら僕がと、睨むとデヘヘと汚く山田は笑った。山田もそこそこ悪くはない顔造りしているんだから、そう汚い仕草を控えれば良いと思うが、あえて山田には告げない。

 万が一のことがあって山田と伊藤さんが付き合ってしまった日には面倒なことになるに違いないからだ。

 それともう一つの理由が、伊藤さんの隣を歩く男が僕じゃないということを考えるだけで苦しくなるのだ。それは山田に限った話ではなく、他の奴でも嫌だ。

 嫌だ、なんて考えるのはいつぶりだろうか。自分でも自分が子供らしく思えて嫌悪を抱く。

 まったく、こんなにも解明できない謎にぶち当たったのは初めてのことだよ。

 伊藤さんの言動一つ一つに心が暖かくなったり、それでいて急激に切なくもなるなんて理解不能な話はない。


「あー、あー。そりゃ佐藤に彼女出来た時位にどんと返すよ」

 目が泳いでいる。なんとも分かりやすい嘘を。

「なら、お前はずっと恩を返さないということか」

「いやいや。お前なら彼女出来るって。俺に彼女が出来たら、さ」

「なら、お前が彼女が出来ないから僕も出来ないな」

「それってどういうこと!??」

「ははっ」


 山田とふざけて笑いあっているこんな時にすら、伊藤さんが脳裏にちらつく。僕を見てはいないか、僕のことを変な奴だとは思ってないかと不安になる。

 まったく、この気持ちに効く薬を発明してくれれば、僕は一発で楽になれるのだが問い合わせたところ、薬学会にも置いてないそうだ。

 直接聞き込みに言ったのだが受付の男性は僕の必死な形相とは真逆に、笑いを噛み殺していた。

 まるで、何も知らない僕のことを嘲笑うかのようだったが、僕はそんな小さいことに構っていられる程余裕がある人間ではないのだ。

 常に伊藤さんが頭を占領しているからな。



 そんな、伊藤さんのことを考えて煩悶する僕の日常。



お前ら好き同士なんだろ!??付き合えよ!みたいな内容だと思ってます。

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