悪夢
「ああ、またか」
僕はきまって毎週金曜日の夜は悪夢を見る。それも毎度似たような傾向の悪夢を。
だというのにも、目が覚めた土曜日の朝は下着がぐっしょりと濡れる程の汗をかく位僕は恐怖で怯えるのだ。
何故僕は悪夢を見るのだろうか。何故僕は魘されるのだろうか。という疑問は悪夢を見始めた三年前から考えても、答えが出てきていない。
普段は夢を見る程の眠りをつかない僕にとっては、夢を見ること自体変なことなのだから、原因は掴めないのだ。
家庭環境が悪いんじゃないか。と、僕の悪夢を知る友人に言われたが僕の家庭は至って普通である。
鬱な父は早くに他界し、アル中の母と一つ下の妹とアスの弟の四人家族の長男として育ってきた。少しもおかしいと思ったことはない。
僕が異常なのか。と、自分で考えてみた。
しかし、程々の成績。付かず離れずの関係性の友人達を持つ僕はギャルゲーにも出てくるレベルの<平凡な男子>だ。
ただ違うのは異常に優れたセンスで的確なアドバイスをくれる友人Aがいないということだけだが、今は関係ない。
そう、そう。僕の夢の話だよ。
僕の夢は大まかに三パターンある。
一つは殺される夢。まあ、大抵がこれなんだけど殺され方はバリエーション豊富である。求めてもないのにね。
ナイフでグサグサに刺されたり。ピエロに首を絞められたり。爪を一枚一枚剥がされて、究極の痛みを味わいながら殺されたり。硫酸の海に放り込まれたり。大好きな干し芋に致死量を超えた毒が入っていてそのまま……なんて、自分自身の頭の中をひっくり返して見たくなる程残虐なことを繰り返している。
これが自分じゃなかったり、現実で起こしたりしたら犯罪もんだよ。もう。
あ、これ大事なことだけど。僕は現実世界で人を殺したいなんて思ったことないから。一ミリも。
それに、過去に人を殺したりしたことはないから。一応、ね?
二つ目は追われる夢。
これは殺される過程にもよく見られるし、ただただ延々と追われるだけという時もある。
僕を追うのは場所によって決まっていない。学校が舞台でも追いかけてくるのはジェイ●ンとか、おい待てと言いたくなる時もあれば、顔を右半分を無くした元担任が口からうじ虫を吐きながら追いかけてきたりその時様々だ。
ほとんどがグロくて暗いイメージの奴ばっか。血ヘドを吐いてる奴や、内蔵コンニチワ野郎やらで僕の創造力が偏り過ぎていることを知った。
追われている時は怖くて、心臓が痛くて。早く起きたくて仕方がないのに何故かピクリとも身体が動かなくて、そこの舞台でナニカから逃げる。
しかもまた、ナニカは視聴者を意識してるのかっつー程ギリギリの間合いを取る。ぴったりと、それでいて指先が触れない絶妙の距離だからどんなに走っても逃げられないのだ。
それが分かっているのに、僕はナニカから必死に逃げて終わりの見えない鬼ごっこ……まさに<リアル鬼ごっこ>を繰り広げる。
目が覚めてから、同タイトルの小説同様の名字の僕は捕まったら殺されるかな、なんて冷静に考えてみたこともある。
追われてる時はそんな暇も余裕もない。
捕まったら、終わり。じゃあないのが嫌なところだ。
三つ目は分からない。
記憶にないのだ。
今までが不自然に覚えすぎていた。普通夢の記憶というものは断片的あるいは、全くないと聞いている。だから、当然のことだ。
しかし、僕自身の傾向を見ていくと分からない理由が他にあるとみてならない。
よっぽど怖い記憶なのか。思い出したくない記憶なのか。思い出させない様、第三の力が働いているのか……なんて厨2くさいな。
この夢は頻度は少ないのだが、どの悪夢と比べても圧倒的に恐怖が強い。怖い怖いという言葉じゃ表せない絶対的恐怖が全身を支配して、必死に動かしている筈の足が空を蹴るかの様に意味をなさずして、喉は砂漠の様な乾きで声は出ない。
翌朝には、ただ、怖い。いや、怖かった。という記憶と、寝ている間に顔を引っ掻いたのだろうか。爪の間に肉片と頬の傷が残っている。
その為、毎週僕は爪切りを欠かさないのだが爪切りを忘れた週に限って第三の悪夢になるのだから、何かしらの縁を感じてしまう。
いらないけどね。必要ないけどね。
ギシッと古いベッドのスプリングが寝起きの僕には騒音とかす。それよりも五月蝿いのはギシギシ軋む肩の筋肉だ。
ああ、緊張してやがる。今日は第三の悪夢を見たから酷く疲れているや。風呂でも入って休めようか。
と、立ち上がると膝から壊れたかの様に崩れ落ちた。
「あ、は。は……?」
両膝が震えている。ガクガクとブルブルと。変だ。今まではここまで怯えていることはなかったのに。
一体今日は何を見たのだ。どうせ僕の頭が作り出した妄想なんだ。そんなに怯える必要はないだろ。なあ。
ぱん、と小さく自身の足を叩いた。
そんな僕の悪夢と戦う日常。




