軟禁
「次は軟禁をしよう!」
純粋無垢な笑顔で僕に告げたのは、僕の彼女である彼女だとかなんか意味分からねぇ……じゃなくて。
「何で、また急に?」
「私は突発的に動かないと死んでしまうのだ!」
初めて聞いたよ、その情報。付き合って数年経つけどねえ。まあ、でも彼女の突発的な行動は多々見てきたから頷ける。
こないだだって、『監禁●遊戯みたいな遊戯をしたい』と言い出して手錠をかけられた。その後はわちゃわちゃあって、まあ、とにかくだ。
もう二度とあんなバカップルじみたことはしたくないのだ。
「軟禁するにしてもどちらがされるの?」
「おっ。意外にも君は乗り気ですなぁ」
「違うよ。偶々だ」
「いやん。卑猥」
「仮にも女の子だろうが。何でもそちらに結びつけるのはよそうよ」
「軟禁されるのは君で決まりー」
彼女は寝そべりながら僕の横腹を突っついた。ちょ、いたい。小柄な見た目して意外と握力30越えてる君がつねったら僕の肉も削げ落ちるんだよ。と、言ってやりたい。
じゃ、なくて。今彼女何て言った?
「ちょ、分からない」
「日本語理解できないの?えっと、じゃあ。ユーあー軟禁サレル。オーケー?」
「オーケーじゃないのは貴女の頭です」
彼女は程々どころか学校でも五番指に入る程の頭の良さを持っているというのに、結構阿呆なことばかり言う。
だって今の英語混じりの言葉を訳すると<貴方は軟禁されるです>だよ?冗談で言っているのか、本気で言っているのか。
……きっと彼女なら本気だろう。
「むむう。女子を馬鹿にするなんて泣いちゃうぞう」
「☆マークをキラキラ飛ばされてもちっともキュンともこないから。大丈夫だよ」
いや、本当はかなり可愛いなと思ったがそれを彼女に言ったら調子に乗るから、お口ミッフィーで。
「そもそもさ。ここは、僕の部屋だよ?」
「だから、どういうこと?」
キョトン顔の彼女がトドよろしくごろんごろん転がった。いや、彼女は華奢で小柄だからアザラシか。
「僕の部屋で僕が軟禁されるってなんか、おかしくない?」
「むむう。それは一理あるのう」
「だからさ」
軟禁は出来ないね。と、言おうとする前に彼女は僕の言葉に被せてきやがった。
「なら、君が私を軟禁すれば良いのである!」
おいおい、と思わず調子の抜けた返事を返す。
「軟禁するってさ。そう簡単じゃないし、そもそも貴女は軟禁の意味を理解して言ってるの?」
勿論、彼女は頷いた。そのままゴシゴシ布団に顔を擦り付けているのを横目で見ながら、僕の布団に染み付いたであろう彼女の匂いをオカズに今晩は楽しもうかとかボンヤリ考えた。
「軟禁の場合は通常、牢には収容せず、家宅の中での行動の自由は許される。ただし外部との通信は許されないことも多い。……だってさあ」
「ウィキさんを活用したね」
「ほら、牢に入れないで良いんだよ。ちょっと出られなくするだけで良いんだよ」
「何でそんなに軟禁されたがってるのさ」
「むむう。だって来月は試験があるじゃないかあ。私は面倒なのが嫌なのだあ」
「貴女は頭良いでしょうが」
ぺい、とおでこを突っつくと彼女は呻いた。なんだよ、可愛いな。この小動物は天然記念物として崇めるべきだ。
彼女の頭の心配よりも寧ろ僕の頭を心配した方が良いだろう。試験で失敗したら、貴女と同じ学年になれないんだよ。と、彼女に言ったとしても通じないだろう。
「わかりまてーん」
「僕には分かるから」
「とりあえず、ね?軟禁して?じゃなきゃ私が君のこと監禁しちゃうから」
珍しく僕の目を見て、妖艶な色気を放ちながら言う彼女。しかし、まあ。小動物に色気を放たれたからって僕には通じない訳で。
「はいはい。おこちゃまは僕のベッドで寝ましょうねー」
「うがあ!私はおこちゃまじゃないっつーの。嫌がらせに私の匂いを擦り付けてやるぅ!」
言いながら僕のベッドでバタバタする彼女。いや、寧ろありがとう。後で堪能するよ。まあ、当然のことだけどこんなこと彼女に言わない。言えない。
「もう、ねえ」
こんな日曜の真っ昼間から彼氏の部屋で彼女がゴロゴロしてるとか、もろバカップルじゃねーか。
いや、バカップルじゃないけど。
そんなバカップルじみた彼女と僕の日常。
(断じてバカップルと認めないが)




