↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常  作者: 太郎
PR
27/59

兄貴

この作品は男性同士の愛情、絡みなどが入ります。つまり、薔薇です。ホモです。びーえるです。

ダメな方、嫌悪を抱く方はここまででブラウザを終了お願いします。


 

「兄貴」


 僕よりも低い声。同じ腹から生まれたとは思えない程、背の高い弟が階段の上から僕を呼んだ。けれど、僕はそれを無視する。

 すると、再び……いや、今度はすがる様に兄貴と呼んだ。


「なに」

「いや、その……怒ってる?」

 弟が申し訳なさそうに頭を掻いて僕に聞いた。この距離だから正確には見えないが、きっと泣きそうになっているだろう。

 僕よりも恵まれた体格をしているのに。

「なんで」

 その後の言葉を言わせない。そんな圧力を込めて答えたはずだったのに、弟はまだ何かを言おうと口をモゴつかせる。

「じゃあ」

 僕は学校に行くから。それを言うのすら面倒になって、弟の次の言葉を聞かずに家を出た。どうだって良い。あんなやつの言葉。どうでも良い。



 僕の目の前で、男とヤっていた弟自体どうでも良いのだ。



 僕と一つ下の弟は、小学生までは双子と思われる程仲が良くとても似ていた。親も間違えていた、と言っても過言ではないくらい。

 けれど、中学に入って一変した。

 僕がゆっくり身長が伸びていくのに対し、弟はぐんと伸びて体格も良くなった。元々小さかった僕は弟の差が酷く目立った。

 僕は女顔で、弟はモデル並の身長だから影で兄と妹と呼ばれていたのを知っている。勿論、僕が妹の方だ。

 嫌だけど、これ自体はさほど弟を嫌いになる原因とはならなかった。

 弟は体格も良くスポーツも出来たからか、よく周りに女子が集まった。僕は良し悪しつけれる立場でないが、当然顔の整った良い女というものも弟を狙った。

 身内がモテるのは良いことだ。けれども、弟のお眼鏡に敵わなかった女が、僕に嫌がらせするのだけは苦労した。


『絶対、あんたよりもあたしの方が可愛いから!』

 そもそも、僕は自分のことを可愛いなんて思ったことはないし、男である以上は可愛いという言葉は不必要なんですけど。

『妹だからって調子に乗らないでよっ!?』

 僕は兄です。男です。調子にも乗りません。男ですから。


 どうやら、弟が告白される度に『兄貴より可愛くない人とは付き合わないから』と言っているのが原因で変な因縁を付けられたらしい。

 直接弟に聞いたことはないが、僕に嫌がらせをする女子は同じニュアンスの言葉を口にするのだ。

 断るのならもっと良い断り方があるだろう、と弟に聞いたら弟はまじめな顔で『本当のことを話せば理解してくれるだろ?』と訳の分からないことを言った。

 本当のこと? なにが。デタラメのくせして、よく言うな。

 この頃辺りから弟が変な奴だと思い始めてきた。そして、徐々に弟と僕との距離が異常に遠ざかっていった。


 忘れもしない去年の夏。僕は高校生、弟は中学生ということで顔を合わすことが減った。ただでさえ会話が減った僕らは顔をおはようと言うことすらなくなっていた。

 夏期講習から自宅に帰った時、玄関に見知らぬ靴が置いてあった。女物、ではないがサイズが小さい男物の靴が、大きな弟の靴の横にちょこんとあった。

 弟の部活の後輩だろうか。とにかく、僕がいるとバレたら厄介なことになるかもしれないと、慎重に居間に向かう。

 何をして遊んでいるのか。楽しそうな遊び声が少しも聞こえてこない。はあはあと、犬の息みたいな音が強まっていくのだけが、耳に届いた。

 まさか、ねえ。

 居間の扉が少し、開いていたのをちょっとした好奇心で覗いてしまった僕がアホだった。何で、と後悔しても遅く、僕は見てしまった。


 ソファの上にうつ伏せになる少年に自身を、入れる弟の姿を。


 彼らの姿は動物のようで。野性的で。汚くて。僕は恐怖に震えた。そして、その少年の顔が僕によく似ていて更に怖くなる。

 ドサリ、荷物を落とした音で彼らは僕のことに気がついた。少年は口からヨダレを足らしながら、弟は目を真ん丸にさせながら、僕を見ている。

 僕はその場から逃げ出した。走って、上って、勢いよく扉を閉めて、鍵をかけて、自分の部屋にこもった。

 ありえない、ありえない、ありえないと何度も呟くと、暫くして下の様子が五月蝿くなり、弟が僕の部屋の扉を叩いた。何か言っているのは分かる。けれど、混乱した頭は単語として読み取れなかった。


 その後の記憶はない。

 やけにさっぱりした気持ちで自室の扉の鍵を開けて、僕の部屋の前で座り込んだ弟を軽く一瞥した、ことだけは覚えている。

 それから、僕らの日常は始まった。

 僕は弟を無視して、弟は僕にすがって、僕は弟から逃げる。その繰り返し。



 そんな、凡庸で、非凡で、分からない僕らの日常。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。