束縛
またまた始まりました。
「アイちゃん、アイちゃん……」
彼は泣いた。私を見て、その端正な顔を悲しみに歪めながら清水とも取れる液体を頬に伝わせて。
何で泣いてるの? 何か辛いことがあったの?
彼は小さく首を振った。
「アイちゃんが離れちゃう様な気がして、寂しくなったんだ」
寂しがり屋の彼はまた、涙を落とす。ぽたぽたと、彼のYシャツに落ちてはそれがシミを作る。綺麗に、優しく。
彼が俯くと、耳まで伸びた彼の髪の毛がふわりと彼の顔を覆った。あたしよりも綺麗な彼の髪から香るなんとも言えない特有の体臭が、心臓を縮ませた。
いなくならないよ。あたし、ユーくんのこと好きだから。
甘い、言葉。まるで少女漫画のヒロインの台詞ようで身の毛がよだつ。言ったのは自分なのに、変だ。
「本当? 本当の本当?」
彼は笑った。目尻にまだ残る清らかな液体がキラキラ光って眩しい。
本当。大丈夫だよ、ユーくん。何があっても、どんな事態でも私はユーくんの側にいるから、ね?
安心しきった顔を一瞬見せたが、ふと怪訝の色を見せる。大丈夫と言ったあたしの言葉を信用出来ないみたい。もしくは、相当不安なのか。
何が彼をこんなにも寂しくさせてしまったんだろう。何が彼を幼馴染みであるあたしに依存させることになってしまったんだろう。
いつも、いつも沸き上がる疑問の答えは見つからず暫し頭上で遊んでから消えた。まるで、あたしを小馬鹿にするように。あたしから逃げるように。
「怖いんだ。分からないけど、胸の奥がいつも苦しい。でもその怖さはアイちゃんといる時だけは安らぐんだ」
だから、お願い。僕から離れないで。僕の側にいて。ずっと、ずっと、ずーっと僕と一緒に生きて。じゃないと僕、死んじゃうから。
小さく、速く漏らした言葉の数々を聞いて、胸がぎゅうっと苦しくなる。けれど、その痛みは苦しくなくむしろ喜びを与えてくれる。
どうやらあたしはユーくんに依存されることが嬉しいみたいで、悲しそうにあたしにすがるユーくんを見る度そそる。ぞくりと、背筋からゆっくりと快感が這い寄るこの感覚が心地よいのだ。
なんか、これって。変な関係。
でも良い。お互い気持ち良いから、良いんだ。ねえ、ユーくん?
当たり前でしょう。あたしはユーくんと死ぬまで一緒なんだから。
「んーん」
彼は首を振った。嫌だ、と目が訴えている。ああ、そういえば。
勿論、死んでも一緒だよ。例え地獄だとしても、この世から存在がなくなったとしてもあたしとユーくんは切り離せない。
そこでようやく彼は満足気に頷いた。先程とはまた別の意味で目尻に涙を溜めている。
なんとも、いとおしい。
そんな、共依存なあたしとユーくんの日常。




