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日常  作者: 太郎
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23/59

奇形

フィクション。四肢欠損描写あり。

 

「ねえ、何なのコレ」


 明らかに不自然過ぎる外傷がある僕の外靴を眺めながら聞くと、リビングから妹の声が聞こえた。


「お兄ちゃんがゆーちゃんをおいて外出しないようにするために、頑張ったのー」


 間伸びした妹の言葉に『外出させないと靴を壊すは関係ないでしょ』とか『頑張るところじゃないよね』とか色々言いたいことはあったのだが、いつもの事だから、慣れてしまった。

 最早、今日学校行かなくて済むんだ、と内心喜んでさえいた。

 取り合えずこのボロボロの靴を母さんが見たら発狂するだろうからビニール袋に入れて、ゴミ箱を開ける。

 ゴミ箱の中には既に先住している僕の物が沢山いる。それらの大部分は妹によって壊されたのだった。


『お兄ちゃんが興味を向けたから』

『何でそんな物が必要なの?』

『ゆーちゃんがいるからソレ、要らないよね?』

『だって、お兄ちゃんの視界に入るのはゆーちゃんだけで良いの』

 妹が僕の物を壊す理由。ずっと変わらないこの言葉の数々を聞いてきた僕は、もう完璧に覚えてしまっていたが、今回はまた新しい理由だな、と少し驚く。


「そう」


 ははっと、僕が乾いた笑い声を漏らすと妹はがしゃんと義足を鳴らしてリビングから顔を覗かせた。

「何でそんなに返事が素っ気ないの? ゆーちゃんが嫌いなの? ゆーちゃんのことなんてどうでも良いから返事も適当なの?」

 死人の様な真っ白の肌に覆われた、ギョロギョロと動く妹の大きな眼球が、僕を捉えた。ただ見られただけだというのに僕の心臓は縮みあがる。

「冗談でも有り得ないよ、僕がゆーちゃんを嫌いになるなんて。だから、そんな顔しないで、ね?」


 焦る心臓の動きがバレない様に頭を優しく撫でると、大きな瞳は嬉しそうに細められて安堵した。

 妹の手入れを諦められた髪の毛はボサボサに散っていて、ただ撫でるだけで指の間に絡まる。まあ、ベトベトじゃないだけまだましか。


「ん」


 薄い唇をきゅうっと伸ばして妹は笑った。もう、高校生になるという彼女の笑顔は同学年と比べるとあまりにも幼いがよく似合う。

 嬉しさのあまりか足をぱたぱたと鳴らす妹……だが、義足のせいでソファーと義足の擦れ合うぎちぎちという音が聞こえてくる。


「お兄ちゃん、あーそぼ」


 ふと、気がついた様に妹は急に顔をあげて僕を見上げた。突拍子もない行動に驚いている僕の姿は見えてない様で、笑顔で誘う。


「何して遊ぶの?」


 至って冷静に聞くと、義務教育をもうすぐ終える筈の人間とは思えない程無垢な表情で言った。


「おにごっこー!」


 いや、ムリでしょうが。と思いながら彼女の義足を見た。

 走る使用になっていないどころか、歩くので精一杯な程脆い義足が細い妹の足にぶら下がっている。妹は膝から下が生まれつきないから義足をつけているのだが、小学生の時に僕らを捨てた両親のせいで妹の義足は小学生仕様から変わっていない。そのお陰で大きくなった足と成長しない義足が擦れて、妹の足に血を滲ませる。

 そんな彼女が鬼ごっこ出来ますか? と主治医に聞いたら鼻で笑われそうだ。けれども、純粋な妹に真実を突きつけて悲しませても嫌だしなあ。

 ここは中学生とは思えない低すぎる妹の知力を利用して誤魔化すしかないな。


「ゆーちゃんは本当の鬼ごっこを知ってる? あのおいかけっこする遊びじゃない方の、ね」

「ええっ? おいかけっこが鬼ごっこじゃないのっ?」


 予想通り僕のでまかせに興味津々の妹。いやー、そこまで簡単に引っ掛かってくれると騙す冥利に尽きる、なんてね。


「鬼役の人が村人役の人を苛めて泣かす、こわーい遊びなんだよ」

 だから、そんな怖い遊びをゆーちゃんにさせたくないんだよ。と、言おうとしたら妹はむっと眉間にシワを寄せた。

「なんだ。鬼はお父ちゃとお母ちゃしかできないじゃん」


 名前を出すのさえ嫌がる様に、妹の顔は強張(こわば)った。

 世界で一番嫌いな奴等。そいつ等のことが、世界で一番愛している妹の口から出てきて、心臓がどきりと音をたてた。

 僕もアイツ等のことを鬼だ、と思ったことはあったが、義務教育9年間を家で過ごして成長していない妹がそんな認識を出来るなんて思ってもいなかった。

 村人(僕ら)を苛めて泣かせる酷い鬼(両親)。なるほど。確かに的をえた回答だな。僕が先生だったら百点満点で千点程つけたくなるだろう。


 ーー足のない知能が低い妹。

 ーー愛情表現が壊れたゆーちゃん。

 ーー四肢が全部で6本ある兄。

 ーー歪なゆーちゃんの愛情表現が好きな僕。


 ほら、あの有名な人だって『皆違って皆良い』って言ってるだろうが。だから、きっと僕らは存在して良いと認められているんだよ。

 僕らは身体的に見て分かる奇形を持っているから嫌われた。けれど、内面的に精神的に奇形である両親が疎まれないのが分からない。

 どちらも奇形で変ということは変わりないのに、目に見えるモノが全てと勘違いする奴等が憎い。それは両親に限らず先生にも、この社会に存在する人々、みーんな。

 僕は憎くて堪らないんだ。

 けれど、歪で僕よりも壊れている妹は大好きだ。だって、彼女は僕以外愛してくれる人がいないんだから、可哀想だろう?

 だから、僕だけは妹を愛してあげる。

 これから一生、ずっと、妹の世話をして、妹と愛し合って生きていくのだ。


 奇形は奇形同士仲良くしているのがお似合いなんだろうね。



 そんな奇形な僕らの日常。



終了です。

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