殺人
再び、連載開始。
グロ免疫がない方、ご注意です。
「お、お願い……殺さないで……」
女が大粒の涙を溢した。濃く塗られたマスカラが涙のせいで取れて、目元がパンダの様で気持ち悪かった。
だから殺した。なんて、嘘だけど。まだ殺してないよー。殺そうと思ってるけどね。
「どうっしよっかなー?」
「ひ、」
くるりと女の前でナイフを回すと、切れた口の端を震わせながら女は言葉にならない悲鳴を口にした。
ああ。僕の行動一つでこの女の生死が変わるこの状態に凄く興奮する。日常化しているがこの瞬間はいつも思春期の少年の様に胸が高鳴る。けど、それはホンの一瞬。もう、飽きた。
「僕、五月蝿い女嫌いなんだよねー」
回していたナイフをぴたりと止めて、握り直してから女の太股にーーザクリ、刺した。
女は突然の痛みに発狂したが、僕の先程の言葉を思い出して必死に溢れそうになる声を飲み込もうと歯を食い縛った。
あは、ウケる。なんって、無様なんだろう。そんな女を捨てた行動を見せてくれたから、殺さないであげる。……なんてことはないけど。
「さよなら三角、またきて四角ぅー」
刺したナイフを引き抜き、再度太股にザクリ。でも一度だったらつまらない。ザクリ、ザクリ、ザクリ。発狂して、泡吹いて、泣いて、暴れて、懇願しようと止めずに刺す、刺す、刺す。
「~~~ッッ!!!! ……」
ふと、手を止めた。もう女は反応しない。下腿から腹部にかけて真っ赤に染まったまま、生気を失っていた。項垂れた頭からは表情は伺えない。
「もう壊れたのかー……弱っちいの」
これだから女は嫌いだ。喚いて、すぐ死んで、楽しいとこ何もない。あ、でも。と、昨日殺した女のことを思い出した。
いつもの様に誰かを殴って気を失わせてから監禁して、じんわり殺してやろうとか考えながら僕は夜の街を探索していた。
中々お目当ての、苛めがいがありそうな奴が見つからなくてボンヤリ街の明かりに視線を流していると、女の嫌がる声が聞こえた。
まさか、僕以外にもこの街で殺人する奴がいるのか。と、少し苛立ちと不安を覚えながら、その声の方を見ると暗い路地に連れ込まれそうになっている女を見つけた。
こんな派手で明るい街に不釣り合いな陰気な雰囲気の女で、長い黒髪と眼鏡が印象的だったからつい女を見ていると目が合った。
『タスケテ』
視線で僕に訴える女。いつもだったらそんな女なんて助けもせずに、他の標的を探そうとするのだが、今日は違った。何故か僕の足はその女の元へ向かっていた。
しかし、と足を止める。僕は今まで殺人は何度となく行ってきたけど、他人が殺人をしているところは見たことない。なら、これは新しい性癖を探る、絶好のチャンスじゃないのか?男が女を殺したのを確認したら、その男を殺せばバレないし。
「たす、けて……」
弱々しい女の声。ゾクリ、鳥肌が立った。そして下半身も同様に反応する。
良いな。この女を苛めたらどんなに楽しいんだろう。どんなに興奮するんだろう。あの男に殺させるのは勿体ない。
すると、僕の足が命令せずとも動き出して、二人の前に出てしまったから、何か良い言葉はないかと模索する。
「あーい、あむあひーろー、でーす」
ジュバッという自前の効果音と共にヒーローのポーズをする。僕が登場してからずっと、男は自分のモノを女に入れようとしてた状態で止まっていた。
「なにそれ。息子が風邪引いちゃうからしまいなよ」
思わず本気で引きながら、モノを握ったままの男から離れようとしたら男に腕を掴まれた。おい、ちょ、ま、その手はモノを握った手ではありませんか??
「お前、逃がす訳ないだろ」
聞き覚えのある金属の擦れる音を鳴らし、男はナイフを取り出した。まあ、モノにしかりナイフにしかり小ぶりのがお好きな様で。あ、モノは元から小さいのか、ごっめーん。と、言うのは可哀想だから止めてあげた。感謝しろ。
「僕も狙った獲物は逃がさないタイプなんでね」
男が訳分からないといった風に首を傾げた瞬間に、ポッケの中のナイフを取り出し、男の反応より早く先に切った。
首元を狙った僕のナイフは見事命中し、男は綺麗な血飛沫をあげてぶっ倒れた。てんてんと、飛沫の一部が僕の服につく。血は綺麗だけど鉄臭くなるのがいただけないんだよな。
「……ありがとうございます」
彼女もまた血飛沫の一部を浴びていて、白い肌に深赤がよく映える。見てるだけで、凄く、興奮してしまう。
あれ。ふと、不思議に思う。この女は目の前で人が死んで、しかも殺した相手が目の前にいるというこの状況で何故冷静でいられるのだろうか。
疑問は残るが気にせず僕は女に近づいた。命の恩人がいきなり自分に切りかかってきたら、女は顔をして泣くんだろう。どちらにしろ殺される運命だったと理解した時に、どんな表情で逝くんだろう。
想像するだけでイッちゃいそうになる僕は相当イカれてるんだろうが、気にしない。今更なことだから。
ナイフを背中に隠しながら女に近づき、手を伸ばした。さすがに地面に座らせたまま殺すのは可哀想だという僕の紳士な配慮なのだが、女はそれに応じなかった。
「私も殺しますか?」
女は虚ろな瞳で尋ねた。
妙に死を拒んでいない態度が先程の疑問と同じ様に、僕の頭に引っ掛かる。殺人鬼を目の前にして余りにも女は冷静すぎる。
「殺してくれないんですか?」
納得した。女は死を拒まないどころか、死を望んでいた。死にたい。死ねない。なら、殺して下さいといったところであろうか。
殺人は好きだ。楽しいし何よりも興奮出来るから、どんなオナニーよりも気持ちよくなれる。だが、それは相手が死にたくないと渇望してる場合に限る。死にたがりを殺すのなんて簡単すぎて興奮しないし、困る。
「殺して、下さい」
女は目を伏せた。
何だよ、その人任せな言い方は。死は自分で決めるもんじゃないだろう。他人に決められ終わらされることに意義があるんだというのが僕の持論。じゃないと、こんなに殺人をするのに良心が邪魔してやれねーよ。
小さな怒りと共に、奇妙な欲求も沸いてきた。殺したい。女を泣かせたい。死にたがりに死にたくないと言わせたい。……よし、僕が殺してあげる。
「いーよ。その代わりちゃーんと、僕を悦ばせてね」
女に刺した。始めは肩に。しかし女は歯軋りをするだけで、泣かない。泣かせたい。ザクリ。次は太股に。女は息を荒くさせながらも、歯軋りで耐える。ついには口から血が吹き出ている。ザクリ、ザクリ。
「奥までしっかりと加えこんでやらしいのぉ」
返事はない。やらしくないわと言われ待ちしていたのに、ガッカリだ。けれども痛みに耐えているその表情がそそる。
今まで女を殺した時に入れたいと思ったことはなかったのだが、この女だと僕の下半身は温いところに入れてくれと騒ぎ出す。
グジュリ、水温をたてて腹部を切り裂いた。ついに女は白目を向き、泡を吹き出した。ヤバい。もうそろ逝くな。
開いた腹から見える赤黒い内蔵。綺麗だ。思わず手を伸ばして触れると、女は目を激しく開けた。痛かったのか、と手を離す前に女は先ほどまでの形相が嘘かの様に穏やかな顔になって─。
「壊れた、か」
呆気なくて、脆い。今回程、人間が脆いことを悲しんだ日はない。もっと強かったらもっと刺して楽しんだのに。
もったいないなあ。ボンヤリと空を眺めて、僕は涙を流した。汚い涙は体温を失っていく女にかかって、落ちる。落ちて、見えなくなる。
こうやって涙がかかることで死んだ人が生き返る、みたいな漫画読んだことがあるが、現実そうはいかない。
もしも生き返ってきたらもう一度優しく殺してあげるよ。お互いに楽しめる様にね。と、冷たい彼女に触れて笑った。
はーあ。あの女だけは殺さなければ良かったと殺人鬼としては有り得ない発想に笑った。
目の前に横たわる女を蹴って、僕はまた夜の街へ返る。殺すために、泣かすために、気持ちよくなるために。
そんな、殺人鬼の僕の日常。
これで、終わりです。次もあるかもしれませんが。




