第7話 魔力修行、開始!
魔獣との死闘も、最後はあっけなく幕を閉じた。
俺たちがおびき寄せた魔獣どもに、王子の放った魔法が炸裂。すべての魔獣が黒い球体に吸い込まれ、どこかへ消えてしまった。
「なんや今の魔法。ブラックホールかいな」
早乙女は、王子の魔法に唖然としているが、俺は肩で息をしながら自分の拳を見つめていた。
「はあ……はあ……」
熱い。
身体を駆け巡っていた不思議な力が、まだじんじんと残っている。
早乙女も思い出したように、
「そや! 今の攻撃、なんやったん? アンタの拳、メッチャ光っとったで!」
「自分でも分からん……」
俺だって混乱している。
拳が光っただけでなく、身体の奥底からとんでもねぇ力が湧き上がってきたんだから。
だが王子は微笑みながら、
「今のは魔力による身体強化ですよ」
「魔力……だと?」
「魔力は魔法を放つためだけのものではありません。全身に巡らせれば、先ほどのリリアナのように身体能力そのものを引き上げることもできます」
「ていうか俺、魔力なんか持ってたのか」
「もちろんです。リリアナからは膨大な魔力を感じます」
「俺にはよく分からねぇが……これでどうにか戦える!」
以前ほどではねぇけど、最低限の力は手に入った。
ギュッと拳を握りしめると、
──だが、早乙女が余計な一言を放った。
「魔法のプリンセス! 女の子の憧れっ!」
「はあああ!? い、嫌な言い方やめろよ。せっかくの気分が台無しだぜ」
せっかく番長としてのプライドを取り戻したのに、魔女っ娘みたいに言われたらガックリきちまう。
だが王子は早乙女を見つめて、
「レイカ、キミにも膨大な魔力を感じます」
「え……ウチも?」
「そもそも、魔境メディオーラの森で平然としていられるのは、強い魔力を持っている証。普通の人間なら魔力に蝕まれ、さっきのような魔獣になるか、命を落とします」
「……うそお!」
早乙女が口を開いて唖然とする。
「じゃあ、コイツも同じ技が使えるのか?」
「もちろんです。二人とも訓練次第で、もっともっと強くなれます」
王子は真面目な顔でうなずいた。
「それに呪文を覚えれば、僕のように魔法も使えるようになります」
その瞬間、早乙女の目が輝いた。
「ウチも魔法が使えるんかっ!」
そしてメリケンサックを天へ突き上げた。
「魔女っ子レイカちゃんの誕生やぁ!」
「お前、順応早すぎだろ……」
「ウチ、魔女っ娘アニメが昔から好きやってん! こんなん喜んで当然やん!」
「次々とカミングアウトしていくな、お前」
「そやった喋りすぎた。今の話、黒崎に会おても絶対言うたらあかんで」
「お、おう……」
本人を前に、恥ずかしい秘密を次々と暴露していく早乙女。
俺が黒崎だと知ったら、どんな顔をするのか楽しみだ。クックック……
――じゃねえ!
俺の正体がバレたら末代までの恥。
切腹待ったなしだった……orz
「よっしゃ! ウチも修行して新必殺技を編み出したるで!」
「やめとけって。どうせ変な名前をつける気だろ。ゴージャスパンチとか」
「名前やったら、もう決めてるで」
「もう決めてんのかよ!」
早乙女は拳を突き上げノリノリで叫んだ。
「ラブリープリンセス・ナックルや!」
「ダッセェ……」
「なんで? ええ名前やん」
「必殺技なら、もっと気合いの入った名前にしろよ」
「ええやろ別に。ウチの勝手やんか。それよりアンタの必殺技の名前……メガトンパンチやったっけ?」
「そうだ。気合の入ったいい名前だろ!」
「それ、ウチの宿敵の黒崎の必殺技と同じ名前やけど、なんでなん?」
「ギクーーーッ! い、いや……強そうな名前だから偶然被ったんだろ」
「ホンマかなあ……」
「ラ、ラブリープリンセス・ナックル! さ、最高に強そうだな!」
「そやろ! リリアナもやっぱり女の子やなあ。この良さが分かるんや!」
「そうそう、俺は女の子。その黒崎とかいう最強無敵の男じゃないからな! 絶対に勘違いするなよ!」
◇
その後、王子に魔力の作り方と、全身に巡らせるコツを伝授してもらった。
「熱い! さっきみたいに、身体が熱くなってきたぞ……!」
「一度でも魔力を発動できれば、あとは繰り返し練習するのみです。ではその状態で歩いてみましょう」
「どれどれ……おおっ! 身体が羽根みたいに軽くなった!」
「……ウチ、全然できひんわ。どないしたら魔力が作れんの?」
「魔力は個人差が強く、自分に合った方法を探すしかありません。気長に試してみることですね」
「ふーん、じゃあそうする」
準備を整え、再び森を歩き出した俺たちだったが、さっきとは比べものにならない速さで進めるようになった。
「すげぇぞ王子! 身体が軽い! 空まで飛べそうだ!」
「かなりコツを掴みましたね。ですが気をつけてください。魔力が切れると、本当に身体が動かなくなります」
「ガス欠だな。気をつけよう」
早乙女も魔力を引き出そうと必死だったが、まだコツは掴めていないらしい。
「苦労してるようだな、ウシシシ」
「別にええねん。ウチ、好物は最後に食べるタイプやし、ボチボチ行くわ」
「なるほど、ふむふむ。じゃあ早乙女の皿のものは俺が先に食ってやるか」
「はあ!? そんなことしたら、たとえ姫さんでも容赦せえへんで!」
「分かった分かった! だからその凶悪なオーラを引っ込めろ!」
食い物の恨みは恐ろしいと言うし、コイツの好物を横取りするのはやめておこう。
そんな俺たちだったが、少し気になることもあった。
「やっぱ、くせぇな……」
自分の匂いに顔をしかめる。
そう。
全身、血と汗まみれ。
シャドーウルフの返り血が、純白だった寝間着にべっとりとこびりついている。
早乙女のセーラー服も血だらけで、王子のマントも真っ赤っかだ。
「どこかで身体を洗いたいですね」
王子が苦笑する。
「川が流れてれば、ええねんけどな……」
そんな感じで注意深く進んでいると、どこからか水音が聞こえた。
「川……? ちょっと行ってみよう!」
三人で音のする方へ向かう。
木々の間を抜けると、その先には小さな泉が湧いていた。
透き通った水面は木漏れ日を反射し、キラキラと輝いている。
「温泉ちゃうか!」
「ホントだ。なんか湯気が出てるな」
王子は泉の周囲をぐるりと一周し、安心したように微笑んだ。
「魔物の気配もありません。ここで身体を洗いましょう」
「やったあ!」
「では最初にリリアナ、その次がレイカ」
「よっしゃ、一番風呂だ!」
その瞬間、俺の頭に警報が鳴り響いた。
「いや、ちょっと待て……」
そう。
俺は今、姫だった。
つまり服を脱げば、女の裸が見えちまう。
たとえ自分の身体でも、男たるもの絶対に見るわけにはいかねぇ。
ましてや触るなんて、もってのほか。
「どうしたんですか、リリアナ?」
王子が不思議そうに首をかしげる。
「い、いや……どうやって風呂に入ろうかと。うーん……」
額に汗を浮かべながら、必死に考える。
そして――出した結論は、
「……早乙女」
「なんや?」
「頼みがある」
早乙女も不思議そうに首をかしげる。
俺は意を決して、口を開いた。
「……俺の身体を洗ってくれ」
「別にええで」
「え……いいのか?」
早乙女がまた少女マンガを取り出した。
「ほら、見てみい」
「どれどれ?」
「リリエールが風呂に入るシーンや。侍女が背中を流してはるやろ」
「……本当だ」
「だから安心してええで!」
早乙女がビシッと親指を立てる。
「ウチはアンタの侍女やから、キレイキレイにしたるわ」
「お、おう……スマンな」
こうして俺は、早乙女に身体を洗ってもらうことになった。




